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かん子の研修所生活 その7
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いっぽう正也といえば、汚れたスーツを着替え携帯電話で一成に事情を説明した。一成は他の社員たちと別な会場で夕食をとっていた。
「そうか。お前の大事なかん子ちゃんは、大丈夫なんだな?あの女もまさかあんなとこでやっちゃってくれるとはね~。はっはっは」
「笑い事じゃない」
正也の声はぞ~とするほど冷ややかだった。
「お前さ~。怒るのはわかるけどあんまりやりすぎるなよ。こうなったのはお前の責任でもあるんだからな。はじめに忠告しただろ?研修なんだからそばにいくなって」
「あ~あ。だけど顔見ると止められないんだ」
正也の声には自嘲の響きがあった。
「かん子ちゃんは、これから一緒に働く仲間でもあるんだから、今日のことをいかしてお前ももっと行動に気をつけろよ。それにしてもかわいそうだなかん子ちゃん。おまえにほれられたばっかりに。はっはっは」
一成は笑いが止まらないらしい。
「うるさい!笑うな。こうなった以上、かん子は俺が絶対に守るさ!誰にも何もさせない!」
正也は自分に言い聞かせるように言うと、電話を切った。そしてまた会場へと戻った。
会場に着くと、正也の姿を見るなり敦彦、吉岡、小林の三人がかけてきた。
「どうだった?かん子ちゃん!」
敦彦がすかさずきいてくる。
正也は本気でかん子のことを心配している敦彦に、一瞬むっとしたが答えた。
「大丈夫みたいだ。いま五条さんと高月さんがついてくれている。それよりあいつらは?」
正也の目が鋭くなり、周りを見渡す。
「おいおい、物騒なこと考えるなよ。もうあいつらには笹瀬君が十分すぎるほどお仕置きしてあるから」
正也の考えを見透かしたように、吉岡が言った。
「そうそう。正也がかん子ちゃんを連れてっちゃうから、あいつらには一言いっておいたよ。かん子ちゃんはぼくが介抱したかったのにさ~」
笹瀬敦彦は、ひとりまだぶつぶつ文句を言っていた。本当にかん子の介抱をしたかったらしい。
「見ているほうがひやひやしたよ。あんまり笹瀬君がすごいからさ。日頃王子してるからあんな顔みたら誰でも怯えるって」
「本当だよ。あの子たち卒倒しないかってさ。反対にちょっと同情しちゃうぐらいの勢いだったもんな」
吉岡が言った。小林もさっきの敦彦の様子を思い出したのか、体をぶるっとふるわせながら言った。
「あんなやつらに同情なんていらない」
正也はすっぱりと言い切ると、ホールの隅にいる寿々子たちのほうに向かった。
寿々子たちはさっきの敦彦の言葉にまだおびえていた。ここから出て行きたくても足がすくんで動かない。それに周りの視線はとても冷たい。
「さっきはいろいろしてくれたようだな」
上からまわりを一瞬で凍らせてしまうような冷たい声がした。
見上げればこれまた一切感情がない冷笑をふくんだ顔が、寿々子たちを見下ろしている。
寿々子は悟ってしまった。本当に正也は怒っている。パーティーで見かけて以来、正也を見れば付きまとっていた。うるさがられてはいたが、こんな表情をした正也を見たことがない。もっと近づきたくて一緒の会社に入った。研修先もコネで一緒にしてもらった。自分を見てもらおうとしたが、なぜか研修先の正也の隣には、いつも同じ女がいた。しかも正也はいつもその女を見ている。いやその女だけを。自分も正也だけを見ていたからわかる。
しかもその女を見つめる目が、自分には向けられたことのないまなざし。
それに正也だけでなく、王子と呼ばれている御曹司笹瀬敦彦までがあの女を見ている。
許せなかった。その女が憎らしかった。
ただその女はいつも仲間と一緒にいた。今日のパーティーでやっとひとりになった女を見つけた。
この女をどうにかしてやりたい。
気づいたら女を倒していた。みれば女は床に這いつくばっていて、スーツはよごれている。
それを見たときたまらなくうれしくなった。この女にはお似合いだ。
正也にはふさわしくない、そう思うとその女に罵声を浴びせていた。
しかし笹瀬敦彦に冷たいことをいわれ、今も正也にこれ以上ないぐらいの冷たい目で見られている自分がいる。
「藤乃かん子に近づくな。これ以上何かしてみろお前たちを絶対許さない。あと俺の前にも二度と顔を見せるな。不愉快だ」
