低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
37 / 187
第2章 炎の砂漠 編

第37話 アンナの捜索

しおりを挟む
目の前にある砂嵐の壁。この中にアンナが一人、取り残されている。
そして、精鎮の儀式の刻限も迫っているという事実。
この二つの現実に、レイヴンは頭を抱えた。

今回の儀式でカーリィを助けるとは言ったが、それはアンナを見捨ててもいいという事にはならない。

「メラ、その方位磁石は『砂漠の神殿』の内部でも必要か?」
「いえ、辿り着いてからは、不要です。・・・砂嵐の中に戻るおつもりですか?」

方位磁石を必要とする意図を紐解けば、その結論は容易に想像できた。
だが、カーリィとメラは、複雑な表情をする。

あの砂嵐の中には、デスストライカーが待ち受けている可能性が高かった。普通に考えたら、レイヴンを止めるべきなのだが、それだとアンナを見捨てることになってしまう。

どちらも選ぶのが困難であれば、レイヴンの判断に任せるしかない。命を賭けるのは、彼本人なのだ。

「俺はアンナを救いに行く。儀式が終わるまで、三日の内には必ず戻る。それまで、三人で何とか頼む」

三人というのは、クロウも含めた数。レイヴンの判断では、弟を連れて行くのはやはり危険とジャッジしたようだ。
もしかしたら、はぐれてしまう懸念もある。

「兄さん、大丈夫?」
「ああ、問題ない。お前は、いわば保険だ。クロウを残して、俺が死ぬ訳にいかないからな」

そう言って、クロウをカーリィに預けると、代わってメラから方位磁石を受け取った。
これさえあれば、また、この場所に戻って来られるはずなのだ。

「・・・アンナも心配だけど、無理はしないでね」
「分かっている。カーリィも原理が分からない以上、慎重にな」

お互い、無事を祈り合うと、黒髪緋眼くろかみひのめの青年は、先ほど出てきたばかりの砂嵐の中へ、再び舞い戻る。

その後ろ姿を見送った三人は、しばらくダネス砂漠の方向を見つめていたが、誰が声をかけるでもなく、『砂漠の神殿』に向かって、歩き始めた。

残された者たちにも、やらなければならない使命がある。
当初の目的から言えば、こちらの方が本命なのだ。

後ろ髪を引かれる思いはあるが、弟のクロウですら振り返る事はしない。
皆、レイヴンの事を信じて、気持ちを精鎮の儀式だけに向けるのだった。


砂嵐の中に戻ったレイヴンは、相変わらずの視界の悪さに閉口する。
ただ、闇雲にこのはいみがかった黄色い世界を、探し回っても見つかるとは思えなかった。

何か音を立てれば、耳がいいアンナが気づくかもしれないが、砂漠の王者デスストライカーにも、居場所がばれてしまうかもしれない。

レイヴンは、考え抜いた末、やはり声をかけることにした。
モンスターに見つかった時は、見つかった時の話である。

「アンナ!俺の声が聞こえたら、笛を鳴らしてくれ」

しばらく待つが、反応はなかった。この近くにはいないのだろうか?
逃げる方向は示したはずで、大きく逸れるとは思えないのだが・・・

しかし、このホワイトアウトならぬイエローアウトとでも言うべき状況では、一度、方角を見失ったとしたら、どうなるか分からない。

レイヴンは、『金庫セーフ』の中に何か大きな音を鳴らせる物がないか探した。
ところが、音を鳴らすという事は想定しておらず、そんな準備はしていない。

仕方なく取り出したのは、鉄製の平手鍋、いわゆるフライパンと料理を皿や器に注ぎ入れるスープレードルだった。
両手に持った姿は、何とも締まらないが仕方ない。

レイヴンは、フライパンの底をスープレードルで叩きながら、砂嵐の中を進んだ。
だが、アンナからの反応は一向になく、歩いていく内にデスストライカーと対決した場所に辿り着く。

なぜ、それが分かったかというと、あの大蠍に破壊された壁の残骸が散らばっていたからだ。
最後、何重も作った壁をレイヴンは、そのまま放置していたのである。

この瓦礫を、このままにしておくと『砂漠の神殿』を往来する人にとって、邪魔かもしれない。
レイヴンは、『買うパーチャス』で買い戻した後、『金庫セーフ』の中に収納した。

