【完結】陽キャの俺がデスゲームで死ぬわけがない

とおる

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第3話 俺はお前を殺す

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〈前回までのあらすじ〉
 デスゲーム”なんでもバスケット”に巻き込まれた一也たち二年一組は、早くも秀の代表者カウントにリーチがかかっていた。「俺のことを好きでも嫌いでもないやつ」という一也が考案した曖昧なお題によって、秀を恨んでいるであろう井上が今、代表者になろうとしていた。



 井上修司しゅうじ。釣り目で髪がぼさぼさの生徒会のやつ。俺はこいつのことをよく知らない。かろうじて名前は覚えていたくらいだ。何を考えているか分からないやつだとは思っていたが、秀にあんな態度をとれるとは。よほど真鍋に特別な感情があったのか?

 ぼーっとただその場に立つ井上に、俺と秀は目を見合わせて固唾を呑んだ。席を得ることができなかった金城きんじょうが井上を見つめている。井上が退いて金城が座れば、代表者は井上になってしまう。

 ピピピピピピピピピ

 時計の警告音が鳴った。誰かが嘘をついていると判定されたのだ。

「あー、やっぱりだめか」

 警告音が鳴っているのは井上だった。

「この腕時計をつけている限り嘘はつけない、か」

 井上が不気味に口角を上げながら、椅子にもう一度座り直す。良かった。想定通り井上を立たせないことに成功した。俺と秀はまた目を見合わせて今度は胸を撫で下ろした。

「あ、今、井上が立たなくて良かったって安心した?」

 井上が秀に話しかける。

「心配しなくてもお前は死ぬ。馬鹿だから。それにお前は真鍋さんに呪われた。どれだけ人に助けられたところで、お前はもう地獄に行くって決まってる……」

 井上は陰湿な目つきで秀を睨んだ。

「きめぇ……死ぬのはてめぇだっつの……」

 秀が余裕ぶって言い返すが、顔が引きつっている。

 一方で、金城の代表者タイマーはスタートしている。足元の死体を悲しげな表情で見ている。

「みんな、聞いて欲しいの! 真矢はこんなゲームやりたくないし、これ以上犠牲者を増やすべきじゃないよ。だから……このゲームをできる限り遅く進行して、助けが来るのを待ちたいの」

 金城真矢まや。確かオーストラリアかどっかのクォーターで、まあまあ美人。ブラウンのさらさら髪がいかにも良さそうな育ちを表している。俺の好みではないけど……。おっとりしていて陰キャの女どもにも優しいし、男子の中でも可愛いって話はたびたび出ている。実家が金持ちらしいけど、あいつ、来る高校を間違えたと思う。

「ゲームを遅く進行するってどういうこと?」

 茉衣が疑問をぶつける。

「真矢たちはみんな二回までここに立っても大丈夫でしょ? だからまず一人ずつここに立って、代表の人は二分ぎりぎりまで待ったら信頼できる人を指名して交代していくの。そうやってまず三十……三十三回それを繰り返せばそれだけで一時間以上も時間を稼げるよね? それでもう一周すれば二時間以上は誰も犠牲者を出さなくていいの!」

 金城はこのゲームに向いている人間ではないが、向いていないからこその案に、少し納得してしまった。ここは学校の敷地内。二時間もすれば誰かが様子を見に来るはず……。いや、来なければおかしい。他のクラスも防災訓練をやっているはずだ。この二年一組だけが新校舎から帰ってこないのを誰も気づかないわけがない。

「なるほどね……。それ、悪くないかも……」

 茉衣もああ見えてこのゲームにだいぶびびっているのだろう。金城の案には賛成のようだ。

「わ、私も賛成ですっ! こんな怖いゲーム、まともに続けちゃだめだよみんな……」

「そうだよ。このままだと犯人の思う壺だよ」

 金城が勇気を出して訴えかけたことで、金城を慕う女子どもが声を上げ始めた。まだ正常な判断ができているやつは大勢いるみたいだ。残り時間が迫る。

「ねぇ、真矢ちゃん。何かまるで実那のことはなかったことにしてるみたいだね」

 金城に噛みついたのはいづみだ。

「いづみちゃん! そんなつもりじゃないよ! 実那ちゃんが死んでしまったのは悲しいと思ってるよ……」

「悲しいと思ってる、ね」

 いづみは乱れた短い髪を直そうともせず、どこかやつれたようにみえる。

「何かごめんね! 時間ないからとりあえず一回目、代表になってくれる人いますか?」

 金城はいづみの話を一旦無視してゲームを進行させた。

「はい! 私、やります」

 一番に手を挙げたのは堀切ほりきりだった。

「和花! ありがとう」

 堀切和花のどかが指名されて代表者となった。陸上部のマネージャーで、金城に似て良い子ちゃん。一緒にいるのをよくみかける。秀はいつも堀切の胸を目で追いかけている。

「えと、ここから、二分ぎりぎりまで待てばいいんだよね」

 その一回二分を差し出す協力の流れがうまく連なっていけばゲームはどんどん引き延ばされ、これ以上の死者を出さなくて済むかもしれない。ただ、このクラスのやつ全員がそれに協力するとは限らない……。

「そんなことしても無駄だ……。どうせ戦うしかない。助けなんて来ない」

 また陰キャデブがぼそぼそ喋り出した。

「牛田くん! 諦めちゃだめだよ! みんなで協力すればきっと先生とかが助けに来てくれるって!」

 堀切が呼んだことでやっと名前が分かった。あいつ、牛田うしだだ。堀切は牛か豚かも見分けがつかないような陰キャにも優しい。

「俺は協力しない。デ、デスゲームでそんな綺麗ごとが通じるわけない!」

 気持ちの悪い喋り方だ。堀切の所まで唾が飛んだんじゃないか?

