転生彼女の付き合い方

凪司工房

文字の大きさ
10 / 49
転生2

4

しおりを挟む
「君! 中は危険だから駄目だ! おい!」

 俺は消防士が制止するのを振り切り、下駄箱を抜ける。中はまだ煙が漂い、足元には砂のような細かな粒子が散らばっていた。スニーカーで歩くとざりざりとした心地で、俺はシャツの袖を軽く噛み、呼吸に気をつけながら階段に向かう。
 爆発だけなのか、それともどこかが燃えているのか、それもよく分からない。ただ大きな振動を感じたのはあの一度切りだったから、二つ三つと仕掛けてある可能性は低いと見てもいいだろうか。
 階段の踊り場で倒れている生徒がいた。同じクラスの細貝美和だ。確か今は副委員長を務めている、真面目さがその古式ゆかしい三つ編みにも出ている。

「大丈夫か」

 返事をしたようだったが声は出ていない。俺が抱き起こすと小さく咳き込み、それからレンズの割れた眼鏡から、その円な瞳を向けて言った。

「桂木さんたちが……」
「未央がどうかしたのか?」

 言葉を探すように俺を見ると、彼女は黙って首を横に振る。

「おい! 君!」

 背後から先程の消防隊員の声がした。

「彼女、お願いします!」
「君も要救助者なんだぞ!」
「お願いします!」

 細貝美和の体をゆっくりと置くと、俺は二階に駆け上がる。
 一階部分より更に煙が酷く、視界がほとんどない。

「おい! 誰かいるか!」

 別の消防隊員の声だ。一人だろうか。

「誰かいますか?」

 もう一人。
 教室に近づくと明らかに温度が上がった。机や壁に貼られた紙なんかが燃えているのだろう。それに壁紙も。妙な臭いが漂っている。
 天井は大きく開き、上へと煙が昇っている。微かに空は見えたが、放水の雨がどこからともなく降り注いでいて、とても見上げてなんていられない。

「そこにいるのは生徒か?」

 俺に呼びかけたのだ、と思った。けれど次の瞬間、

「おい、君、何を?」

 呻き声に続いて、倒れた重い音が聞こえる。

「どうした?」

 もう一人がそちらに寄っていくが、

「何だ? え」

 再度、重く倒れた音が響いただけだ。
 俺はこの場に異質な人間が潜んでいることを理解し、爆発現場ということだけでなく、緊張感を高めた。
 煙の奥を睨む。
 だがあまり長居はできない。姿勢を一度低くし、重く沈んでいる空気を吸い込むと、俺は一気に駆け出す。
 影があるのは分かっていた。
 教室の黒板の前だ。窓側は大きく破壊され、そちらにも煙が流れている。
 と、その影が突然発光した。
 あの夢で見た光とよく似た球状のそれは影と重なると、そのまま吸い込むようにして一度影を消し去り、それから風になった。不意の突風が、教室に漂っていた煙を一気にはらう。
 そこに立っていたのは、金髪の彼女だった。全裸ではない。足元までを覆う透けた紫色のローブをまとっていて、影になってその優美なスタイルが映っていた。ローブには腰の辺りまで大きくスリットが入っており、はためいたところから彼女の脚どころか大事な部分までが露出してしまいそうになっていたが、彼女に気にする素振りは見られない。その紅色をした大きな瞳を二つ、こちらに向け、口元に微笑を湛えている。

「君が、やったのか?」

 煙が晴れた二年五組の教室の、辛うじて残っている床の上に、何人もの生徒が倒れている。その中の一つ、窓際で落ちそうになっているのは猛田信春を思わせたし、一番前の席のところにうつ伏せになっているものは桂木未央を想像させた。ただシャツが飛び散り、下着が露出し、肌も赤く焼けただれてしまっていて、この場からでは判断はつかなかった。

「さあ」

 彼女は寂しげに、息を吐くようにそう答える。

「君がやったのかと、俺は尋ねている」

 俺は彼女をやや睨むようにして目線を向けつつ、ゆっくりと歩く。まずは窓際の猛田。背格好はそうだが、断定はできない。息はしていないし、脈も――ない。ガラス片を被っていたがその横顔は猛田としか思えなかった。
 続いて前の席の未央だ。必然、金髪の彼女との距離も縮まるが、彼女は何も答えないまま、ただこちらの動向を観察している。
 猛田より更に酷い状態だった。脈は当然感じられない。呼吸もしていない。顔は赤く焼け、未央かどうかと問われても確信をもって答えられない状態だ。それでも体型や倒れている位置からは、彼女だとしか思えなかった。

「悲しいですか」

 金髪の女性が問う。

「悲しいですよね」

 俺の沈黙を肯定と捉えたのだろう。彼女は続けてそう言うと、俺の前へと歩み出て、まるで今から抱き締めるのかと思うように両腕を広げた。

「あなたには力があります。もし望むのなら、まだやり直すことができる。どう、なさいますか」

 一つ一つの言葉を、まるで赤子にでも言い含めるかのようにして紡ぐと、俺に母性の塊のような優しい表情を見せ、小さく頷いた。
 最早その意味を理解しようとは思わなかった。ただ何かを“やり直せる”とすれば、神でも悪魔でも天使でも、それこそ名も知らぬ、誰かから姫様と呼ばれる金髪の女性でも良い。その願いを叶えて欲しい。
 だから俺はただ頷いた。

 ――ああ、頼む。

 その言葉に彼女はゆっくりと瞳を閉じて「分かりました」と唇を動かすと、続けてこう言った。

「我がマイロード」

 刹那、彼女を赤い光が包み込む。その胸の前で組んだ手に炎にも似た真紅の光が集約されると、それは大きな剣の形を成し、無言のまま、彼女はそれを振り上げ、俺目掛けて、躊躇ちゅうちょなく一気に振り下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

処理中です...