低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
36 / 187
第2章 炎の砂漠 編

第36話 砂嵐の中

しおりを挟む
出発の儀で、盛大に盛り上がった昨日。
ミラージの街は、翌日もその余韻が続いていた。

自分達の運命を託す『精鎮の巫女』カーリィを見送るために、街の出入口近くには人だかりができている。
その一番先頭にいるのは、族長のロンメルだ。
レイヴンたち一行と一人一人、固い握手を交わすと、最後、娘と強く抱きしめ合った。

「この重責に立ち向かうお前を誇りに思う。ただ、・・・全てを任せることになり、すまない気持ちでいっぱいだ」
「いえ、誰かがやらねばならぬ事。お父さまが気に病む必要はありません」

ロンメルは、そんな強い気持ちと優しい心を持った娘を愛おしく思う。抱きしめる手に力がこもった。

どうやら、娘も同行してくれるレイヴンという青年も、精鎮の儀式からの生還を諦めてはいない。その事には、ロンメルも勘付いている。

ただ、口に出す勇気がなかった。
今まで、精鎮の儀式を行って生きて帰って来た者はいない。

三日間かけて、サラマンドラの霊力を中和することまでは知られているが、どうして『精鎮の巫女』の命が尽きるのか、その理由までは解明されていないのだ。

死因が、その儀式ごとに変わっているのが、その謎をますます深めている。
いつも同じであれば、そこから原理を追うことも出来るのだが・・・

だが、結局、「生きて帰って来い」と言い出せないのは、変な期待、希望を持った時のしっぺ返しが怖いのだと、ロンメルは自覚していた。

『砂漠の荒鷲』とも呼ばれた男が、情けないとあざけられるかもしれないが、娘を失う覚悟を何度も固めることは出来ない。

昨日の花嫁姿の笑顔。今、抱きしめた温もり。
それを明日も明後日も見られる、感じられると思い、裏切られた時・・・ロンメルは気持ちを正常に保っていられる自信がなかった。

これは、過去、『精鎮の巫女』を送り出した人の全てが抱く感情。
それは、ヘダン族の族長という立場の人間でも例外ではないのだ。

心に蓋をしようとするロンメルだったが、出発のため娘を呼びにやって来た黒髪緋眼くろかみひのめの青年が、そんなロンメルの心情を射抜く。

「正直、カーリィを生きて戻す約束は俺にも出来ない。だから、信じろ、期待しろとは口が裂けても言えないが・・・あんたは、とりあえず娘の無事だけを祈っていてくれ」
「祈る・・・そうか」

これから困難に挑む娘の何の助力にもならないかもしれないが、残された人たちが彼女のために出来ることは、二度と会えない覚悟を持つ事ではない。
遠くからでも、その無事を祈る事。

そんな当たり前の事すら、考えが及ばないとは・・・
ロンメルは、己の不明を恥じるとともに、レイヴンに対して、敬意を込めた眼差しを送る。

「分かった。娘を頼んだぞ・・・婿殿」
「・・・いや、だから、それは」

ロンメルの最後の言葉を否定しようとすると、メラとアンナに急かされた。

「急ぎませんと、日没までに『砂漠の神殿』に辿り着きません」
「その論争は、戻ってからでもゆっくりできますよ」

仕方なく、レイヴンとカーリィはロンメルの前を辞して、旅立つことにする。
街の人々の盛大な見送りの中、一行は砂漠の街ミラージを後にするのだった。


ミラージの街を南下するとすぐに砂嵐と出会う。砂塵が空高く舞い上がり、砂の壁以外の景色が見えなくなった。
これは出直した方がいいのではないかとレイヴンが思うほどの状況だったが、カーリィやメラに言わせると、ミラージから南のダネス砂漠では、これが当たり前なのだと言う。

しかし、この中を歩くのは無謀。自分が歩いている方角すら分からなくなるのではないかと思われた。
そこで、メラがある道具を取り出す。
それは特殊な方位磁石だった。

通常、方位磁石の指針は北を指すのだが、メラが持つ方位磁石は違う。
常に『砂漠の神殿』がある方角を指すというのだ。

詳しい事は分からないが、『砂漠の神殿』から送られる波動にのみ反応するらしく、歴代の『精鎮の巫女』の従者へ引き継がれてきた貴重な道具との事。

似たような道具を森の民も持っているとアンナが証言する。
そのため、『森の神殿』や『砂漠の神殿』のような古代遺跡には、得体の知れないエネルギーが存在するのだろうとレイヴンは考えた。

とにかく頼りになるのは、その方位磁石しかないため、一行は離れ離れにならないよう、一つの塊りとなって、砂嵐の中を突き進んだ。

「こんな所で、モンスターに出くわしたら大変だな」
「大丈夫です。この中で生活できる生き物は、そういませんから・・・滅多に出くわす事はありません」

方位磁石を手に先頭を歩くメラが説明する。確かにモンスターが住み着いても餌となる生物がいないのでは、生きていくことができないだろう。
その言葉に安心するのだが、耳のいいアンナが身を強張らせた。