「そんな! お願い。牛田くんの力も必要なの」

 牛田は顔を見ただけでしばきたくなるのだが、堀切も堀切だ。あんな豚は放っておけばいい。堀切や金城がいるグループはどうも好きになれない。良い子なのは分かるが、俺たちのグループとはそりが合わない。

「おい、牛田」

 低い声でその名前を呼んだのは壮人だった。

「な、何だよ」

「せっかくみんなが協力しようとしてんのに、お前は助かりたくないのか?」

「い、いや、俺だって助かりたいけど……。デスゲームでそんなの、通じるわけないっていうか」

 堀切への反抗的な態度はどこへいったのか。牛田が急にしどろもどろになった。つくづくださいやつだ。

「お前、人が亡くなっているこの状況をまだ”ゲーム”だって言ってんのか? いい加減にしろ!!!」

 壮人の野太い声が部屋に響く。牛田は縮こまって何も言わなくなってしまった。

 鐘淵かねふち壮人。ラグビー部。たぶんこのクラスで喧嘩をして勝てるやつはいない。あまりふざけたことはしないタイプだが、ノリは悪くない。妙に正義感が強い所があるから悪ノリしすぎると注意されることがある。

「……牛田くん。もう一度よく考え直してみて」

 堀切は下を向いて黙ってしまった牛田にそう言い残すと、二分が経つ前に新田にったと交代した。

「私の次に代表者やってくれる人、いますか?」

 新田は真ん中に立ち、最初にそう言った。男女数人が手を上げ、新田が誰にするか円を見回した。

「私さー」

 急に口を開いたのはいづみだった。

「牛田のデスゲームって言葉は確かに気に食わないけど、かと言ってこの引き延ばし作戦には同意できないかな」

「どうして?」

 すぐさま反応したのは金城だった。

「見て。実那のこと」

 いづみは優しい眼差しで仰向けになった真鍋の死体を見つめる。直視できるやつは少なった。俺も見たくはない。

「もう死んだのにまだ苦しそうな顔してる。実那を殺したのは一体誰? このゲーム? あの腕時計? ……違うよ。実那はね、人に殺されたんだよ。私さ、このゲームいい機会だと思うんだよね。私たちが助かるにしろ、助からないにしろ、復讐をするには最高のチャンスだよ」

 いづみの眼差しが一変した。

「私が犯罪をしなくても消えて欲しいやつを消せるんだもん」

 その目は秀を捉えて離さない。

「そんなことしたら、このゲームの犯人と同じになっちゃうよ!」

 金城が必死にいづみを止めようとする。

「蒲生。友達を失くして動揺してるのは分かるがそれは間違ってる」

 壮人もいづみに言って聞かせた。

「蒲生さん、あんた頭どうかしちゃったわけ? やめてよ、変なこと考えんの」

 茉衣も便乗してきた。あまり煽るのはよくない。

 蒲生がもういづみ。俺は興味のないやつの名前を全然覚えていないのだとつくづく実感している。いづみ……蒲生のことを警戒してはいたが、どうやら想像以上に危険なようだ。真鍋の恨みを全部背負ったような目つきで秀を睨んでいる。

 確かに、このゲームを利用して秀を殺したいのであれば引き延ばし作戦などに協力するはずはない。もし助けが来てゲームが終わってしまえば、真鍋や蒲生の思いは遂げられないままになる。あくまで真鍋はゲームのルールに従って殺されているだけだ。秀が殺したわけじゃない。

 しかし別に引き延ばし作戦には乗ったふりをして、しれっと自分の番が回って来るように仕向けることもできたんじゃないのか? いや、それはないか。秀と俺がグルだってことは蒲生も分かっている。もし蒲生が代表者になりそうな展開が来れば俺は止めるし、俺のグループのやつら、そして金城たちだって黙ってはいないだろう。蒲生はわざとこのタイミングで自分の意思を明確に示してきているのか?

「晶子ちゃん?」

「……何?」

 蒲生が静かに新田のことを下の名前で呼んだ。

「次は私を指名してよ?」

「だ、だめだよ……」

 新田は後ずさりして蒲生から距離を取る。

「どうして?」

「だって……いづみちゃんは……」

 後ずさりした新田のかかとに、真鍋の死体が微かに当たっている。

「何?」

「いづみちゃんは……」

 新田がちらっと残り時間を確認した。もうすぐ二分になってしまうのだろう。

「新田!!! 絶対に蒲生を指名するな! 分かるだろ!?」

 俺は戸惑う新田に声を上げた。ここで蒲生が代表者になったら秀は終わりだ。

「もし晶子ちゃんが今私を代表者にしてくれないなら晶子ちゃんのことも狙うから。井上とかにも協力してもらってさ。晶子ちゃん、あとカウント二つで死ぬんだよ。私を選んでよ。あ、別に代わりに殺してくれるなら谷塚のこと指名してもいいよ。それが本望だから。私か谷塚のこと選んでくれたら晶子ちゃんには何もしないよ。ね、どうする?」

「そんな……」

 新田の時計の画面が見えた。残り十秒ほど。

「新田! 惑わされるな! 他のやつ選べ!」

 俺は初めて”新田”と名前を呼んだ。新田晶子あきこ。高一の時も同じクラスだったから覚えていた。黒縁眼鏡のブス。もし選択を間違うようなら、絶対俺はお前を殺す。



〈カウント2〉
 谷塚秀

〈カウント1〉
 金城真矢
 新田晶子
 堀切和花

 残り34人
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