低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第98話 間の悪いモンスター

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雲が流れ、朝日が昇る。
ファヌス大森林での三日目の朝を無事に迎えることができたレイヴンは、昨晩の戦闘を振り返った。

聖なる火セイクリッドファイア』の効果が絶大なのは証明できたが、明るさは逆にモンスターを引き寄せるようである。
そうなると、やはり安全地帯セーフティーゾーから外れるのは、通常より危険という事だ。

「生理現象とは、盲点だった。次からは、共同トイレを用意するよ」
「すまないが、そうしてもらえると助かる」

これは、メントフ王国の王太子が、部下の失態で迷惑をかけた点を、改めて謝罪している中で生まれた会話。
ユリウスは、素直にレイヴンの提案に感謝する。

イグナシア王国の一団とメントフ王国の一団は、それぞれ分かれて朝食を済ませると、旅装を整えて、再び『森の神殿』を目指して、行動を開始した。

昨夜戦ったモンスターは、ヘルハウンドではなくスケルトン。
ファヌス大森林の奥に進むほど、アンデット系モンスターが強力になっていくという事だろう。

つまり、進めば進むほど警戒度を増していかなければならないのだ。
レイヴンとユリウスは相談し、行軍の際の監視体制を強化するよう、分担を取り決める。

案内人のソフィアを抜かした9人と1羽は、周囲に気を配りながら、互いに死角を消して進んで行った。
但し、アンデット系モンスターは土中から突然、現れることも考えられる。
遠くにばかり集中していると、足元をすくわれることがあるのだ。

クロウを含めた二十の瞳は、けして油断することなく、僅かな変化も見逃さないようにして、より、慎重にゆっくりと進む。

ソフィアの計画では、目的地への到着は、後五日程度とのことだったが、もしかしたら、その日数が伸びるかもしれない。

しかし、それもレイヴンは致し方なしと捉えた。
何をおいても、安全の方が優先なのである。

遅々としながらも、大森林の中を確実に前進していくと、進んだ距離に比例して時間も経過していった。
大きく育った木々のせいで、太陽の位置が掴みづらいが、間もなく正午を迎える時間となる。

レイヴンが小休憩を考えながら進んでいると、不意に衣服を強く引っ張られた。
振り返ると、それはソフィアなのだが、彼女は黒髪緋眼くろかみひのめの青年よりも、右方向の地面に目をくれている。

そして、地面が膨れ始めると、そのレイヴンを掴む手の力が増した。

「きゃあっ」

程なくして、ひょっこり、地面から人の右手が生えると、思わずソフィアが悲鳴を上げる。
それと同時に皆の視線が、異変が起きている一点に集中した。

しばらく空を掴むような動きをしていた右手は、地面を抑えつけるようにして力むと、その後、腐乱した顔が登場する。

「きゃあああっ」
「リビングデッドだ!」

女性陣の悲鳴と、ほぼ同じタイミングで誰かが叫んだ。その通り、現れたのは『生ける屍』と呼ばれるリビングデッドである。

すぐさま、戦闘態勢に入るが、レイヴンはあることを気にかけた。
もう人としては、生命が尽きていることは一目瞭然だが、生前は何をしていたのかという事。

これがもし森の民であった場合、残酷なシーンをソフィアに見せなければならない。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。彼女曰く、髪の毛の色では判別つかないが、服装は同族のものでないとの事。

森の民である可能性は極めて低いようだ。
であれば、『迷いの森』と知らず足を踏み入れた旅人か、もしくは生きて森を出ることを望まない自殺志願者か・・・

真相は分からないが、自分の死後、体をこのように弄ばれるのは、彼らとしても本意ではないだろう。
レイヴンは、すぐに楽にしてやろうと、『炎の剣フレイムソード』を構えた。

出てきたリビングデッドの数は、全部で四体。
自然と、レイヴン一行とメントフ騎士団で二体ずつ受け持つ流れとなる。

王太子の側近、ホリフィールドは陣形を整えるため、仲間に呼びかけた。

「ゴッソ、ラスカル、バーニン。ユリウスさまを中心に『方円の陣』だ」
「はっ」

号令の元、四人はユリウスの周囲を囲み、槍、剣、盾とそれぞれの武具を構える。
『方円の陣』は、攻撃よりも守備に特化した陣形であった。

何があっても王太子を守るという騎士たちの意気込みは伝わるが、いささか過保護でないかと思わないではない。
ホリフィールドとしては、姿を現していないモンスターをも懸念しての陣形だと思うのだが・・・

昨夜のスケルトンとの戦いぶりを見る限り、ユリウス自身の戦闘能力は、相当、高いはずなのだ。
アンデット系とはいえ、モンスターにそう簡単に後れを取るとは思えない。

まぁ、他所に他所の事情がある。深く考えても仕方ないと思っている内に、リビングデッドの一体にモアナが斬り込んで行った。

かのモンスターには、スケルトンのような再生する能力はない。とりあえず、戦闘不能にすればよかった。
動けない状態にして、最後、火属性の攻撃で仕留めるのが、リビングデッドの基本的な倒し方である。

モアナの剣技であれば、『生きる屍』の動きを封じ込めるなど、赤子の手をひねるようなものだ。
レイヴンが止めを刺す準備をしていると、彼女の剣の構え方が、いつもと異なることに気付く。

火界烈斬アチャラキル

後で確認すると、独特の手印を結ぶことにより、武器に属性を付与できる技が海の民に伝わっているという話だった。
今回は、火印という印契いんげいを結び、『千鳥』に火属性を付与したらしい。

彼女の一刀がリビングデッドの首を捉えると、斬り口から炎が燃え上がるのだ。
宙に浮いた頭と地に残った胴体、それぞれが激しく燃焼する。

「ふぅ。記憶が戻ってから、しばらく経つけど、ようやく、体の動きも戻って来たようだねぇ」

モアナのこの言葉が本当なら、あの魔獣スキュラとの死闘での活躍も、彼女にしてみれば本調子ではなかったという事だ。
この天才剣士の底知れぬ実力に、レイヴンは何とも頼もしく思う。

これで、残るモンスターは三体となったが、メントフ騎士団が一体を倒したところを目撃したレイヴンは、自分の仕事に取りかかることにした。

「じゃあ、俺も一体、始末するかな」

剣術に自信がある訳ではないが、手にする『炎の剣フレイムソード』は、それを補って余りある性能を示す。
袈裟斬りで倒したリビングデッドの体は、大精霊サラマンドラの炎で、あっという間に灰燼かいじんに帰す。

そして、最後の一体をメントフ騎士団が仕留めて、モンスターの討伐が完了するのだった。
ユリウスの方でも、二体のリビングデッドに火をつけている。これは、メントフ王国、自慢の魔法道具マジックアイテムによるものだ。

これで、一件落着。さて、昼休憩というタイミングであったが、さすがに食事を言い出す者は誰もいない。
屋外で食べるのはどうしても火を使う料理ばかりとなった。リビングデッドを焼いたばかりの今、連想してしまって、食欲がわく訳がない。

「仕方ない、しばらく進むか」
「そうね。このまま進むと小川があるはず。そこで休憩をとりましょう」

ソフィアの提案に皆が賛同した。その小川も瘴気で汚染されている可能性はあるが、水の流れる音を聞くだけでも、いい気分転換にもなるかもしれない。
一同は、少々空かせたお腹を触りながら、歩き始めるのだった。
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