2 / 4
2
しおりを挟む
聖ルアンナ学院は中高一貫の私立学校だ。その高等部二年生の教室では古典の授業が行われていた。前の横長のモニタに大和と呼ばれていた遥か昔の時代の再現映像が流れ、ナレーションによって当時の状況が語られる。
私とミキティ、宏海を含む三十名の生徒はそれを黙って聞きながら気になったポイントを電子ノートに書いていくのだけれど、昨夜見たあの不思議な読み物の内容が頭をぐるぐると巡り、集中できずにいた。
「櫻井アユミさん。マイナス三ポイント」
「あ、すみません」
監視カメラによってうたた寝と判定された生徒は名前を呼ばれ、成績から点数が引かれていく。かつてはこういった手続きの全てが教師と呼ばれる資格を持った大人の個人判断で行われていたが、今はそれらの全てが機械化されていた。
緊張感を何とか持続させて授業を終えたものの、ランチタイムになっても私の心は何ともふわふわとしている。
「アユ殿、昼食はどこで取る予定でござる?」
「今日はパスしようかな……」
「え? あの食こそ人生の最高の楽しみの一つじゃと言っていた、アユ殿が?」
「ミキティ、それ大袈裟。あ、宏海。ちょっと」
「なぁに」
机に突っ伏していた彼女に声を掛け、私の方へと呼び寄せる。三人で肩を付け合うほどに接近すると、私は「昨夜のさ」と、普段なら絶対にこんな場所でしないことになっている話題を振ってしまった。
「アユ殿。やはりランチ、どこか別の場所で取りましょう」
「そ、そうね」
ミキティに促され、私は立ち上がる。彼女のややぽっちゃりとした腕が触れると、何故か激しい動悸がした。風邪でも引いてしまったのだろうか。
私はミキティにより掛かるようにその手に引かれながら教室を出た。
購買でそれぞれサンドイッチやおにぎりを買い込むと、いつものように古典文学研究会の部室に入る。幸運なことに学院では文化系の部活一つ一つに小さいながらも専用の部屋が当てられていた。
会議机二つと、パソコンが一台、それに物を置くように小型のキャビネットが一つあるだけで、シンプルなものだ。
私の右側にミキティ、左側に宏海と横並びに座り、それぞれにサンドイッチ、おにぎり、サラダパスタと頬張りながらも、
「どう?」
昨夜見たものについて、互いの意見を求めた。
「どう、と言われましてもねえ……NTR」
「暗号そのものが出てきても、それが何なのかズバリと書いてなかったのよね」
「そういえば畑毛殿の読んだものは絶滅した男性という種が出てくるストーリーだったとか」
宏海は私とミキティを見て、ただ頷いただけだ。
「ひょっとしてNTRは男性のことなのかしら。けど、私が見たものには出てこなかったし、絶滅した原因に関係ありそうな話も見なかったわ」
端的に云えば私が見たものは女性三人の関係の変化を描いたものだった。ただ、単純な変化ではなく、C奈によって誘導され、仕組まれたA子とB美の別離と、A子とC奈の接近だったことが私は気になっていた。
ミキティの本の内容は私のものとは違い、結婚した二人の女性から一人を奪うというものだったそうだ。それはミキティの片方の母に実際起こったことで、だからだろうか、彼女はあれを読んで以来、何となくいつものような明るさがない。
宏海の方はといえば、男性が登場するが、その男性と付き合っていた女性が男性の親友と事故的に性行為に及んでしまい、そこから関係がこじれて最終的には主人公の男性から親友に乗り換えてしまうというものだったらしく、私とミキティが見たものにはない謎の赤いマークが表紙に描かれていたそうだ。
「浮気や不倫と呼ばれるものとは、何か違うのでしょうか」
既にパスタを食べ終えた宏海が真面目な顔で訊いてくる。
「似ているようだけど、それならば浮気、不倫と書いておけばいい気がする。それにミキティの話では結婚関係が破綻しているから、それってもう浮気や不倫て段階じゃないような」
「それでは関係が破綻すること、もっと云えば関係を破綻させることがNTRでござるか?」
「それじゃあRはリレーション?」
「リレーションはいいセンいってそう」
私たちはRをリレーションと決め打って、残りのNとTに当てはまりそうなワードを探した。それぞれ端末で単語を検索したり、熟語や用語、略称に使われる英語を当たってみたが、サンドイッチが無くなっても何一つそれらしいものが見つけられなかった。
「また今夜も、行ってみませんか?」
そんな危険な提案を慎重派の宏海が提案したことに驚いたが、私もミキティも抗うことをしなかった。寧ろ、私自身、それを望んでいたからだ。
