13 / 31
第11話【草加茜編】アイスパーティー
しおりを挟む
でけー花火が最後に上がって、真っ暗な空に戻った。くそまずかった玉せんの味がまだ口ん中に残ってやがる。
「ちょー綺麗だったねー」
紗綾が言った。
「それなー?」
凜華が反応する。
「しゃっ、帰るかー」
楓馬が歩き出すと、他の先輩らも歩き出した。
「茜!」
楓馬が右手を私に向けてきた。手を繋ぐ時、楓馬はいつもそうしてくる。
「こん後カラオケ行こ」
やっぱりな、と思った。どっかに遊びに行った後はだいたいカラオケ。
「楓馬やってんなー」
「お前カラオケ行っても歌ってねーだろ」
楓馬が友達にいじられている。
「うっせー。歌ってっし」
「茜ー、楽しんでー!」
紗綾が後ろから半笑いで声をかけてきた。
駅前の一番やっすくてボロいカラオケ。それがうちらのいつもの場所。時間は一時間で、歌うのは最初の十五分とか。
「ねむ」
楓馬はパチモンのハイブラキャップを取ってマイクの横に置いた。スウェットの後ろポケットから財布と煙草、ライターを取り出して、キャップと並べた。
「こっち来いよ」
私が近くに寄ると、肩に手を回してきた。
「泰河とかに変なことされなかった?」
泰河先輩は一個上で楓馬の友達。祭りに来てた先輩らのうちの一人。
「されてない」
「そっか。茜は俺んもんだから。茜んことは俺が守る」
「ありがと」
さらに強く抱き寄せられて、顔に楓馬のネックレスが顔に当たって冷たい。体温で熱い白シャツから香水と汗、楓馬の匂いがする。
「しゃぶって」
私は抱き寄せられてるその時間だけでいつもいいと思う。楓馬がどんだけ優しい時も、最後に言うのは「しゃぶって」とか「なめて」ばっか。そんな会うたびに毎回、猿かよって思うけど嫌そうにしたら「俺のこと好きじゃないん?」とか言って機嫌悪くなる。だるすぎ。でも楓馬のこと嫌いとかじゃない。好きだけどこういうのばっかは無理。
隣の部屋で歌ってる曲聞いたことあるなーとか、夏休みあと何日だろとかいつも別のこと考えてやり過ごす。今日はすぐ終わって良かった。
「ねー、昨日やっぱあの後ヤったの?」
次の日の夕方、紗綾と凜華とコンビニで合致した。アイスとか唐揚げ買ってイートインで駄弁るのがうちらのルーティン。
「まーな。いつもの感じ」
紗綾は「やばっ」とか言っていつも喜んでる。
「てか付き合ってどんくらいだっけ?」
凜華がチョコバー片手に聞いてくる。
「もうじき八ヵ月かな」
「もうそんななるんだー。あっ、クリスマスん時だったもんね」
「ねー、てかさ泰河先輩いるじゃんー?」
紗綾がまた嬉しそうに何か話そうとしている。
「昨日ヤッた」
「えっ、マジ?」
凜華が驚くと、紗綾は手を叩いて爆笑しだした。
「祭りの後さー、話してたら家近くて来る? って言われて」
「ちょー、詳しく聞かせろよー」
凜華もそういう話が大好きだ。
親の離婚で母親とアパートに住むようになった私は、地元の中学からちょっと離れた高校に進学した。誰も知らねーし、良い子ちゃんばっかに見えて、友達できなさそうって思ってた。でも同じクラスだった紗綾が話しかけて来て仲良くなって、紗綾とおな中だった凜華ともつるむようになった。
二人はおな中だった先輩らと仲良くて、その先輩らの友達ともうちらは仲良くなっていった。そこで出会ったのが楓馬。私がもし楓馬と別れたら先輩らとも気まずいし、紗綾たちに話すのもめんどい。あの子らはしょーみセックス大好きだし、他の先輩らとヤりまくってるっぽい。けど私には分からない。あんま真剣な話とかすることないし、楓馬のことも相談しにくい。たぶん分かってくれないし。セックス=好き、なのか? 愛するためにはセックスしなきゃいけないのか? あー、うぜえ。こんなことごちゃごちゃ考えてられっか。
一人で考えてるうちに夏休みは終わった。始業式の後、楓馬からメッセージが届いてた。
“今日カラオケいこ”
正直だるかった。久々に登校して死にかけてんのに窒息するっつーの。体調悪いとか言って断ろうか。でも学校で会ったら終わりだし。
“ごめ 体調悪いから早退する”
“だいじょーぶ??? 俺もいっしょにかえろっか?”
