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22 杉さんと青木さん
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だいぶ支店に慣れてきた私柳千代子です。近藤さんの教え方がいいので、とても楽しく仕事ができています。
「あっこれ、総務に持って行ってくれる?」
「はい」
近藤さんに渡された書類を持って一階に降りていきました。一階に着いた時です。どこからかひそひそ声が聞こえました。気になってちらりと声の方を見ると、一階の廊下の端にある非常階段のところに人影が見えました。背の高い人と特徴ある巻髪が見えます。青木さんと杉さんでしょうか?
一瞬気になって聞き耳を立ててしまった時です。
「青木さん、付き合ってもらえませんか?」
杉さんの声が聞こえました。私はなんだか聞いてはいけない気がしてその場を走って去りました。でも先ほど聞こえてきた杉さんの言葉が頭の中でこだましています。ツキアウ? つきあう? 付き合う?
えっ___‼
杉さん告白をしていたのでしょうか? しかも仕事中に! 私は、ぼんやりしたまま総務に行きました。
「あっこれ、お願いします」
「ありがとう」
総務の桧垣さんが書類を受け取ってくれました。そして検針部あての書類を渡してきました。
「どうかした?」
私はどんな顔をしていたのでしょう? 桧垣さんは書類を渡してきた後、何だか心配そうに私に聞いてきました。
「なんだか顔色が悪いわよ。大丈夫? 調子悪いの?」
「えっ、何でもないです。すみません」
「そう? 何かあったら近藤さんに言うといいわよ」
桧垣さんの言葉を背中に聞いて私はまた自分の席に戻っていきました。
「ありがとう」
近藤さんが声をかけてくれました。
「はい。届けてきました」
私は普通に言ったつもりでしたが、近藤さんは何を思ったのか私の顔をよく見ています。
「何かあった? 顔色がよくないみたい」
「いえっ、何でもありません。大丈夫です」
私は近藤さんに笑顔を向けたつもりでしたが、近藤さんは心配そうな顔をしました。私は、ちらりと青木さんを見ました。青木さんは席にもうついていて普通に仕事をしています。たぶん非常階段から戻ってきたのでしょう。そういえば先ほどまで社用車でどこかに行っていましたね。
私がちらりと視線を投げた先を近藤さんは見逃しませんでした。近藤さんも青木さんをちらりと見ます。その視線に気が付いた青木さんがこちらを見ました。私は、急いで視線を下に落としました。だからこの後近藤さんと青木さんの気遣うような視線には気が付きませんでした。
家に帰ってからも杉さんの言葉が耳から離れませんでした。
「どうかしました?」
久美ちゃんが、帰ってきた私を怪訝な顔で見ています。
「ううん。何でもないよ」
久美ちゃんはいつまでも私の顔をじっと見ています。
「久美ちゃん、お茶が飲みたい!」
思いっきり久美ちゃんに甘えてみました。なんだか甘えたい気分です。
「すぐにお持ちしますね」
私は部屋に戻って、ソファに座ってぐったりとしました。しばらくたってドアを開ける音と、紅茶のおいい香りが漂ってきました。
「どうぞ」
久美ちゃんが紅茶をテーブルに置きました。いい香りです。私の前に久美ちゃんも座ります。久美ちゃんは何にも聞かずに自分も紅茶を飲みました。
「ねえ久美ちゃん。今日ね、会社である人達が一緒にいるところを見ちゃったんだ。しかもその時告白していたところだったの。お付き合いしてくださいって。私すごく気になっちゃったんだけど、これってもしかして私、その人の事好きなのかなあ?」
「そうですね。その場合もありますが、ただお二人のうちの一方に罪悪感があったり、ちょっとやましいことがあった時にも、その人の事が気になるものですよ。もしかしたら、お二人のうちの一方にそのような感情があったのではないですか?」
「ああ、一人の方にあったかも。二人のうちの一人が、私の代わりを務めてくれている人だったんだ。そうか、そうだったのか。ありがとう久美ちゃん。久美ちゃんに聞いてみて良かった。私ある人の事、好きになっちゃったのかもって勘違いしちゃった」
「いいえ、どういたしまして」
私は、久美ちゃんに聞いて少しざわついていた心が穏やかになりました。そうだったのですね。確かに私、杉さんにはちょっと罪悪感を感じていたんです。近藤さんたちが私と青木さんをくっつけようと努力してくれているのを間近で見ていたので、私もそんな気になってしまったんですね。
でも正直もし好きになっちゃって、漫画の千代子のように猪突猛進したらどうしようって、ちょっといやずいぶん怯えていたんですよね。
あ~あ、よかった。いくら好きになっても、やっぱり漫画のように相手の事も考えず突き進むのは嫌ですよね。
まさかこの時、私のほっとした顔とは対照的に、久美ちゃんが悪い笑みを浮かべていたとはついぞ知りませんでした。
翌朝会社に行くと、近藤さんや桧垣さんに心配されました。嬉しいですね。心配してくれる人たちがこんなにいて。私は幸せ者です。
「大丈夫です。昨日ちょっと体調悪くなったんですが、今は元気です」
「そう? 具合が悪くなったら遠慮なくいってね」
「そうよ。気を使わないでいってね」
「ありがとうございます」
「そうそう。青木君も心配していたわよ」
昨日なら青木さんという名前が出たらドキッとしたと思いますが、今日は何とも思わず聞くことが出来ました。よかったです。でも席に着いたら、一応お礼を言っておきましょうかね。
「あっこれ、総務に持って行ってくれる?」
「はい」
近藤さんに渡された書類を持って一階に降りていきました。一階に着いた時です。どこからかひそひそ声が聞こえました。気になってちらりと声の方を見ると、一階の廊下の端にある非常階段のところに人影が見えました。背の高い人と特徴ある巻髪が見えます。青木さんと杉さんでしょうか?
