低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第97話 ユリウスのスキル

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深緑のファヌス大森林。その夜は長かった。
人工物がないだけに、今、キャンプスペースを照らすのは、『炎の剣フレイムソード』から発せる『聖なる火セイクリッドファイア』だけである。

この光が自分たちの命綱。安全地帯セーフティーゾーンを示すことを全員が理解していた。
しかし、その場から離れるしかない、やむなき事情が生まれることがある。

その一つが生理現象だった。

メントフ王国の騎士団の一人、ゴッソは自分たちが眠るテントを出ると、光の中から外れて大森林の中へと入る。
自分の主君であるユリウスの近くで、用を足す事は憚られたからだ。

ゴッソは、さっさと済ませて戻ろうと軽く考えるのだが、こんな時、男性でよかったなどと変な思考に走る。
加えて、『イグナシア王国側は女性が多いが、どうしているのだろうか?』と、余計な心配までしだした。

実際は、ロッジの中にトイレはおろかシャワーまで装備されているので、まったく問題ないのである。
無事、小雉を撃つことができたゴッソがキャンプスペースに戻ろうとするのだが、そこで不穏な空気を感じ取った。

この気配は、近くにモンスターがいることに間違いない。ただ、今までのヘルハウンドとは違い、もっと無機質な相手。
もしかしたら、アンデット系モンスターではないかと予想した。

『走って、この場を離れるか・・・それとも』

救援を呼ぼうにも、少々、キャンプスペースから離れすぎている。
木々の隙間から、僅かに除く月明かりを頼りに目を凝らしていたゴッソは、草藪から出てきた相手を見た時、覚悟を決めるのだった。


最初に異変に気付いたのは見張り台で休息していたレイヴンである。
ほぼ野宿に近いため、外の気配や音は敏感に感じ取ることができたのだ。

『誰か、戦っているのか?』

微かに聞こえる金属音は、通常、大森林の中では聞こえない音。
こんな時間に自分たち以外の者がファヌス大森林にいるとは思えないため、同行する仲間の誰かが『聖なる火セイクリッドファイア』の影響範囲から離れたと考えるのが自然である。

レイヴンは、すぐに早鐘を鳴らした。
ロッジの中から、真っ先に飛び出してきたのはモアナ。

「何事だい?」

愛刀『千鳥』を片手に問いかけてきた。
安全確保のため、見張り台から離れることができないレイヴンは、高い場所から大声をあげる。

「誰か分からないが、大森林の中に入った奴がいるようだ。モンスターに襲われている可能性が高い」

その言葉を聞くや否や、モアナは躊躇なく暗闇の中に飛び込んで行った。
彼女の耳にも微かな戦闘音が聞こえたのである。その音の方向へ向かったのだ。

続いて、メントフ王国の騎士団がテントの中から出てくる。
すると、仲間の一人がいないことに騒然とするのだった。

「ユリウスさま、ゴッソの奴が見当たりません」
「・・・分かった。おそらく、中に入ったのは彼だろう。我らも救援に向かうぞ」

海の民の剣士に遅れて、メントフ王国の騎士団も大森林の闇の中へと駆け出していく。
その様子を心配そうにレイヴンは見つめていた。

「レイヴン、私たちのことは気にせず、あなたも行って」

見張り台の下からカーリィの声が聞こえる。
だが、『聖なる火セイクリッドファイア』がなくなれば、このキャンプスペースも安全ではなくなるのだ。
判断を誤れば、被害の拡大につながる。

しかし、襲ってきたモンスターの規模が分からない以上、モアナたちだけで大丈夫かという心配は拭いきれなかった。

黒髪緋眼くろかみひのめの青年は、悩みぬいた挙句、『金庫セーフ』の中から、薪を取り出す。
井桁型いげたがたに組み上げた焚き木に、『聖なる火セイクリッドファイア』を飛ばしたのだ。
即席の聖なるキャンプファイヤーは、朱色の炎を上げて燃え上がる。

