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第4章 呪われた森 編
第92話 大森林への第一歩
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エウベ大陸の中心にある大いなる緑。ファヌス大森林は『世界樹』が持つ浄化作用から、癒しのパワーと澄んだ空気が常に漂う神聖な空間だった。
ところが、今は瘴気に満ち溢れ、人々の侵入をかたくなに拒んでいる。
そもそも『迷いの森』と呼ばれるほどの深い大森林だったが、それは人々を拒否しているのではなく、むしろ緑を愛する者にとっては、活力を与える場所でもあった。
だが、今は明らかな拒絶がそこにある。
もしかしたら、『現状危険な状態である緑の中に入るな』という警告ではないかと感じるほどだった。
それはファヌス大森林の意思のようにさえ、感じてしまうのである。
南の大国メントフ王国の先兵隊。王太子ユリウスを警護する騎士団を加えたレイヴン一行は、宿場町グレースで旅の準備を整えてから、出発した。
特に黒髪緋眼の青年は、食糧と水を大量に購入する。
売った商人からは、「明日から、食べる物がなくなるよ」という声が飛び出すほどだった。
それでも、困った様子もなく、ホクホク顔なのは、通常料金の倍の金額で売れたからである。
レイヴンは、瘴気で困窮するグレースの街に多くの金銭を落とすことで、少しでも復興に役立ててほしいと考えたのだ。
街を出て、目指すべきファヌス大森林に近づいて行くと、明らかに空の色が違うのが分かる。
グレースの街に到着した、昨日よりも瘴気の量が増えているという感想を全員が持つのだった。
生まれ故郷である大自然。見る影がない現状を目の当たりして、言葉が出ないソフィア。
もし、一人で目撃していたら、その場に崩れ落ちていたかもしれなかった。
しかし、今は仲間が共にいる。気を取り直して、その仲間たちにアドバイスを送った。
目指す場所は、ファヌス大森林であるが、より詳細に言うのなら、『森の神殿』が目的地である。
案内人としての役目を果たさなければならないのだ。
「ファヌス大森林に明確な入り口はありませんが、目的地が『森の神殿』なら、話が変わります」
「専用の入り口があるってこと?」
カーリィと同じ疑問をレイヴンも持つ。何か最短ルートのようなものがあるのかとも期待を持った。
ソフィアの応えは、彼の意に沿ったものだったが、よく聞くと、それほど楽な道のりではなさそうな事が分かる。
「入り口と銘打っている場所はありませんが、大森林の中は意外と高低差があったり、難所と呼ばれる個所がいくつもあります。できるだけ回避するならば、西方面から入るのがベストです」
遠くから見れば、平坦に見えるファヌス大森林も、実は高低差があるというのには驚いた。
やはり、謎のベールに包まる大森林。
『迷いの森』の異名は、伊達ではないといったところか・・・
ソフィアの話では、一番、楽なルートを通るためには、半日近く大森林の周囲を時計回りで歩き、今の地点より北の方向に移動する必要があるらしかった。
この優秀な案内人の指示通り、一行は、そのポイントまで移動することにする。
ところが、その間、大森林から流れ出る瘴気を吸いながら歩くため、気分を悪くする者が出始めたのだ。
森の民ソフィアも、その一人である。
大森林の中は道が整備されているわけではないため、王国の紋章入りの馬車は使えないとグレースの街に預けてきた。
だが、もしかしたら、キャビンの中であれば、少しは瘴気を緩和できたかもしれない。
今さらながら、その判断をレイヴンは悔やむのだった。
「私は、大丈夫ですから、気にしないで下さい」
そうは言っても、明らかに顔色が悪い。ファヌス大森林が発する瘴気は、森の民と相性が最悪なのかと思えた。
大森林の中にいるはずのアンナたち、森の民の事も心配になって来る。
「大精霊のサラマンドラ、ウンディーネからいただいたお守りの効力は、発揮されないのだろうか?」
一行の後方にいたメントフ王国の騎士団の中から声が上がった。声の主のユリウスは、自分の配下の中にも体調を崩している者がいるため、救いの案を確認したのである。
確かに大国の王太子が言うように、瘴気からガードするために大精霊の二体は、『ガンダーンタ』と呼ばれるペンダントをくれたのだ。
だが、このお守りは自動発動ではない様子。もしかしたら、ファヌス大森林の中に入らないと発動しないのだろうか?