一瞬気になって聞き耳を立ててしまった時です。
「青木さん、付き合ってもらえませんか?」
杉さんの声が聞こえました。私はなんだか聞いてはいけない気がしてその場を走って去りました。でも先ほど聞こえてきた杉さんの言葉が頭の中でこだましています。ツキアウ? つきあう? 付き合う?
えっ___‼
杉さん告白をしていたのでしょうか? しかも仕事中に! 私は、ぼんやりしたまま総務に行きました。
「あっこれ、お願いします」
「ありがとう」
総務の桧垣さんが書類を受け取ってくれました。そして検針部あての書類を渡してきました。
「どうかした?」
私はどんな顔をしていたのでしょう? 桧垣さんは書類を渡してきた後、何だか心配そうに私に聞いてきました。
「なんだか顔色が悪いわよ。大丈夫? 調子悪いの?」
「えっ、何でもないです。すみません」
「そう? 何かあったら近藤さんに言うといいわよ」
桧垣さんの言葉を背中に聞いて私はまた自分の席に戻っていきました。
「ありがとう」
近藤さんが声をかけてくれました。
「はい。届けてきました」
私は普通に言ったつもりでしたが、近藤さんは何を思ったのか私の顔をよく見ています。
「何かあった? 顔色がよくないみたい」
「いえっ、何でもありません。大丈夫です」
私は近藤さんに笑顔を向けたつもりでしたが、近藤さんは心配そうな顔をしました。私は、ちらりと青木さんを見ました。青木さんは席にもうついていて普通に仕事をしています。たぶん非常階段から戻ってきたのでしょう。そういえば先ほどまで社用車でどこかに行っていましたね。
私がちらりと視線を投げた先を近藤さんは見逃しませんでした。近藤さんも青木さんをちらりと見ます。その視線に気が付いた青木さんがこちらを見ました。私は、急いで視線を下に落としました。だからこの後近藤さんと青木さんの気遣うような視線には気が付きませんでした。
家に帰ってからも杉さんの言葉が耳から離れませんでした。
「どうかしました?」
久美ちゃんが、帰ってきた私を怪訝な顔で見ています。
「ううん。何でもないよ」
久美ちゃんはいつまでも私の顔をじっと見ています。
「久美ちゃん、お茶が飲みたい!」
思いっきり久美ちゃんに甘えてみました。なんだか甘えたい気分です。
「すぐにお持ちしますね」
私は部屋に戻って、ソファに座ってぐったりとしました。しばらくたってドアを開ける音と、紅茶のおいい香りが漂ってきました。
「どうぞ」
久美ちゃんが紅茶をテーブルに置きました。いい香りです。私の前に久美ちゃんも座ります。久美ちゃんは何にも聞かずに自分も紅茶を飲みました。
「ねえ久美ちゃん。今日ね、会社である人達が一緒にいるところを見ちゃったんだ。しかもその時告白していたところだったの。お付き合いしてくださいって。私すごく気になっちゃったんだけど、これってもしかして私、その人の事好きなのかなあ?」
「そうですね。その場合もありますが、ただお二人のうちの一方に罪悪感があったり、ちょっとやましいことがあった時にも、その人の事が気になるものですよ。もしかしたら、お二人のうちの一方にそのような感情があったのではないですか?」
「ああ、一人の方にあったかも。二人のうちの一人が、私の代わりを務めてくれている人だったんだ。そうか、そうだったのか。ありがとう久美ちゃん。久美ちゃんに聞いてみて良かった。私ある人の事、好きになっちゃったのかもって勘違いしちゃった」
「いいえ、どういたしまして」
私は、久美ちゃんに聞いて少しざわついていた心が穏やかになりました。そうだったのですね。確かに私、杉さんにはちょっと罪悪感を感じていたんです。近藤さんたちが私と青木さんをくっつけようと努力してくれているのを間近で見ていたので、私もそんな気になってしまったんですね。
でも正直もし好きになっちゃって、漫画の千代子のように猪突猛進したらどうしようって、ちょっといやずいぶん怯えていたんですよね。
あ~あ、よかった。いくら好きになっても、やっぱり漫画のように相手の事も考えず突き進むのは嫌ですよね。
まさかこの時、私のほっとした顔とは対照的に、久美ちゃんが悪い笑みを浮かべていたとはついぞ知りませんでした。
翌朝会社に行くと、近藤さんや桧垣さんに心配されました。嬉しいですね。心配してくれる人たちがこんなにいて。私は幸せ者です。
「大丈夫です。昨日ちょっと体調悪くなったんですが、今は元気です」
「そう? 具合が悪くなったら遠慮なくいってね」
「そうよ。気を使わないでいってね」
「ありがとうございます」
「そうそう。青木君も心配していたわよ」
昨日なら青木さんという名前が出たらドキッとしたと思いますが、今日は何とも思わず聞くことが出来ました。よかったです。でも席に着いたら、一応お礼を言っておきましょうかね。
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