【完結】二つに一つ。 ~豊臣家最後の姫君

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
129 / 134
最終章 会津騒動 編

第128話 東慶寺の総意

しおりを挟む
堀主水の身柄は、幕府がよく吟味した結果、会津藩に引き渡されることになった。
後は、家光が下した裁定通り、主水が切腹するだけなのだが、ここで加藤明成が暴走する。

主水を捕らえてから一年以上、待たされていたのだ。切腹など、生温なまぬるいと考えたのである。

「主水は罪人だ。武士の誉れなど、させてたまるか」
「しかし、公方さまがお決めになったことでございます」
「黙っていれば、死体は語らぬわ」

明成は、そう言い放つと家臣の制止を振り切って、主水を斬首にするよう指示を出した。

勿論、実弟、多賀井又八郎たがいまたはちろう真鍋小兵衛まなべこべえは幕府の裁きとは違うと異議を申し立てる。
ただ、主水は二人の弟を黙らせた。

「いいのだ。死して嘉明さまの元へ行くことに変わりはない」

これ以上、騒ぐと二人まで罪人として扱われてしまう可能性がある。
自分について来てくれた身内に対して、それは忍びない話だ。

主水は、明成の処置を受け入れ、地面に正座すると黙って、首を前に出す。
物言わなくなった主水の首が、地に転がると明成は嬉々として喜ぶのだった。


会津藩、筆頭家老の出奔にまつわる一連の事件。
首謀者と首謀者格、三人の死で幕を閉じる。
誰もがそう思っていたのだが、明成だけは違った。

「逃げた主水の妻子は、まだ、引き渡されぬのか?」

明成としては、その妻子も同罪と見ており、彼女らの処断が終わらぬうちは、矛を収めるつもりはない。

しかも所在不明ならともかく、逃げ込んだ場所まで特定しているとあれば、手を緩める気は毛頭、起きなかった。
明成からすると、逆に一体、何をしているのだ?という気持ちなのである。

「東慶寺に催促をしているのですが・・・」
「何だ?」
「応じることはできないと、強く拒否されておりまして・・・」

何を尼寺ごときに、弱腰なのか!
状況を報告した家臣は、激しい叱責を受ける。

この時の明成は、完全に勘違いを起こしており、あの高野山すら自分の威光に屈服したと思い込んでいた。

実際のところは、秀吉との約定と幕府の権力に高野山が従ったまでの事。
しかし、そうとは考えない明成は、尼寺一つ、いう事をきかせられぬ家臣を怒鳴り散らすのだ。

『こうなれば、また、幕府を動かすか・・・』

そう考えたが、すぐに改める。
明成にとって、東慶寺は、所詮という存在なのだ。

本気で脅しつければ、尻尾を振って要求に応じると安く見積もる。
明成の名で、正式に東慶寺に使者を出せという指示を送るのだった。


「堀主水の元妻の身柄を会津藩に引き渡してほしい」
「それは、出来かねます」

このやり取りは、既に十数回を数える。明成は強気だが、やはり幕府直轄の寺というのが、常識のある使者には、重くのしかかっていた。

だが、本日は簡単に諦めて帰る訳にはいかない。
君主・加藤明成の書状を預かって来ているのだ。

「では、この書状をこちらの住持に渡してほしい。考えを改めるのであれば、今の内がよろしいかと存じ上げる」

この会津藩藩士の対応をしていたのは、白閏尼である。
では、届けるので、お引き取りをと返したのが、天秀尼からの返答を聞くまでは帰らないと、突っぱねられた。

しかたなく、「少々お待ちを」とだけ告げて、立ち去る。
代わりの尼僧を二人ほど、つけて、この藩士がおかしな行動をとらないか監視させるのは、さすがだ。
天秀尼が信頼し、一目置くだけのことはある。

その天秀尼は、明成の書状だと言う書面を見て、苦笑いをした。
中身を要約すると、自分は四十三万石の大大名であり、その手を煩わせたのは万死に値する所業だという断罪と、いう事をきかない場合、延暦寺えんりゃくじと同じ目にあわせるという脅迫である。

『この人、駄目な人だわ』

それが、書状を見た明成に対する天秀尼の印象だ。大大名であることに相違はないが、それは世襲により相続したもの。自身の手柄ではあるまい。

また、延暦寺と同じ目というのは、焼き討ちをするという意味だろうが、東慶寺には駿河大納言の旧邸宅が寄進されている。

もし、それに火を放てば、どうなるのか?
想像することもできないとは、お粗末としか言いようがない。

天秀尼は、逆に使者として訪れているその藩士を憐れに思えた。
ここは、自ら直接、断りを入れることで、その者の面目を立てようと考える。
男性を境内に入れる訳にはいかないため、天秀尼自ら、山門へ足を運んだ。

「遠路、鎌倉までいらした所、大変、恐縮ですが、やはり応じることはできませぬ」
「それが、東慶寺の総意ということで、間違いあるまいな」
「ええ。私、東慶寺第二十世住持、天秀法泰の名に懸けて、間違いございません」

寺の代表から、はっきり断られると、藩士は考え込む。
無理に押し入って連れ出すことが可能か、軽く算盤そろばんを弾くが、山門の下には情報を聞きつけた寺役人も集まって来ている。
どうも勝算は見込めないと諦めた。

「承知した。後で後悔だけは、なきように」
「ええ、承知しました。加藤さまにも、くれぐれも軽挙な行いはなさらぬようお伝えください。幕府直轄の寺に火を放つは、幕府に弓引くことと捉えられますよ」
「な・・・火だと?」

明成の書面の中身までは、この使者は知らなかった様子。確かに、そんな真似をすれば会津藩は、どうなるか分からない。
使者は、そそくさとその場を去って行った。

ただ、天秀尼は心配になる。
明成が主水を追った執拗さがある以上、これで諦めるとは思えない。
天秀尼は、寺社奉行にかけ合って、東慶寺の警護を厚くしていただく旨、依頼しようと思うのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』でも同時掲載しています◇

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

処理中です...