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第4章 炎都崩壊編
第22話 兵糧
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華雄軍を撃退して、一夜が明ける。
しかし、さすがに孫堅軍に蓄積された疲労はすぐには回復することはなかった。
「前線に復帰するにはもう少し時間がかかりそうだ」
孫堅の言葉に劉備は頷く。
「それは仕方ない。・・・文台、お前たちはこの梁県に待機して、滎陽に睨みをきかせてくれるだけで十分だ」
これは道中、簡雍から受けた説明を、そのまま話している。
「そうか。徐栄が挟撃を受ける懸念を持てばいいということか?」
「そういうことらしい」
これが曹操と簡雍が描く滎陽県攻略方法だった。
これで、おそらく背後の孫堅を警戒し、徐栄は兵を退く展開になるとのこと。
「補給の問題も俺の身内が何とかする。だから、まずは体力の回復に専念してくれ」
「何から何まですまない」
気にするなと笑った劉備は、自分の胸に手をあて、
「体だけじゃない。・・・まぁ、今は落ち着けるまでゆっくり休め」と、声をかける。
「分かっている。・・・が、すぐに戻れるようにはする。このままじゃ、大栄に顔向けできないからな」
そこに関羽が出立の準備ができたと劉備に告げにきた。
孫堅は関羽にも窮地を救ってもらった礼をする。
「それじゃ、俺たちは、滎陽県に戻る」
「ああ、洛陽で会おう」
再会を誓い、劉備たちは陽人を後にした。
荊州南陽郡魯陽県
袁術軍が駐屯する地に簡雍と張飛がやって来た。
反董卓連合の使者として面会を求めたが、随分と待たされる。
突然の訪問だったため、来訪の意図を検証しているのとその対応を検討しているのかもしれない。
しかし、そんなに時間をかけるほど、やましいことが多いのだろうか・・・
こちらとしては、孫堅軍への補給を再開してもらえればいいだけなのだが、変なところで勘ぐってしまう。
そんな考えを巡らせている内、袁術がやって来た。
派手な衣服で着飾っており、いかにも名門の御曹子らしい身なりだが、逆に言えばそちらに目がいき、当人の自体の印象は大分、薄くなってしまっている。
端的に言うと特徴が衣服にしかないのだ。
そこに袁紹との違いがあった。
「連合の使者が何のようだ?」
高圧的な言い方に名門らしさがにじみ出ているが、簡雍としては袁術の出方は織り込み済みである。
「孫堅殿との連携に関してお伝えしたいことがございます」
孫堅という名を聞いて、袁術の眉がかすかに動く。
「孫堅が何か言ってきたのか?」
「はい」
孫堅の名前への反応といい、この返答といい、やはり邪な事情で兵糧を止めていたのだろう。
「ふん。あいつが何を言ってきたか知らんが、全て戯言だ。相手にする必要はないぞ」
「いいえ、真摯な言葉でした。戯言などとは、決して決して・・・」
「私は名門、袁家・・・しかも宗家の血筋。その私の言より、孫堅を信じるというのか?」
自分の言い分を通そうと、段々、語気が強くなっていく。
それに伴い苛立ちも増しているようだ。
「しかし、これは袁術殿の信用にも関わるお話。そのような一方的なもの言いは、孫堅殿があまりにも哀れというもの」
「何が哀れだ。・・・兵糧は、あいつが敵に奪われたのよ。それを私に責任転嫁しているだけだ」
「兵糧?・・・兵糧とは、一体、何のお話でしょうか?」
簡雍は心の中で舌を出しながら、初耳という表情を袁術にみせる。
袁術は、もしや口が滑ったかと顔を真っ赤にしながら、口ごもった。
「で、では、孫堅は何と言ってきたのだ?」
その言葉に簡雍は姿勢を正した後、咳ばらいを一つ。
そして、孫堅殿の言葉を、そのまま伝えますと告げた。
「董卓への恨みは何一つないが、今、決死の覚悟で戦っているのは、上は国家のために賊を討ち、下は袁術殿との誼により、両家の発展を願えばこそである」
簡雍は感動した面持ちで目にうっすら涙を浮かべる演出も追加する。
さすがの袁術も思うところがあるのか、口を閉ざしうつむいてしまった。
「孫堅殿は、更なる連携の強化を望んでいるのでしょう」
「うむ。・・・・それは私も同じ気持ちだ」