“へーき 明日には治ってるやつだから ありがと”
そういうわけでスクバ背負って四時間目終わりにとっとと帰ることになった。
「あれ、茜帰るの?」
桃波に気づかれて声をかけられた。
「帰る」
「さぼり? 今日お弁当持ってきてたよね? お昼一緒に食べようよ」
「あー、ちょっと、彼氏がさー」
「何か悩んでんの?」
おせっかい桃波は何かと私を気にかけているみたいで、心配してくれる。まあ、つるんでる友達の柄はぶっちゃけ良くないし、その気持ちは分からないでもない。
「桃波ー、食堂行くよー」
茉衣が桃波を呼んでる。
「先行っててー」
「分かったー。じゃ後で―」
楓馬に見つかるとやばいから、あんま人のいない階段下で桃波と食べることになった。風は気持ち良いけど、桃波が座るにはちょっと汚い場所。
「こんなとこで悪い」
「全然。話聞かせて」
桃波とは別にいつもベタベタ一緒にいるわけじゃねーけど、だから逆に話しやすかった。それに、桃波はそんな男好きとかでもなさそうだし、話を分かってくれる気がして、ここ最近一人でうじうじ考えてたこと全部話せた。桃波は黙って私の話を聞いてくれた。
「なるほどね。でも別れたいわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「じゃあ話してみるしかないんじゃない? 素直な気持ちを」
「別れたくねえから言いづらいんだよ。もし関係悪くなったら、元々紹介してくれた紗綾と凜華とも気まずいし」
「何か、意外だね。茜ってそういうの気にするんだ」
「当たり前だろ!? 私を何だと思ってんだよ」
「ごめんごめん。でもいざって時は覚悟しないとダメかもね。その彼氏なら」
「もしそうなったら楓馬ただのヤリ目じゃねーか……」
私が膝を抱えると、桃波がくっついてきた。
「もし嫌な目にあっちゃったら、うちでアイスパーティーしようよ!」
「アイスパーティー?」
「そう! みんなでアイスいっぱい買ってきて、山ほどアイス食べるの!」
「うわ、腹壊しそ~」
「中学の時、それでトイレ奪い合いになったことある!」
桃波がフフフって上品に笑うから、私もつられて小さい声で笑った。
「まあそのー、紗綾ちゃんと凜華ちゃん? その子たちと仲良くするのも大事だけど、茜の居場所はそこだけじゃないよ。クラスの、あたしたちは茜のこと結構気にしてるんだからね」
「……そうか。……そうだな」
二年になって桃波を初めて見た時、気取ったモデルみたいだって思ってぶっちゃけ仲良くなれないと思った。でも桃波は気さくで、全然私みたいになやつにもビビらずに接してくれる。
一つの場所に縛られる必要ない。そう分かると、楓馬にも素直に自分の気持ち話せる気がしてきた。もちろん楓馬とかあいつらとも仲良くやっていけたらいいけど、アイスパーティーはちょっとだけ、面白そう。
「五時間目、どうする? 防災訓練らしいけど」
授業始まる十分前。桃波が聞いてきた。
「んー、まあ、数学よりマシか……」
それで私と桃波は教室に一旦戻ってから、新校舎の視聴覚室に二人で向かった。
あの時、そのまま早退してりゃ良かった。
“なんでもバスケットで遊ぼう!”