確かめるすべは、実際に行動してみるしかない。
「ソフィア、予定の侵入個所に着くには、まだ距離があるんだろうか?」
「・・・もう少し、先の方がいいと思いますけど、入りますか?」
青白いソフィアの顔を見ると、一刻も早い対策が必要だと思われた。レイヴンは、頷くと進路をファヌス大森林の中へと舵きる。
「ルート的に少々、厳しくなるかもしれないが、今は体調を優先したい」
その言葉に異議を唱える者はおらず、皆、足早に大森林に向かった。
すると、一行が『迷いの森』に入る手前で、胸の部分から光が発せられる。首から掛けていたペンダントが輝きだしたのだ。
その光が全身を覆い、何か膜というほど具体的ではないが、触ることができない境界が自身に創られた感覚を感じ取る。
そして、これまで苦しんでいた体調が、嘘のように軽くなるのだ。
「これが大精霊の力か・・・」
サラマンドラやウンディーネの力を信じていたレイヴンたちと違って、ユリウスはこの霊験あらたかな現象に、ただただ舌を巻く。
顔色が明らかによくなったソフィアもレイヴンに感謝の意を示した。
「ありがとうございました。これなら、瘴気も気にせずにすみそうです」
「感謝するのは、サラマンドラとウンディーネにだよ」
「いえ、計画を前倒しする判断をしたのは、レイヴンさんです」
どんな素晴らし道具も使い方や使用するタイミングを間違えば、無用の長物と化してしまう。
その点をソフィアは指摘した。
実際、瘴気の弊害を解消でき、何の不安もなくファヌス大森林に入ることができているのは事実。
レイヴンは、甘んじて、その称賛を受けることにした。
ホッとした空気が流れ、やや弛緩した瞬間、レイヴンの肩の上で弟のクロウが警鐘を鳴らす。
「兄さん、大森林の奥から何か来る」
咄嗟に迎撃する態勢を取った黒髪緋眼の青年が見たのは、茂みから飛び出して来た四匹の野獣の姿だ。
黒い四肢に赤く光る目、鋭い牙を持っており、この姿かたちのモンスターはヘルハウンドで間違いない。
すかさず、『金庫』から、『炎の剣』を取り出したレイヴンは、一撃で難なく、その一匹を仕留めた。
『神速』のスキルを持つ剣の達人モアナも、刹那の動きを見せ、迫るヘルハウンドを愛刀『千鳥』の錆にしている。
「たわいもない敵ねぇ」
気付いた時には、“チン”という刀を鞘に収めた時に発する音が響いていた。
これで、襲ってきた野獣は残る二匹。
見ればメントフ王国の騎士団は、ユリウスの前を盾役で固めていた。残りの二人が左右に展開し、槍を構えている。
素早い動きで要人を守るための鉄壁の陣形を組んでいたのだ。そこに二匹のヘルハウンドが突っ込んでいく。
野獣の牙を盾役が期待通りに受け止めた。続いて、槍を持った二人が、それぞれに一撃ずつを食らわせる。
見事な連携だった。
よく訓練されているのが伺い知れる。
しかし、詰めが甘く仕留めきれていなかったのか、一匹が不意にユリウスの喉元へと迫っていった。
危ないと思われた瞬間、カーリィの紐がヘルハウンドの後ろ脚に巻き付く。動きを遅らせると、モアナが再び『神速』のスキルを見せつけるのだ。
血飛沫とともに野獣の首が宙を舞う。
「メントフ王国には、『残心』という言葉はないのかい?」
主の窮地を救ってくれたため、本来は礼をいうべきところなのだが・・・
犯した失態に恥じ入る自尊心とモアナの一言によって、ホリフィールドが逆上する。悪態をつき海の民の剣の達人を睨みつけるのだ。
気の強いモアナと一触即発の雰囲気となる。
そこを慌ててユリウスが二人の間に割って入った。
「ホリフィールド、君のミスは明らかだ。ここは、この女性に感謝するところだろう」
主君に咎められて、仕方なく頭を下げるホリフィールドだが、その顔には不満の色が明らかに出ている。
まだ、ファヌス大森林の中にも入ったばかりだというのに、友好関係が築けそうもないのが明確に分かった。
レイヴンは、やれやれと思うが、このメンバーで行くと決めた以上、仕方がない。
次のモンスターがやってくる前に、まずは、この場を離れるよう一行を動かすのだった。