正也は、そう言い放つと去っていった。
寿々子の周りにいた三人も唖然としている。
これで自分たちは終わったと思った寿々子たちだった。
「そうか。お前の大事なかん子ちゃんは、大丈夫なんだな?あの女もまさかあんなとこでやっちゃってくれるとはね~。はっはっは」
「笑い事じゃない」
正也の声はぞ~とするほど冷ややかだった。
「お前さ~。怒るのはわかるけどあんまりやりすぎるなよ。こうなったのはお前の責任でもあるんだからな。はじめに忠告しただろ?研修なんだからそばにいくなって」
「あ~あ。だけど顔見ると止められないんだ」
正也の声には自嘲の響きがあった。
「かん子ちゃんは、これから一緒に働く仲間でもあるんだから、今日のことをいかしてお前ももっと行動に気をつけろよ。それにしてもかわいそうだなかん子ちゃん。おまえにほれられたばっかりに。はっはっは」
一成は笑いが止まらないらしい。
「うるさい!笑うな。こうなった以上、かん子は俺が絶対に守るさ!誰にも何もさせない!」
正也は自分に言い聞かせるように言うと、電話を切った。そしてまた会場へと戻った。
会場に着くと、正也の姿を見るなり敦彦、吉岡、小林の三人がかけてきた。
「どうだった?かん子ちゃん!」
敦彦がすかさずきいてくる。
正也は本気でかん子のことを心配している敦彦に、一瞬むっとしたが答えた。
「大丈夫みたいだ。いま五条さんと高月さんがついてくれている。それよりあいつらは?」
正也の目が鋭くなり、周りを見渡す。
「おいおい、物騒なこと考えるなよ。もうあいつらには笹瀬君が十分すぎるほどお仕置きしてあるから」
正也の考えを見透かしたように、吉岡が言った。
「そうそう。正也がかん子ちゃんを連れてっちゃうから、あいつらには一言いっておいたよ。かん子ちゃんはぼくが介抱したかったのにさ~」
笹瀬敦彦は、ひとりまだぶつぶつ文句を言っていた。本当にかん子の介抱をしたかったらしい。
「見ているほうがひやひやしたよ。あんまり笹瀬君がすごいからさ。日頃王子してるからあんな顔みたら誰でも怯えるって」
「本当だよ。あの子たち卒倒しないかってさ。反対にちょっと同情しちゃうぐらいの勢いだったもんな」
吉岡が言った。小林もさっきの敦彦の様子を思い出したのか、体をぶるっとふるわせながら言った。
「あんなやつらに同情なんていらない」
正也はすっぱりと言い切ると、ホールの隅にいる寿々子たちのほうに向かった。
寿々子たちはさっきの敦彦の言葉にまだおびえていた。ここから出て行きたくても足がすくんで動かない。それに周りの視線はとても冷たい。
「さっきはいろいろしてくれたようだな」
上からまわりを一瞬で凍らせてしまうような冷たい声がした。
見上げればこれまた一切感情がない冷笑をふくんだ顔が、寿々子たちを見下ろしている。
寿々子は悟ってしまった。本当に正也は怒っている。パーティーで見かけて以来、正也を見れば付きまとっていた。うるさがられてはいたが、こんな表情をした正也を見たことがない。もっと近づきたくて一緒の会社に入った。研修先もコネで一緒にしてもらった。自分を見てもらおうとしたが、なぜか研修先の正也の隣には、いつも同じ女がいた。しかも正也はいつもその女を見ている。いやその女だけを。自分も正也だけを見ていたからわかる。
しかもその女を見つめる目が、自分には向けられたことのないまなざし。
それに正也だけでなく、王子と呼ばれている御曹司笹瀬敦彦までがあの女を見ている。
許せなかった。その女が憎らしかった。
ただその女はいつも仲間と一緒にいた。今日のパーティーでやっとひとりになった女を見つけた。
この女をどうにかしてやりたい。
気づいたら女を倒していた。みれば女は床に這いつくばっていて、スーツはよごれている。
それを見たときたまらなくうれしくなった。この女にはお似合いだ。
正也にはふさわしくない、そう思うとその女に罵声を浴びせていた。
しかし笹瀬敦彦に冷たいことをいわれ、今も正也にこれ以上ないぐらいの冷たい目で見られている自分がいる。
「藤乃かん子に近づくな。これ以上何かしてみろお前たちを絶対許さない。あと俺の前にも二度と顔を見せるな。不愉快だ」
正也は、そう言い放つと去っていった。
寿々子の周りにいた三人も唖然としている。
これで自分たちは終わったと思った寿々子たちだった。
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