こんなクソに巻き込まれるくらいなら、楓馬とカラオケ行ってる方が百倍マシだった。ガチで普通に人が死んでく。死体がどんどん増えてく。昼休みまで顔見てたやつが青くなってくたばってる。助けなんて来ねえ。扉は開かねえ。くっさい死体。胸糞悪ぃ連中。
もう楓馬にも紗綾にも凜華にも会えねえかもしれねえ。アイスパーティーも開けねえ。茉衣は死んだ。桃波も下手したら死ぬ。クソだ。こんなゲーム作ったやつマジでクソだ。
「そっかー。え、これさ、今、武里くんとか指名したら武里くん死んじゃうってことだよね?」
代表になった村本が何かほざいてやがる。
「おい、絶対やめろよ」
一也も桃波も、みんなもう死にかけで必死だ。
「いやいやいや。さすがにそれはやばい、よねー?」
村本といい、蒲生も井上も、何でこんな根暗なきもいやつばっかなんだよ、うちのクラスは。
「じゃあ、お題言います」
村本のお題は私が所属する”ぶどうチーム”だった。もう数人しか残ってねえぶどうチームが走り出す。村本が目の前の席を奪い、他の場所も一つ、二つ埋まる。
「くそっ」
たかが四つしかねえ席は秒で埋まった。そして私はとうとう代表者になっちまった。
ぐるっと円を見回してみる。全員の目がこっちに向いてるってちょっと気持ち悪ぃ。そんな中で桃波と目が合う。あいつは何か申し訳なさそうにしながら顔を逸らした。まあ、色々あったし無理もない。でもその色々はうちら二人に別に関係ない。茉衣のこと今は悲しんでる暇もないし、もう起こったこと全部わけ分かんねえけど、私の望みは変わんない。
「東、お前、どこチーム?」
強がる気持ちが思わずドスのきいた声になった。
「え、みかんチームだけど……」
東がちょっとビビってる。
「じゃあお題は――」
「ちょっと待って!」
お題を言いかけたとこで後藤がでけー声で私を止めた。
「今、お題みかんチームにしようとしたっしょ!? ダメだよー。もう俺ら全員リーチかかってるし!」
「俺らって?」
「俺と、圭一と劉弥!」
「死にたくねえのにいつまでも同じチームで群れてんのが悪ぃだろ」
「俺らは三人で生き残るって決めてるからさ! 草加さんも別に俺らを殺してまで圭一の席に座りたいわけじゃないっしょ?」
まあ、ゲームつっても自分の選択で人が死ぬのは後味が悪ぃ。思わずため息が出る。
「じゃあよ、黒井は? どこチーム?」
「いちご……」
「カウントは?」
「二」
うまくいかねえ。私はただ桃波と……。
「茜、もしかして桃波と同じチームに入ろうとしてるのか?」
一也が私の考えを見透かしてきた。そう、東と黒井は桃波の両隣。
「だったら何?」
「いや。りんごチームへは入らないのかなと思って」
「りんごチームに入る理由ないし」
「そうか……」
一也が残念そうにしてる。
「お前も俺らと関わりたくないんだな」
秀も何かほざいてる。
「お題!」
もう雑音が聞こえねえようなでけー声で言ってやった。
「男子!」
東とか、黒井とか、みかんチームの今後とか、りんごチームとか、一也とか、秀とか、全部どうでもいい。ごちゃごちゃ考えるのダルすぎ。うるせーやつは全員動けや。
私はただ桃波と生き残って、アイスパーティーしてえだけなんだよ!