袁術としては、もう、そう答えるしかなかった。
よく考えれば、そんなこと連合軍を通して話してくるわけがないことに気づくはずだが・・・
会話の主導権を簡雍に握られ、袁術の頭はそこまで回らなくなっていた。
「おりしも、今、袁術殿から兵糧という言葉がでましたが・・・」
「・・いや、・・それは・・・」
そこを蒸し返されると、なんと話していいか分からず、袁術はしどろもどろになっている。
「実は袁紹殿から、このような割符を預かっております」
「割符とな?」
そういって袁術に渡したのは、兵糧の管理を担当する役職の任官指示だった。
「袁紹殿は盟主という立場ですが、それ以上に重要な全軍の兵糧の管理を袁術殿に任せたいとお考えです」
「本初が・・・私に?」
「はい。その通りです」
袁術は、そもそもこの反董卓連合の盟主が同族の袁紹であることが面白くなかった。
同じ袁家であっても、自分の方が血筋は上だという自負があったからだ。
そこに李儒の息がかかった人間の讒言があり、連合軍内における自身の処遇に不満を溜める。
更には同盟を結んだものの田舎武者である孫堅が予想以上に活躍するので、半分、八つ当たりで意図的に補給を止めたのだった。
李儒の間者が、そうするよう誘導したのだが、理由としてはまことに勝手な話。
しかし、袁術の持論では、名門の自分より目立った孫堅が悪いのだ。
孫堅にしてみれば、たまったものではない。
「この歴史上、類の見ない大連合において兵糧の管理を任せられるのは袁術殿、ただおひとり」
「うむ。・・・そうであるな」
「袁術殿が担当される以上、滞りなく補給線は保たれると諸侯、みな安心しております」
とりあえず、持ち上げるだけ持ち上げると、袁術は上機嫌となる。
「私が担当する以上、補給の心配はせずともよい。皆にそう伝えてくれ」
「かしこまりました」
簡雍は平伏しながら、したり顔をする。
これで、曹操に頼まれた役目は無事終了だ。
役目を終えた簡雍は、張飛とともに袁術の陣営を後にする。
本陣を出た直後、生い茂る草むらが動いた。
「誰だ」
張飛が素早く、反応すると、茂みとは別のところから騎馬に乗った将が現れた。
「すまない。伝達が遅れた・・・気にしないでくれ」
その将校が、何やら指示すると草むらから十人ほどの槍を持った兵士が出てくる。
そして、袁術の本陣へと帰って行った。
「伝達が遅れた?」
張飛が訝しんで、丈八蛇矛をその将に突きつける。
「益徳さん。きっと、我々が袁術さんにとって都合の悪い使者だったら、ここで消すつもりだったんですよ」
「・・・まぁ、その通りだが・・・その命令は撤回された」
「何だと!」
殺すつもりだったけど、止めたから、気にしないでくれ。
簡単に言えば、そうだが、それで納得するような張飛ではない。
「面白れぇ。止めなくていいから、かかってこい」
その将校は、紀霊と名乗り、それは命令違反となるので、できないと謝罪する。
「何なら、私の首をもっていっても構わない」
そこまで、言われると、さしもの張飛も矛を収めるのだった。
簡雍は、もとより気にしていないので、諍《いさか》いは丸く収まる。
「感謝する」
紀霊は二人に礼を述べると、代わりといっては何だが、一つ忠告したいことがあると言ってきた。
最近、呂布という猛者が董卓についたという。
見たところ、張飛も相当、強そうだが、この呂布の強さは異常なので、関わらない方がいいとのことだった。
「そいつは、どんな奴だ?」
そこまで言われるとがぜん興味がわく張飛は、紀霊に情報を求めた。
「身の丈が一丈あって、弓の名手。赤兎馬という名馬を駆っているそうだ」
「身の丈、一丈?」
何か思い当たる節があるのか、張飛の顔が険しくなった。
「ひょっとして、黄色い襟巻をまいていないか?」
「よく知っているな。その通りだ」
張飛の体がワナワナと震え出した。
怒りに全身に力がこもっている。
「あの野郎。呂布って名前だったのか」
張飛の異様な怒りように、簡雍を驚きながらも、以前、黄色い襟巻野郎という言葉を張飛から聞いたのを思い出した。
「因縁の相手ですか?」
「ああ、憲和。悪いが急いで、長兄のもとへ帰るぜ」
「ええ、構いませんよ」
それから、二人、急いで滎陽県を目指した。
道中、張飛は無言のままだったが、心の内では、
『親父の仇をやっと見つけたぜ』と、怒りと闘志をたぎらせるのであった。
しかし、さすがに孫堅軍に蓄積された疲労はすぐには回復することはなかった。
「前線に復帰するにはもう少し時間がかかりそうだ」
孫堅の言葉に劉備は頷く。
「それは仕方ない。・・・文台、お前たちはこの梁県に待機して、滎陽に睨みをきかせてくれるだけで十分だ」
これは道中、簡雍から受けた説明を、そのまま話している。
「そうか。徐栄が挟撃を受ける懸念を持てばいいということか?」
「そういうことらしい」
これが曹操と簡雍が描く滎陽県攻略方法だった。
これで、おそらく背後の孫堅を警戒し、徐栄は兵を退く展開になるとのこと。
「補給の問題も俺の身内が何とかする。だから、まずは体力の回復に専念してくれ」
「何から何まですまない」
気にするなと笑った劉備は、自分の胸に手をあて、
「体だけじゃない。・・・まぁ、今は落ち着けるまでゆっくり休め」と、声をかける。
「分かっている。・・・が、すぐに戻れるようにはする。このままじゃ、大栄に顔向けできないからな」
そこに関羽が出立の準備ができたと劉備に告げにきた。
孫堅は関羽にも窮地を救ってもらった礼をする。
「それじゃ、俺たちは、滎陽県に戻る」
「ああ、洛陽で会おう」
再会を誓い、劉備たちは陽人を後にした。
荊州南陽郡魯陽県
袁術軍が駐屯する地に簡雍と張飛がやって来た。
反董卓連合の使者として面会を求めたが、随分と待たされる。
突然の訪問だったため、来訪の意図を検証しているのとその対応を検討しているのかもしれない。
しかし、そんなに時間をかけるほど、やましいことが多いのだろうか・・・
こちらとしては、孫堅軍への補給を再開してもらえればいいだけなのだが、変なところで勘ぐってしまう。
そんな考えを巡らせている内、袁術がやって来た。
派手な衣服で着飾っており、いかにも名門の御曹子らしい身なりだが、逆に言えばそちらに目がいき、当人の自体の印象は大分、薄くなってしまっている。
端的に言うと特徴が衣服にしかないのだ。
そこに袁紹との違いがあった。
「連合の使者が何のようだ?」
高圧的な言い方に名門らしさがにじみ出ているが、簡雍としては袁術の出方は織り込み済みである。
「孫堅殿との連携に関してお伝えしたいことがございます」
孫堅という名を聞いて、袁術の眉がかすかに動く。
「孫堅が何か言ってきたのか?」
「はい」
孫堅の名前への反応といい、この返答といい、やはり邪な事情で兵糧を止めていたのだろう。
「ふん。あいつが何を言ってきたか知らんが、全て戯言だ。相手にする必要はないぞ」
「いいえ、真摯な言葉でした。戯言などとは、決して決して・・・」
「私は名門、袁家・・・しかも宗家の血筋。その私の言より、孫堅を信じるというのか?」
自分の言い分を通そうと、段々、語気が強くなっていく。
それに伴い苛立ちも増しているようだ。
「しかし、これは袁術殿の信用にも関わるお話。そのような一方的なもの言いは、孫堅殿があまりにも哀れというもの」
「何が哀れだ。・・・兵糧は、あいつが敵に奪われたのよ。それを私に責任転嫁しているだけだ」
「兵糧?・・・兵糧とは、一体、何のお話でしょうか?」
簡雍は心の中で舌を出しながら、初耳という表情を袁術にみせる。
袁術は、もしや口が滑ったかと顔を真っ赤にしながら、口ごもった。
「で、では、孫堅は何と言ってきたのだ?」
その言葉に簡雍は姿勢を正した後、咳ばらいを一つ。
そして、孫堅殿の言葉を、そのまま伝えますと告げた。
「董卓への恨みは何一つないが、今、決死の覚悟で戦っているのは、上は国家のために賊を討ち、下は袁術殿との誼により、両家の発展を願えばこそである」
簡雍は感動した面持ちで目にうっすら涙を浮かべる演出も追加する。
さすがの袁術も思うところがあるのか、口を閉ざしうつむいてしまった。
「孫堅殿は、更なる連携の強化を望んでいるのでしょう」
「うむ。・・・・それは私も同じ気持ちだ」
袁術としては、もう、そう答えるしかなかった。
よく考えれば、そんなこと連合軍を通して話してくるわけがないことに気づくはずだが・・・