「どうした?」
「・・・何か、地を這うような音が聞こえます」

割とレイヴンも耳には自信がある。アンナが示す方向に集中して、耳を澄ました。
すると何の音か分からないが、確かに何か物体が移動しているような音が聞こえる。

「何かいるぞ」
「・・・まさか?」

メラが動揺するところを見ると、稀にしか起きない滅多に出くわしたようだ。
警戒したレイヴンは、僅かに敵影が見えた左前方に壁を建てる。

サンドウォームの動きを封じた強固な壁だ。
その壁から大きな衝撃音が聞こえると、強烈な一撃によって、ヒビが入った様子。

「耐えられないのか?」

レイヴンの叫びと同時くらいに壁に大きな穴が開き、そこから巨大なはさみが見えた。
どう見てもモンスターの体の一部である。

「や、やっぱり、大蠍デスストライカーです」

巨大な体に固い外殻。そして、その尻尾には殺傷能力が高い毒を持っているという砂漠の王者。ダネス砂漠で、一番出会いたくない化物だ。

しかもレイヴンが用意した壁を破壊してみせたように、サンドウォームよりもパワーがある事まで証明する。
この視界が悪い中、戦う事は避けるべき相手だ。

「メラ、遺跡の方角はどっちだ?」
「私が指をさす方向です。向かって、真っすぐ」
「みんな、覚えたな」

とにかく今は、『砂漠の神殿』に向かって全力で走って、逃げるしかない。
その間、レイヴンはデスストライカーを足止めするため、何重も壁を用意するつもりでいた。

「それじゃあ、みんな、走れ!」

その合図とともに、カーリィ、メラ、アンナが一斉に走り出す。女性全員を逃がしたレイヴンは、一人、残って大蠍の怪物と対峙した。

「悪いが、ここから先は簡単に進めると思うなよ」

早速、両者の間に壁を建てる。デスストライカーも難なくその壁を破壊するのだが、レイヴンは『買うパーチャス』で、新しい壁を用意しつつ、破壊エネルギーの『返品リターン』をお見舞いする。

それを繰り返すうちに、デスストライカーの追って来る動きが鈍ってきた。
このチャンスを逃すまいと、ありったけの壁をデスストライカーの前に用意して、レイヴンは逃げの一手を決め込んだ。

そのまま、走り抜けると砂嵐自体も突き抜けて、一気に目の前の視界が開ける。
そこには、大きく存在感がある『砂漠の神殿』が、そびえ立っていた。

ホッとするのも束の間、他の仲間たちをレイヴンは探す。
その時、逆にレイヴンの方から声をかけられた。

「無事だったのね、良かった」

それはカーリィとメラだった。そして、レイヴンが一人だと知ると、ショックを受ける。

「アンナは、一緒じゃないのね?」
「いないのか?」

カーリィとメラが暗い表情で頷いた。
レイヴンは、振り返り、今、走り抜けてきたばかりの砂嵐を呆然と見送るのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

異世界からの召喚者《完結》

アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。 それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。 今回、招かれたのは若い女性だった。 ☆他社でも公開

魔法使いクラウディア

緑谷めい
ファンタジー
「お前みたいなブスが、この俺の婚約者だと? 俺はこの国の王太子だぞ!」   綺麗な顔をした金髪碧眼の、いかにも生意気そうな少年は、クラウディアの顔を見るなり、そうほざいた。  初対面の婚約者――それも公爵家令嬢であるクラウディアに対して、よくもそんな失礼な事が言えたものだ。  言っておくが、クラウディアは自分の美しさに絶対の自信を持っている。  ※ 全8話完結予定 ※ ボーイズラブのタグは保険です。

のほほん素材日和 ~草原と森のんびり生活~

みなと劉
ファンタジー
あらすじ 異世界の片隅にある小さな村「エルム村」。この村には魔物もほとんど現れず、平和な時間が流れている。主人公のフィオは、都会から引っ越してきた若い女性で、村ののどかな雰囲気に魅了され、素材採取を日々の楽しみとして暮らしている。 草原で野草を摘んだり、森で珍しいキノコを見つけたり、時には村人たちと素材を交換したりと、のんびりとした日常を過ごすフィオ。彼女の目標は、「世界一癒されるハーブティー」を作ること。そのため、村の知恵袋であるおばあさんや、遊び相手の動物たちに教わりながら、試行錯誤を重ねていく。 しかし、ただの素材採取だけではない。森の奥で珍しい植物を見つけたと思ったら、それが村の伝承に関わる貴重な薬草だったり、植物に隠れた精霊が現れたりと、小さな冒険がフィオを待ち受けている。そして、そんな日々を通じて、フィオは少しずつ村の人々と心を通わせていく――。 --- 主な登場人物 フィオ 主人公。都会から移住してきた若い女性。明るく前向きで、自然が大好き。素材を集めては料理やお茶を作るのが得意。 ミナ 村の知恵袋のおばあさん。薬草の知識に詳しく、フィオに様々な素材の使い方を教える。口は少し厳しいが、本当は優しい。 リュウ 村に住む心優しい青年。木工職人で、フィオの素材探しを手伝うこともある。 ポポ フィオについてくる小動物の仲間。小さなリスのような姿で、実は森の精霊。好物は甘い果実。 ※異世界ではあるが インターネット、汽車などは存在する世界

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...