【完結】二つに一つ。 ~豊臣家最後の姫君

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
48 / 134
第5章 宇都宮の陰謀 編

第47話 宇都宮での情報集め

しおりを挟む
甲斐姫と天秀が宇都宮藩に着いたときには、すでに城の改修工事が始まっているようだった。

もっとも、それを知ったのは、偶然立ち寄った蕎麦屋でのこと。
昼間っから、酒を煽った男が知人相手に管を巻いていた。その一言からである。

「何で、俺の方が腕がいいのに採用されねぇんだ」
「ん?宇都宮藩城の普請のことか?」
「ああ。与五郎の奴が選ばれて、俺が外れるのは納得いかねぇよ」

どうやら、その男は募集があった大工の定員から選外となったようだった。
腕がいいと言い張っているが、それは自己申告なので、実際のところは分からない。
ただ、甲斐姫と天秀は、今回の目的と合致する話に興味を持った。

「その話、面白いのう。もう少し聞かせてもらえるかえ?」
男は突然、妖艶な女性から話しかけられ、ドキッとする。あからさまに鼻の下を伸ばすのだが、強気だった姿勢は崩さなかった。

「何だよ、あんた?話っていっても、募集をかけられたのが二十人。その中に俺が入れなかったってことくらいしか話せないぜ」
「与五郎という者が選ばれたそうじゃが?」

「あいつは、元々、この町のもんじゃねぇんだが、一年くらい前だったか、ここに根付いちまって、大工の見習いをやっていた男さ」

大工の見習いが選ばれて、この男が落ちたとあっては、確かに荒れるのも仕方ない。
話を聞いていて、天秀はそう思ったが、次の瞬間、口に手を当てて驚いた。

調子に乗った男が、「なぁ、この後、俺と・・・」と、甲斐姫の手を取ろうとしたところ、見事に投げ飛ばされてしまったからである。

「何だよ。痛てて」
向かいに座っていた仲間内が、転がされた男にすぐ手を差し伸べて、起き上がらせようとした。

こちらの男の方がまともなようで、「与五郎のことなら、庄屋の娘、お稲さんに聞いた方がいいぜ」と、教えてくれる。

庄屋を務める植木藤右衛門には、内緒の話のようで、声色を落として、追加の情報も伝えてくれた。
何でも二人は、恋仲だそうである。

甲斐姫と天秀は、早速、植木藤右衛門宅を訪れることにした。

大藩の庄屋ともなれば、それなりにいい暮らしをしているのだろう。
目的の屋敷はすぐに見つかった。

門の前で呼びかけ、誰か家人の者を呼び出す。
すると使用人らしき男が出てくるのだが、二人を見て怪訝な表情を見せるのだった。

妖艶な雰囲気の女性とおかっぱ頭に黒の法衣を纏う女の子は、余程、おかしな組み合わせに映ったのだろう。
このままでは、門前払いもあり得たため、甲斐姫は福から預かった家光の黒印状こくいんじょうを見せた。

これが効果てきめんで、使用人が勢いよく屋敷へと戻り、その勢いそのままに主と思しき人物が走って来る。
「私、植木藤右衛門という者ですが、家光さまのお使いの方が、一体、何の御用でございましょう」

いかに宇都宮が大藩といえど、そこの庄屋が将軍家と関わることなど、そうあることではない。
何か咎でも受けるのではと、心配しているようだ。

「いや、何も悪い話ではない。そちらの息女、お稲殿に用があるだけじゃ」
娘に用事と言われて、逆に不安になる藤右衛門だったが、家光の黒印状がある以上、会わせないわけにもいかない。

では、と屋敷の中へと案内しようとする。

「いえ、ごめんなさい。ただの世間話なので、こちらに呼んでいただけますか?」
天秀が咄嗟に拒んだのは、与五郎とのことを藤右衛門が知らないと聞いていたためだった。

父親の前では、お稲も話しづらいだろうという配慮からである。
天秀の意図に気づいた甲斐姫は、「お稲殿だけをこちらに、お願いする」と、重ねて藤右衛門に頼むので、入れ替わりでお稲がやって来た。

「私が稲でございますが、何でございましょう?」
父親に何か言われて来たのか、表情が硬い。やはり、警戒しているのだろう。
そんなお稲に天秀は近づいて、小声で話す。

「実は与五郎さんのことを聞きたかったんですけど、お父さまがいらっしゃるとまずいと思って、お稲さんだけを呼ばせてもらいました」
お稲は振り向いて、近くに父親がいないことを確認すると、「気を使っていただいてありがとうございます」とお辞儀した。

「それで、あの人の何を知りたいのでしょうか?」
「うむ。ちょっと小耳に挟んだところ、宇都宮の大工の募集。三倍の狭き門を与五郎殿が突破したそうじゃが、何か心当たりはあるじゃろうか?」

その点は、確かにお稲も不思議だったのである。与五郎が喜んでいるため、水を差すようで言い出せなかったのだが、腕のいい職人は他にも大勢いたと聞いていた。

その中で与五郎が選ばれる理由は、何か?
お稲にも見出せないでいたのである。

「その点は私もわかりません。何せ、この普請工事は、報酬がいつもより断然にいいので、多くの職人さんが集まったと聞いていたのですが・・・」
恋人のひいき目をもってしても与五郎の腕が落ちるというのなら、確かにその選抜基準が理解できない。

「その他、何か気になることはありますか?」
「そうですね。後は、この工事が着工した後、外部の者と連絡を取り合うことを禁じられています。一カ月、与五郎さんは宇都宮城から出ることができません」

将軍の寝所を改修する工事もあるため、情報機密をしっかりしているといったところなのだろうが、少々、やり過ぎな気がする。
福から、家光暗殺を企む黒幕が正純だと聞いているため、余計に怪しく感じるのだった。

「ありがとうございました」
お稲に礼を告げて別れた後、やはり、城の中に潜入する必要があると甲斐姫は考える。

屋敷の角を曲がったところで、「瓢太、おるか?」と声をかけた。
すると、「ここにいるよ」

いつの間にか、天秀の目の前には、普通の町人の格好をしている瓢太が現れるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

処理中です...