私とミキティ、宏海を含む三十名の生徒はそれを黙って聞きながら気になったポイントを電子ノートに書いていくのだけれど、昨夜見たあの不思議な読み物の内容が頭をぐるぐると巡り、集中できずにいた。
「櫻井アユミさん。マイナス三ポイント」
「あ、すみません」
監視カメラによってうたた寝と判定された生徒は名前を呼ばれ、成績から点数が引かれていく。かつてはこういった手続きの全てが教師と呼ばれる資格を持った大人の個人判断で行われていたが、今はそれらの全てが機械化されていた。
緊張感を何とか持続させて授業を終えたものの、ランチタイムになっても私の心は何ともふわふわとしている。
「アユ殿、昼食はどこで取る予定でござる?」
「今日はパスしようかな……」
「え? あの食こそ人生の最高の楽しみの一つじゃと言っていた、アユ殿が?」
「ミキティ、それ大袈裟。あ、宏海。ちょっと」
「なぁに」
机に突っ伏していた彼女に声を掛け、私の方へと呼び寄せる。三人で肩を付け合うほどに接近すると、私は「昨夜のさ」と、普段なら絶対にこんな場所でしないことになっている話題を振ってしまった。
「アユ殿。やはりランチ、どこか別の場所で取りましょう」
「そ、そうね」
ミキティに促され、私は立ち上がる。彼女のややぽっちゃりとした腕が触れると、何故か激しい動悸がした。風邪でも引いてしまったのだろうか。
私はミキティにより掛かるようにその手に引かれながら教室を出た。
購買でそれぞれサンドイッチやおにぎりを買い込むと、いつものように古典文学研究会の部室に入る。幸運なことに学院では文化系の部活一つ一つに小さいながらも専用の部屋が当てられていた。
会議机二つと、パソコンが一台、それに物を置くように小型のキャビネットが一つあるだけで、シンプルなものだ。
私の右側にミキティ、左側に宏海と横並びに座り、それぞれにサンドイッチ、おにぎり、サラダパスタと頬張りながらも、
「どう?」
昨夜見たものについて、互いの意見を求めた。
「どう、と言われましてもねえ……NTR」
「暗号そのものが出てきても、それが何なのかズバリと書いてなかったのよね」
「そういえば畑毛殿の読んだものは絶滅した男性という種が出てくるストーリーだったとか」
宏海は私とミキティを見て、ただ頷いただけだ。
「ひょっとしてNTRは男性のことなのかしら。けど、私が見たものには出てこなかったし、絶滅した原因に関係ありそうな話も見なかったわ」
端的に云えば私が見たものは女性三人の関係の変化を描いたものだった。ただ、単純な変化ではなく、C奈によって誘導され、仕組まれたA子とB美の別離と、A子とC奈の接近だったことが私は気になっていた。
ミキティの本の内容は私のものとは違い、結婚した二人の女性から一人を奪うというものだったそうだ。それはミキティの片方の母に実際起こったことで、だからだろうか、彼女はあれを読んで以来、何となくいつものような明るさがない。
宏海の方はといえば、男性が登場するが、その男性と付き合っていた女性が男性の親友と事故的に性行為に及んでしまい、そこから関係がこじれて最終的には主人公の男性から親友に乗り換えてしまうというものだったらしく、私とミキティが見たものにはない謎の赤いマークが表紙に描かれていたそうだ。
「浮気や不倫と呼ばれるものとは、何か違うのでしょうか」
既にパスタを食べ終えた宏海が真面目な顔で訊いてくる。
「似ているようだけど、それならば浮気、不倫と書いておけばいい気がする。それにミキティの話では結婚関係が破綻しているから、それってもう浮気や不倫て段階じゃないような」
「それでは関係が破綻すること、もっと云えば関係を破綻させることがNTRでござるか?」
「それじゃあRはリレーション?」
「リレーションはいいセンいってそう」
私たちはRをリレーションと決め打って、残りのNとTに当てはまりそうなワードを探した。それぞれ端末で単語を検索したり、熟語や用語、略称に使われる英語を当たってみたが、サンドイッチが無くなっても何一つそれらしいものが見つけられなかった。
「また今夜も、行ってみませんか?」
そんな危険な提案を慎重派の宏海が提案したことに驚いたが、私もミキティも抗うことをしなかった。寧ろ、私自身、それを望んでいたからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる