お客様はヤのつくご職業

古亜

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3章

26.花火大会と浴衣

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「ねえ、今度東野町で花火大会あるでしょ。あれ行かない?」
「いやいや、東野町はウチのシマですが、あの人混みに楓様を行かせるわけには……」

なぜか私が回答をする前に大原さんが返事をしていた。
美香が岩峰組のお屋敷に遊びに来ていて、ちょうど来ていた大原さんと昌治さんを交えて雑談をしていたのだけど、唐突に美香が近々開催される花火大会の話題を出した。

「誘えるの楓しかいないの……その日、ジジィ来るから」
「お爺さんが?」
「……一条会とドンパチしたとき、私も加わる条件があのジジィのお守りを1日することだったの」
「う……その節はごめん」
「だからって来いって言ってるわけじゃないよ?どうせなら色々買わせようと思ってその花火大会の祭りにしたんだけど、ジジィと2人きりはきつくて……頼めるの楓くらいだから」

最初はそんな約束はなかったことにしようとしていたけど、お爺さんの部下に泣き付かれて断れなかったらしい。

「ジジィは嫌いだけど、稲本とか……あ、ジジィの部下ね。その人達はまあ、巻き込むのは可哀想だから。楓の分も買わせるからさ」

そう言われてしまったら断れない。まあ花火大会自体は行きたいし、バイトも夜なら入ってないから行くことはできる。買い物は自分で出すからいいとして、問題は許可が下りないことだ。
それがわかっているのか、美香は私の横に座る昌治さんを見る。

「楓から目は離しませんし、ジジィにもそう言っておきます」
「私も……まだあのお祭り行ったことないので、行ってみたいです」

美香とお祭りに行きたいのはやまやまなので、私も一緒にお願いしてみる。
昌治さんは思案顔になった。

「まあ、岩峰のシマの祭りだから俺らも関わってるし、何も起きやしないとは思うが……」
「組員の配置はしやすいというか、テキ屋のいくつかは部下にやらせますが、結構混みますからねあの祭り」

ヤクザさんお2人の反応はよろしくない。
どうしても私を人混みに入れたくないらしい。過保護な気もするけど。
美香は少し悩んだあと、何か思いついたのか少し笑った。

「岩峰さんは、見たくないんですか?」
「花火か?俺は別に、毎年見てはいるからな」
「それじゃないです。楓の浴衣、見たくないんですか?」

美香は若干身を乗り出して昌治さんの方を見る。
え、そこ?と思ったけど……昌治さんが、私の方を見ながらわりと本気で悩んでいる?視線が刺さりまくってるんですけど。
浴衣だったら毎晩着てますよ?あまり珍しいものでもないと思いますが。

「ちゃんとした浴衣、何着かジジィに持ってこさせるので。私の見立てでよければ、全力で可愛く仕上げます」
「わかった」

即答する昌治さん。行きたいので突っ込みませんけど、人混み云々はいいんですか。あ、大原さんは微妙な顔をしてる。

「大原さんは……たこ焼きの屋台とか似合うと思います」
「人混み関係ないですよねそれ」
「まあ、ねじり鉢巻とかそれっぽい格好だったら堂々と歩いていても問題ないと思います」
「だからって……わかりましたよ。見張りをすればいいんでしょう?」

大原さんはやれやれとため息をついて頷く。
確かに、そういう格好なら大原さんはむしろお祭りの風景に溶け込むかもしれない。
交渉成立とばかりに、美香が計画を立て始めた。

「楓のバイトが終わるの4時半だっけ?そこから着替えて色々準備したら着くのは6時くらいか。花火大会には普通に間に合うね」
「会場までの送り迎えはどうするんです?」
「ジジィの部下が車回してくれるので、安全だと思います。帰りもちゃんとここまで楓を送り届けます」

美香のところの車と聞いて、あのトレーラーのような車を思い出した。
あの後、壊れた部分はきちんと修理されて車は岡山に戻っていき現役として活躍しているとのこと。あの車が現役ってどういうことだろう、というのは考えない事にする。

「昌治さんは、どうするんですか?」
「集まりには顔を出すから、会場には行くが……まあ、楓は柳の孫と楽しんでこい」

そっか。同じ場所にいるのに回れないのはちょっと寂しいなぁ。りんご飴とか買って帰ろうかな。昌治さんとはミスマッチな気もするけど、せっかくだしお祭り気分は味わいたい。

「気持ちだけで十分だ。代わりに、浴衣はちゃんと見せろよ」
「あ……はい」

そんなに面白い仕上がりにならないとは思うけど……そう思っていたら、視界の端で美香がにこにこ、というか微笑ましいものを見るみたいにしているのが見えた。
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