ところが、今は瘴気に満ち溢れ、人々の侵入をかたくなに拒んでいる。
そもそも『迷いの森』と呼ばれるほどの深い大森林だったが、それは人々を拒否しているのではなく、むしろ緑を愛する者にとっては、活力を与える場所でもあった。
だが、今は明らかな拒絶がそこにある。
もしかしたら、『現状危険な状態である緑の中に入るな』という警告ではないかと感じるほどだった。
それはファヌス大森林の意思のようにさえ、感じてしまうのである。
南の大国メントフ王国の先兵隊。王太子ユリウスを警護する騎士団を加えたレイヴン一行は、宿場町グレースで旅の準備を整えてから、出発した。
特に黒髪緋眼の青年は、食糧と水を大量に購入する。
売った商人からは、「明日から、食べる物がなくなるよ」という声が飛び出すほどだった。
それでも、困った様子もなく、ホクホク顔なのは、通常料金の倍の金額で売れたからである。
レイヴンは、瘴気で困窮するグレースの街に多くの金銭を落とすことで、少しでも復興に役立ててほしいと考えたのだ。
街を出て、目指すべきファヌス大森林に近づいて行くと、明らかに空の色が違うのが分かる。
グレースの街に到着した、昨日よりも瘴気の量が増えているという感想を全員が持つのだった。
生まれ故郷である大自然。見る影がない現状を目の当たりして、言葉が出ないソフィア。
もし、一人で目撃していたら、その場に崩れ落ちていたかもしれなかった。
しかし、今は仲間が共にいる。気を取り直して、その仲間たちにアドバイスを送った。
目指す場所は、ファヌス大森林であるが、より詳細に言うのなら、『森の神殿』が目的地である。
案内人としての役目を果たさなければならないのだ。
「ファヌス大森林に明確な入り口はありませんが、目的地が『森の神殿』なら、話が変わります」
「専用の入り口があるってこと?」
カーリィと同じ疑問をレイヴンも持つ。何か最短ルートのようなものがあるのかとも期待を持った。
ソフィアの応えは、彼の意に沿ったものだったが、よく聞くと、それほど楽な道のりではなさそうな事が分かる。
「入り口と銘打っている場所はありませんが、大森林の中は意外と高低差があったり、難所と呼ばれる個所がいくつもあります。できるだけ回避するならば、西方面から入るのがベストです」
遠くから見れば、平坦に見えるファヌス大森林も、実は高低差があるというのには驚いた。
やはり、謎のベールに包まる大森林。
『迷いの森』の異名は、伊達ではないといったところか・・・
ソフィアの話では、一番、楽なルートを通るためには、半日近く大森林の周囲を時計回りで歩き、今の地点より北の方向に移動する必要があるらしかった。
この優秀な案内人の指示通り、一行は、そのポイントまで移動することにする。
ところが、その間、大森林から流れ出る瘴気を吸いながら歩くため、気分を悪くする者が出始めたのだ。
森の民ソフィアも、その一人である。
大森林の中は道が整備されているわけではないため、王国の紋章入りの馬車は使えないとグレースの街に預けてきた。
だが、もしかしたら、キャビンの中であれば、少しは瘴気を緩和できたかもしれない。
今さらながら、その判断をレイヴンは悔やむのだった。
「私は、大丈夫ですから、気にしないで下さい」
そうは言っても、明らかに顔色が悪い。ファヌス大森林が発する瘴気は、森の民と相性が最悪なのかと思えた。
大森林の中にいるはずのアンナたち、森の民の事も心配になって来る。
「大精霊のサラマンドラ、ウンディーネからいただいたお守りの効力は、発揮されないのだろうか?」
一行の後方にいたメントフ王国の騎士団の中から声が上がった。声の主のユリウスは、自分の配下の中にも体調を崩している者がいるため、救いの案を確認したのである。
確かに大国の王太子が言うように、瘴気からガードするために大精霊の二体は、『ガンダーンタ』と呼ばれるペンダントをくれたのだ。
だが、このお守りは自動発動ではない様子。もしかしたら、ファヌス大森林の中に入らないと発動しないのだろうか?