会話の主導権を簡雍に握られ、袁術の頭はそこまで回らなくなっていた。
「おりしも、今、袁術殿から兵糧という言葉がでましたが・・・」
「・・いや、・・それは・・・」
そこを蒸し返されると、なんと話していいか分からず、袁術はしどろもどろになっている。
「実は袁紹殿から、このような割符を預かっております」
「割符とな?」
そういって袁術に渡したのは、兵糧の管理を担当する役職の任官指示だった。
「袁紹殿は盟主という立場ですが、それ以上に重要な全軍の兵糧の管理を袁術殿に任せたいとお考えです」
「本初が・・・私に?」
「はい。その通りです」
袁術は、そもそもこの反董卓連合の盟主が同族の袁紹であることが面白くなかった。
同じ袁家であっても、自分の方が血筋は上だという自負があったからだ。
そこに李儒の息がかかった人間の讒言があり、連合軍内における自身の処遇に不満を溜める。
更には同盟を結んだものの田舎武者である孫堅が予想以上に活躍するので、半分、八つ当たりで意図的に補給を止めたのだった。
李儒の間者が、そうするよう誘導したのだが、理由としてはまことに勝手な話。
しかし、袁術の持論では、名門の自分より目立った孫堅が悪いのだ。
孫堅にしてみれば、たまったものではない。
「この歴史上、類の見ない大連合において兵糧の管理を任せられるのは袁術殿、ただおひとり」
「うむ。・・・そうであるな」
「袁術殿が担当される以上、滞りなく補給線は保たれると諸侯、みな安心しております」
とりあえず、持ち上げるだけ持ち上げると、袁術は上機嫌となる。
「私が担当する以上、補給の心配はせずともよい。皆にそう伝えてくれ」
「かしこまりました」
簡雍は平伏しながら、したり顔をする。
これで、曹操に頼まれた役目は無事終了だ。
役目を終えた簡雍は、張飛とともに袁術の陣営を後にする。
本陣を出た直後、生い茂る草むらが動いた。
「誰だ」
張飛が素早く、反応すると、茂みとは別のところから騎馬に乗った将が現れた。
「すまない。伝達が遅れた・・・気にしないでくれ」
その将校が、何やら指示すると草むらから十人ほどの槍を持った兵士が出てくる。
そして、袁術の本陣へと帰って行った。
「伝達が遅れた?」
張飛が訝しんで、丈八蛇矛をその将に突きつける。
「益徳さん。きっと、我々が袁術さんにとって都合の悪い使者だったら、ここで消すつもりだったんですよ」
「・・・まぁ、その通りだが・・・その命令は撤回された」
「何だと!」
殺すつもりだったけど、止めたから、気にしないでくれ。
簡単に言えば、そうだが、それで納得するような張飛ではない。
「面白れぇ。止めなくていいから、かかってこい」
その将校は、紀霊と名乗り、それは命令違反となるので、できないと謝罪する。
「何なら、私の首をもっていっても構わない」
そこまで、言われると、さしもの張飛も矛を収めるのだった。
簡雍は、もとより気にしていないので、諍《いさか》いは丸く収まる。
「感謝する」
紀霊は二人に礼を述べると、代わりといっては何だが、一つ忠告したいことがあると言ってきた。
最近、呂布という猛者が董卓についたという。
見たところ、張飛も相当、強そうだが、この呂布の強さは異常なので、関わらない方がいいとのことだった。
「そいつは、どんな奴だ?」
そこまで言われるとがぜん興味がわく張飛は、紀霊に情報を求めた。
「身の丈が一丈あって、弓の名手。赤兎馬という名馬を駆っているそうだ」
「身の丈、一丈?」
何か思い当たる節があるのか、張飛の顔が険しくなった。
「ひょっとして、黄色い襟巻をまいていないか?」
「よく知っているな。その通りだ」
張飛の体がワナワナと震え出した。
怒りに全身に力がこもっている。
「あの野郎。呂布って名前だったのか」
張飛の異様な怒りように、簡雍を驚きながらも、以前、黄色い襟巻野郎という言葉を張飛から聞いたのを思い出した。
「因縁の相手ですか?」
「ああ、憲和。悪いが急いで、長兄のもとへ帰るぜ」
「ええ、構いませんよ」
それから、二人、急いで滎陽県を目指した。
道中、張飛は無言のままだったが、心の内では、
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