中村永人、死亡。
〈死亡〉
中村永人
〈カウント2〉
井上修司
鐘淵壮人
黒井泰人
後藤篤史
小林劉弥
武里一也
谷塚秀
野村悠
東圭一
蒲生いづみ
千住桃波
津田めぐみ
西川千夏
村本玲
若林陽奈
〈カウント1〉
木村寛大
姫宮希空
矢田優斗
草加茜
新田晶子
堀切和花
〈カウント0〉
牛田拓郎
梅島京助
残り23人
〈現在のチーム編成〉
りんご
新田晶子 牛田琢朗 梅島京助 武里一也 谷塚秀
いちご
千住桃波 黒井康人
みかん
村本玲 後藤篤史 小林劉弥 東圭一
ぶどう
草加茜 堀切和花 井上修司 矢田優斗
ばなな
津田めぐみ 木村寛大 野村悠 姫宮希空
無所属
蒲生いづみ 西川千夏 若林陽奈 鐘淵壮人
「ちょー綺麗だったねー」
紗綾が言った。
「それなー?」
凜華が反応する。
「しゃっ、帰るかー」
楓馬が歩き出すと、他の先輩らも歩き出した。
「茜!」
楓馬が右手を私に向けてきた。手を繋ぐ時、楓馬はいつもそうしてくる。
「こん後カラオケ行こ」
やっぱりな、と思った。どっかに遊びに行った後はだいたいカラオケ。
「楓馬やってんなー」
「お前カラオケ行っても歌ってねーだろ」
楓馬が友達にいじられている。
「うっせー。歌ってっし」
「茜ー、楽しんでー!」
紗綾が後ろから半笑いで声をかけてきた。
駅前の一番やっすくてボロいカラオケ。それがうちらのいつもの場所。時間は一時間で、歌うのは最初の十五分とか。
「ねむ」
楓馬はパチモンのハイブラキャップを取ってマイクの横に置いた。スウェットの後ろポケットから財布と煙草、ライターを取り出して、キャップと並べた。
「こっち来いよ」
私が近くに寄ると、肩に手を回してきた。
「泰河とかに変なことされなかった?」
泰河先輩は一個上で楓馬の友達。祭りに来てた先輩らのうちの一人。
「されてない」
「そっか。茜は俺んもんだから。茜んことは俺が守る」
「ありがと」
さらに強く抱き寄せられて、顔に楓馬のネックレスが顔に当たって冷たい。体温で熱い白シャツから香水と汗、楓馬の匂いがする。
「しゃぶって」
私は抱き寄せられてるその時間だけでいつもいいと思う。楓馬がどんだけ優しい時も、最後に言うのは「しゃぶって」とか「なめて」ばっか。そんな会うたびに毎回、猿かよって思うけど嫌そうにしたら「俺のこと好きじゃないん?」とか言って機嫌悪くなる。だるすぎ。でも楓馬のこと嫌いとかじゃない。好きだけどこういうのばっかは無理。
隣の部屋で歌ってる曲聞いたことあるなーとか、夏休みあと何日だろとかいつも別のこと考えてやり過ごす。今日はすぐ終わって良かった。
「ねー、昨日やっぱあの後ヤったの?」
次の日の夕方、紗綾と凜華とコンビニで合致した。アイスとか唐揚げ買ってイートインで駄弁るのがうちらのルーティン。
「まーな。いつもの感じ」
紗綾は「やばっ」とか言っていつも喜んでる。
「てか付き合ってどんくらいだっけ?」
凜華がチョコバー片手に聞いてくる。
「もうじき八ヵ月かな」
「もうそんななるんだー。あっ、クリスマスん時だったもんね」
「ねー、てかさ泰河先輩いるじゃんー?」
紗綾がまた嬉しそうに何か話そうとしている。
「昨日ヤッた」
「えっ、マジ?」
凜華が驚くと、紗綾は手を叩いて爆笑しだした。
「祭りの後さー、話してたら家近くて来る? って言われて」
「ちょー、詳しく聞かせろよー」
凜華もそういう話が大好きだ。
親の離婚で母親とアパートに住むようになった私は、地元の中学からちょっと離れた高校に進学した。誰も知らねーし、良い子ちゃんばっかに見えて、友達できなさそうって思ってた。でも同じクラスだった紗綾が話しかけて来て仲良くなって、紗綾とおな中だった凜華ともつるむようになった。
二人はおな中だった先輩らと仲良くて、その先輩らの友達ともうちらは仲良くなっていった。そこで出会ったのが楓馬。私がもし楓馬と別れたら先輩らとも気まずいし、紗綾たちに話すのもめんどい。あの子らはしょーみセックス大好きだし、他の先輩らとヤりまくってるっぽい。けど私には分からない。あんま真剣な話とかすることないし、楓馬のことも相談しにくい。たぶん分かってくれないし。セックス=好き、なのか? 愛するためにはセックスしなきゃいけないのか? あー、うぜえ。こんなことごちゃごちゃ考えてられっか。
一人で考えてるうちに夏休みは終わった。始業式の後、楓馬からメッセージが届いてた。
“今日カラオケいこ”
正直だるかった。久々に登校して死にかけてんのに窒息するっつーの。体調悪いとか言って断ろうか。でも学校で会ったら終わりだし。
“ごめ 体調悪いから早退する”
“だいじょーぶ??? 俺もいっしょにかえろっか?”