確かめるすべは、実際に行動してみるしかない。
「ソフィア、予定の侵入個所に着くには、まだ距離があるんだろうか?」
「・・・もう少し、先の方がいいと思いますけど、入りますか?」
青白いソフィアの顔を見ると、一刻も早い対策が必要だと思われた。レイヴンは、頷くと進路をファヌス大森林の中へと舵きる。
「ルート的に少々、厳しくなるかもしれないが、今は体調を優先したい」
その言葉に異議を唱える者はおらず、皆、足早に大森林に向かった。
すると、一行が『迷いの森』に入る手前で、胸の部分から光が発せられる。首から掛けていたペンダントが輝きだしたのだ。
その光が全身を覆い、何か膜というほど具体的ではないが、触ることができない境界が自身に創られた感覚を感じ取る。
そして、これまで苦しんでいた体調が、嘘のように軽くなるのだ。
「これが大精霊の力か・・・」
サラマンドラやウンディーネの力を信じていたレイヴンたちと違って、ユリウスはこの霊験あらたかな現象に、ただただ舌を巻く。
顔色が明らかによくなったソフィアもレイヴンに感謝の意を示した。
「ありがとうございました。これなら、瘴気も気にせずにすみそうです」
「感謝するのは、サラマンドラとウンディーネにだよ」
「いえ、計画を前倒しする判断をしたのは、レイヴンさんです」
どんな素晴らし道具も使い方や使用するタイミングを間違えば、無用の長物と化してしまう。
その点をソフィアは指摘した。
実際、瘴気の弊害を解消でき、何の不安もなくファヌス大森林に入ることができているのは事実。
レイヴンは、甘んじて、その称賛を受けることにした。
ホッとした空気が流れ、やや弛緩した瞬間、レイヴンの肩の上で弟のクロウが警鐘を鳴らす。
「兄さん、大森林の奥から何か来る」
咄嗟に迎撃する態勢を取った黒髪緋眼の青年が見たのは、茂みから飛び出して来た四匹の野獣の姿だ。
黒い四肢に赤く光る目、鋭い牙を持っており、この姿かたちのモンスターはヘルハウンドで間違いない。
すかさず、『金庫』から、『炎の剣』を取り出したレイヴンは、一撃で難なく、その一匹を仕留めた。
『神速』のスキルを持つ剣の達人モアナも、刹那の動きを見せ、迫るヘルハウンドを愛刀『千鳥』の錆にしている。
「たわいもない敵ねぇ」
気付いた時には、“チン”という刀を鞘に収めた時に発する音が響いていた。
これで、襲ってきた野獣は残る二匹。
見ればメントフ王国の騎士団は、ユリウスの前を盾役で固めていた。残りの二人が左右に展開し、槍を構えている。
素早い動きで要人を守るための鉄壁の陣形を組んでいたのだ。そこに二匹のヘルハウンドが突っ込んでいく。
野獣の牙を盾役が期待通りに受け止めた。続いて、槍を持った二人が、それぞれに一撃ずつを食らわせる。
見事な連携だった。
よく訓練されているのが伺い知れる。
しかし、詰めが甘く仕留めきれていなかったのか、一匹が不意にユリウスの喉元へと迫っていった。
危ないと思われた瞬間、カーリィの紐がヘルハウンドの後ろ脚に巻き付く。動きを遅らせると、モアナが再び『神速』のスキルを見せつけるのだ。
血飛沫とともに野獣の首が宙を舞う。
「メントフ王国には、『残心』という言葉はないのかい?」
主の窮地を救ってくれたため、本来は礼をいうべきところなのだが・・・
犯した失態に恥じ入る自尊心とモアナの一言によって、ホリフィールドが逆上する。悪態をつき海の民の剣の達人を睨みつけるのだ。
気の強いモアナと一触即発の雰囲気となる。
そこを慌ててユリウスが二人の間に割って入った。
「ホリフィールド、君のミスは明らかだ。ここは、この女性に感謝するところだろう」
主君に咎められて、仕方なく頭を下げるホリフィールドだが、その顔には不満の色が明らかに出ている。
まだ、ファヌス大森林の中にも入ったばかりだというのに、友好関係が築けそうもないのが明確に分かった。
レイヴンは、やれやれと思うが、このメンバーで行くと決めた以上、仕方がない。
次のモンスターがやってくる前に、まずは、この場を離れるよう一行を動かすのだった。
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