あらかた、片付け終えるとレイヴンの耳に、何か呻き声のようなものが飛び込んでくる。
両手を顔の横に当て、耳をそば立てながら、歩くレイヴンは、微かな音を頼りにその元を探した。

風の音に邪魔されながらも、目を閉じて全神経を耳に集中させるレイヴン。
すると、何かを捉えたのか、刮目して走り出した。

聞こえた呻き声は気のせいではなく、紛れもなくアンナの声だったのだ。
しかも、そのか細い響きから、かなり弱っているものと考えられる。

「アンナー!」

レイヴンの叫び声に、微かに身動きする影があった。近づくと、砂の上に横たわっている少女がいる。それは間違いなくアンナだった。

彼女の横に着くと、半分、砂に埋もれた体を掘り起こす。
何とか意識はあるようだが、レイヴンの呼び掛けに対する反応は薄かった。よく見ると、アンナは右足と頭に怪我を負っている。

レイヴンは、すぐに『買うパーチャス』を唱えた。
それで、出血も止まり、アンナはようやく目を開ける。

「・・・レイヴン・・さん?」
「おう、俺だ。一応、治ったと思うけど、痛むところはあるか?」

体のだるさはあるが、痛みはまったく消えた。アンナは、小さい声で「大丈夫です」と答える。
話を聞くと、大きな石のような塊りが飛んできて、走っている途中、右足に直撃したそうだ。そして、痛みのためにうずくまっているところ、頭を打ったらしい。

話を総合して考えると、おそらく、デスストライカーが破壊した壁の破片が、運悪くアンナを襲ったのだろう。
そういう事であれば、レイヴンのミスとも言えた。

「俺が迂闊だった。すまない」
「いえ、謝らないでください。こうして見捨てず助けに来てくれて・・・本当にありがとうございます」

アンナは砂漠に取り残され、動くことができないと分かった時点で、最後の覚悟をした。誰もいない孤独な世界で、ゆっくりと迫り来る死の世界。

この小さな体で、その恐怖を受け止めていたのだ。
それが助かったと分かった、この瞬間、どうしょうもなく涙が溢れて来る。

女の子の涙に、どう対処していいか分からないレイヴンは、『金庫セーフ』の中から、ハンカチを取り出し、目を逸らしながら渡すのだった。

歩く体力まで回復していないアンナを、丁度、お姫さま抱っこの形で持ち上げると、方位磁石を確認する。
レイヴンは、『砂漠の神殿』に向かって歩き出した。

「あの・・・重たいので、おろしてもらっても大丈夫です」
「全然、大丈夫だ。そんな心配より、体力の回復だけを心掛けてくれ」

サラマンドラの遺跡の中でも何が起こるか分からない。アンナを戦力と見ているからこその話しだ。
レイヴンの腕に抱えられたアンナは、そのまま身を預ける。安心感が手伝ってか、やや力が抜けた森の民の少女は、頬を染めながら胸に顔をうずめた。

何とも気恥ずかしく、まともにレイヴンの顔を見られない。
夢心地のようなこの時間が、このまま続けばと思っていた矢先、黒髪緋眼くろかみひのめの青年の足が止まった。

無理矢理、現実の世界に呼び戻す相手が現れたのである。

「ちっ、また、お前かよ」

レイヴンの視線の先には、大蠍デスストライカーが、その両手のはさみを広げて構えを取っているのだ。
本来であれば、耳がいい自分が先に気づくべきと、アンナは自省する。どうも調子が狂っているみたいだ。

レイヴンは、優しくアンナを砂の上に下ろすと、ゆっくりとデスストライカーに向かって歩き出す。
アンナがこの状態では、戦うしか選択肢がないのだ。しかし、それは苦渋の選択という訳ではない。

レイヴンには、さらさら負ける気などなかった。
助かったと思い、流した女の子の涙を無にする気は、毛頭ないのである。

「それじゃあ、第二ラウンドを始めようぜ」

レイヴンの言葉に反応するように、デスストライカーは大きな咆哮をあげるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

処理中です...