“へーき 明日には治ってるやつだから ありがと”
そういうわけでスクバ背負って四時間目終わりにとっとと帰ることになった。
「あれ、茜帰るの?」
桃波に気づかれて声をかけられた。
「帰る」
「さぼり? 今日お弁当持ってきてたよね? お昼一緒に食べようよ」
「あー、ちょっと、彼氏がさー」
「何か悩んでんの?」
おせっかい桃波は何かと私を気にかけているみたいで、心配してくれる。まあ、つるんでる友達の柄はぶっちゃけ良くないし、その気持ちは分からないでもない。
「桃波ー、食堂行くよー」
茉衣が桃波を呼んでる。
「先行っててー」
「分かったー。じゃ後で―」
楓馬に見つかるとやばいから、あんま人のいない階段下で桃波と食べることになった。風は気持ち良いけど、桃波が座るにはちょっと汚い場所。
「こんなとこで悪い」
「全然。話聞かせて」
桃波とは別にいつもベタベタ一緒にいるわけじゃねーけど、だから逆に話しやすかった。それに、桃波はそんな男好きとかでもなさそうだし、話を分かってくれる気がして、ここ最近一人でうじうじ考えてたこと全部話せた。桃波は黙って私の話を聞いてくれた。
「なるほどね。でも別れたいわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「じゃあ話してみるしかないんじゃない? 素直な気持ちを」
「別れたくねえから言いづらいんだよ。もし関係悪くなったら、元々紹介してくれた紗綾と凜華とも気まずいし」
「何か、意外だね。茜ってそういうの気にするんだ」
「当たり前だろ!? 私を何だと思ってんだよ」
「ごめんごめん。でもいざって時は覚悟しないとダメかもね。その彼氏なら」
「もしそうなったら楓馬ただのヤリ目じゃねーか……」
私が膝を抱えると、桃波がくっついてきた。
「もし嫌な目にあっちゃったら、うちでアイスパーティーしようよ!」
「アイスパーティー?」
「そう! みんなでアイスいっぱい買ってきて、山ほどアイス食べるの!」
「うわ、腹壊しそ~」
「中学の時、それでトイレ奪い合いになったことある!」
桃波がフフフって上品に笑うから、私もつられて小さい声で笑った。
「まあそのー、紗綾ちゃんと凜華ちゃん? その子たちと仲良くするのも大事だけど、茜の居場所はそこだけじゃないよ。クラスの、あたしたちは茜のこと結構気にしてるんだからね」
「……そうか。……そうだな」
二年になって桃波を初めて見た時、気取ったモデルみたいだって思ってぶっちゃけ仲良くなれないと思った。でも桃波は気さくで、全然私みたいになやつにもビビらずに接してくれる。
一つの場所に縛られる必要ない。そう分かると、楓馬にも素直に自分の気持ち話せる気がしてきた。もちろん楓馬とかあいつらとも仲良くやっていけたらいいけど、アイスパーティーはちょっとだけ、面白そう。
「五時間目、どうする? 防災訓練らしいけど」
授業始まる十分前。桃波が聞いてきた。
「んー、まあ、数学よりマシか……」
それで私と桃波は教室に一旦戻ってから、新校舎の視聴覚室に二人で向かった。
あの時、そのまま早退してりゃ良かった。
“なんでもバスケットで遊ぼう!”