「気休めかもしれないが、少しは役立つだろう。このキャンプファイヤーを中心にして、周囲を警戒してくれ」
「分かったわ」

残ることになるカーリィとメラ、ソフィアは頷くと走り出すレイヴンの背中を見つめるのだった。


最初に現場に到着したのは『神速スウィフトネス』のスキルを誇るモアナである。
彼女が目にしたのは、傷を負いながらも懸命に奮闘する男の姿だった。
その相手は、片手剣を持った骸骨。アンデット系モンスターの代表格でもあるスケルトンだ。

「助けに来たよ。もう少しだけ、頑張りな」

声の方を見たゴッソは、僅かに安堵の表情を見せる。彼はすぐに戻るつもりだったため、大した装備をしていなかったのだ。

手にしているのは、致命傷を与えられるとは思えない短剣のみ。
スケルトンは五体おり、逆に言えば、よく持った方だと言えた。

モアナは『千鳥』を抜くと、瞬時に二体を斬り伏せる。とりあえず、モンスターの囲みからゴッソを救出するのだ。

ところが、倒したはずのスケルトンは、その後、崩れた骨が集まり始め、時間とともに元の姿に戻る。
それは、何度、モアナが斬り倒しても同じだった。

「こいつは、切りがないねぇ」

これがアンデット系モンスターの非常に厄介なところ。
当初から戦っているゴッソも、このモンスターの特性で絶望感を味わっており、打開策が見つからないのだった。

「ゴッソ、無事か?」

そこにユリウスをはじめとしたメントフ王国の騎士団がやって来て、同僚を保護する。
僅かに遅れたレイヴンが到着すると、すかさず呪文を唱えた。

買うパーチャス

瞬時にゴッソの傷を治すと、返す刀でスケルトンにお見舞いする。

返品リターン

レイヴンの攻撃が炸裂すると、アンデット系モンスターはその場に崩れ落ちた。・・・が。
やはり、物言わぬスケルトンは、何事もなかったかのように復活する。
いっこうに戦いの終焉が見えなかった。

「数、打ちゃ、いつか当たるだよ」

モアナがヤケクソ気味に、スケルトン一体に乱れ斬りを放つ。

無限斬りインフィニティチョップ

すると、この攻撃が功を奏した。手にした『千鳥』に、ようやく手応えを感じるのである。
モアナの斬撃を受けたスケルトンが砂と化したのだ。

「胸の中心に核があるわ。そこを狙うのよ」

胸骨に守られて分かりづらいが、よく見ると肋骨の隙間から丸い珠のようなものあるのが分かる。
それがスケルトンを動かしている核のようだ。

「分かった」

モアナのアドバイスに反応したレイヴンは、『炎の剣フレイムソード』を真っすぐ振り下ろす。
鋭い刃は、そのままスケルトンの核に達し、剣が纏う炎によって、燃え上がった。
これはレイヴンの技量と言うよりも、ほとんど『炎の剣フレイムソード』の性能のおかげである。

一方、メントフ王国の騎士団は、変わらず苦戦を強いられていた。
弱点は分かったのだが、スケルトンの硬い骨に阻まれて、なかなかモンスターの核を破壊することができずにいる。

そうこうしている内にモアナとレイヴンが、それぞれ二体目を倒した。これで残るはメントフ騎士団が相手をしているスケルトン、一体となる。

そこで、なかなか結果を出せない自国の騎士団に代わってユリウスが、自身のスキルを発動する事にした。
剣の柄に手をかけるとスケルトンに向かって行く。

通過パッセージ

綺麗に振り抜いたメントフ王国の王太子の剣は、硬いスケルトンの骨を通過し、モンスターの動力源である核まで届いた。
見事に破壊すると、最後の一体が砂と化す。

「ふーっ。そちらが四体で、こちらは一体か・・・バランスは悪いが、とりあえずボウズを免れて良かったよ」

そう自嘲気味にユリウスは話すが、彼が見せたスキルには、正直、レイヴンは脅威を感じていた。

通過パッセージ』のスキルを使えば、おそらく外傷は一切与えず、体の内部だけを傷つけることも可能となるのだろう。

通過するものに制約がないのなら、彼の攻撃には、どんな防御も意味をなさないことになる。
敵対することは、今のところ想定していないが、対策を考えておいても損はないと思うレイヴンだった。
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