こんなクソに巻き込まれるくらいなら、楓馬とカラオケ行ってる方が百倍マシだった。ガチで普通に人が死んでく。死体がどんどん増えてく。昼休みまで顔見てたやつが青くなってくたばってる。助けなんて来ねえ。扉は開かねえ。くっさい死体。胸糞悪ぃ連中。
もう楓馬にも紗綾にも凜華にも会えねえかもしれねえ。アイスパーティーも開けねえ。茉衣は死んだ。桃波も下手したら死ぬ。クソだ。こんなゲーム作ったやつマジでクソだ。
「そっかー。え、これさ、今、武里くんとか指名したら武里くん死んじゃうってことだよね?」
代表になった村本が何かほざいてやがる。
「おい、絶対やめろよ」
一也も桃波も、みんなもう死にかけで必死だ。
「いやいやいや。さすがにそれはやばい、よねー?」
村本といい、蒲生も井上も、何でこんな根暗なきもいやつばっかなんだよ、うちのクラスは。
「じゃあ、お題言います」
村本のお題は私が所属する”ぶどうチーム”だった。もう数人しか残ってねえぶどうチームが走り出す。村本が目の前の席を奪い、他の場所も一つ、二つ埋まる。
「くそっ」
たかが四つしかねえ席は秒で埋まった。そして私はとうとう代表者になっちまった。
ぐるっと円を見回してみる。全員の目がこっちに向いてるってちょっと気持ち悪ぃ。そんな中で桃波と目が合う。あいつは何か申し訳なさそうにしながら顔を逸らした。まあ、色々あったし無理もない。でもその色々はうちら二人に別に関係ない。茉衣のこと今は悲しんでる暇もないし、もう起こったこと全部わけ分かんねえけど、私の望みは変わんない。
「東、お前、どこチーム?」
強がる気持ちが思わずドスのきいた声になった。
「え、みかんチームだけど……」
東がちょっとビビってる。
「じゃあお題は――」
「ちょっと待って!」
お題を言いかけたとこで後藤がでけー声で私を止めた。
「今、お題みかんチームにしようとしたっしょ!? ダメだよー。もう俺ら全員リーチかかってるし!」
「俺らって?」
「俺と、圭一と劉弥!」
「死にたくねえのにいつまでも同じチームで群れてんのが悪ぃだろ」
「俺らは三人で生き残るって決めてるからさ! 草加さんも別に俺らを殺してまで圭一の席に座りたいわけじゃないっしょ?」
まあ、ゲームつっても自分の選択で人が死ぬのは後味が悪ぃ。思わずため息が出る。
「じゃあよ、黒井は? どこチーム?」
「いちご……」
「カウントは?」
「二」
うまくいかねえ。私はただ桃波と……。
「茜、もしかして桃波と同じチームに入ろうとしてるのか?」
一也が私の考えを見透かしてきた。そう、東と黒井は桃波の両隣。
「だったら何?」
「いや。りんごチームへは入らないのかなと思って」
「りんごチームに入る理由ないし」
「そうか……」
一也が残念そうにしてる。
「お前も俺らと関わりたくないんだな」
秀も何かほざいてる。
「お題!」
もう雑音が聞こえねえようなでけー声で言ってやった。
「男子!」
東とか、黒井とか、みかんチームの今後とか、りんごチームとか、一也とか、秀とか、全部どうでもいい。ごちゃごちゃ考えるのダルすぎ。うるせーやつは全員動けや。
私はただ桃波と生き残って、アイスパーティーしてえだけなんだよ!
中村永人、死亡。
〈死亡〉
中村永人
〈カウント2〉
井上修司
鐘淵壮人
黒井泰人
後藤篤史
小林劉弥
武里一也
谷塚秀
野村悠
東圭一
蒲生いづみ
千住桃波
津田めぐみ
西川千夏
村本玲
若林陽奈
〈カウント1〉
木村寛大
姫宮希空
矢田優斗
草加茜
新田晶子
堀切和花
〈カウント0〉
牛田拓郎
梅島京助
残り23人
〈現在のチーム編成〉
りんご
新田晶子 牛田琢朗 梅島京助 武里一也 谷塚秀
いちご
千住桃波 黒井康人
みかん
村本玲 後藤篤史 小林劉弥 東圭一
ぶどう
草加茜 堀切和花 井上修司 矢田優斗
ばなな
津田めぐみ 木村寛大 野村悠 姫宮希空
無所属
蒲生いづみ 西川千夏 若林陽奈 鐘淵壮人
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる