低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
96 / 188
第4章 呪われた森 編

第96話 わだかまりの解消

しおりを挟む
エウベ大陸の中央に位置し、『世界の肺』と言っても過言ではないファヌス大森林。
別名『迷いの森』と呼ばれる、この深緑の地へと足を踏み入れ、二日目を迎えたイグナシア王国とメントフ王国の混成部隊。

それは、イグナシア王国の『国王巡察使』という立場にあるレイヴン一行と、メントフ王国の王太子ユリウスが率いる騎士団だった。

そもそもレイヴンの仲間は、砂漠の民、海の民、森の民とバラエティーに富んでいる。レイヴン一行だけで、混成部隊と呼んでもおかしくはない。

その部隊の道中は、先頭を歩くレイヴンの『聖なる火セイクリッドファイア』の効果のおかげか、モンスターから襲われる機会は、著しく減るのだが、幾ばくかの戦闘はあった。

隊列の後方は光りが届きにくく、アンデット系モンスターからすれば、格好の的に見えるのかもしれない。

そこで、殿しんがりには最強の人材を配置して対処する事にした。海の民のモアナとユリウスの側近、ホリフィールドである。

モンスターの気配を素早く察知するとモアナは『神速スウィフトネス』のスキルを駆使し、瞬く間に殲滅していった。
遊撃隊として動く剣の達人に対して、ホリフィールドはその場から動かない。スキル『護衛ガード』を発動し、モンスターの攻撃を防ぐのだ。

ホリフィールドが時間を稼ぎ、その間にモアナが仕留める。
案外、この二人はいいコンビになるのではないかと思われた。

「あんた、いいスキルを持っているんじゃないか」

モアナが褒めるとホリフィールドは、「ふんっ」とそっぽを向く。
初日、ヘルハウンド相手に見せた失態を咎められたことを、まだ根に持っているようだ。

確かにあれは自分のミスだとホリフィールド自身も認めている。モンスターを舐め切って、スキルすら発動しなかったのだから・・・

だが、大国の騎士として、王太子の側近を任せられるほどのエリートの彼は、そう簡単に飲み込むことができないのだった。

しかし、モンスター相手の戦闘を繰り返す事で、二人の間に、多少の信頼関係が構築されていくのをレイヴンは見逃さない。
最初は、どうなる事かと思ったメンバー構成だったが、どうにかまとまりつつあるようだ。

こうして、二つの団体の歩き詰めの行軍、二日目の行程も、ようやく終わりを告げようとする。
高い木々に隠れて、太陽の傾きは見えないが、頃合いとしては、そろそろ日の入りの時刻が近づいていたのだ。
昨日、同様に適当なスペースを確保して、お互い宿営の準備を始める。

メントフ王国は自慢の魔法道具マジックアイテムでテントを楽に設営することができるのだが、それ以上のスキルを見せつけられるため、あまりレイヴンの方を見なかった。

但し、中央に建てられた見張り台の設置の時だけは、嫌でも目に入る。
悔しいが、その妙技には惚れ惚れするのだった。

昨日、寝床に問題があるとボヤいていた黒髪緋眼くろかみひのめの青年は、『制作プロデュース』のスキルで、『炎の剣フレイムソード』を固定できる設置台を作る。
寝ながら、負荷のかからない高さを自在に調整し、瞬く間に改善してみせた。

それと同時にメントフ王国のテント設置が完成するのだから、レイヴンの仕事の早さには感歎するしかない。
そんな異国の青年にユリウスが擦り寄って来るのだった。

「本当に君のスキルには、驚かされるな。ますます、評価が上がるよ」

昨日話した、引き抜きの件をぶり返す。しかし、こんな片手間作業を褒められたところで、むず痒いだけだ。
社交辞令で、返答した後、レイヴンは火起こしを始める。

本日は、ロッジの中の台所キッチンではなく、外で調理をしようと考えたのだ。
今晩の献立は、鶏肉の炙り焼きに野菜のスープ。それにロールパンをつければ完成である。

レイヴンは『金庫セーフ』の中から、火が付いている薪を地点ポイント指定で、簡易的な竈の中にくべた。
あっという間に準備を整えると、早速、調理を開始する。

「私、手伝います」

日中の行軍では戦闘に参加しないソフィアが、率先して鍋の前に立った。
冒険経験の少ない彼女にとって、歩くだけでも大変だろうにと身体を心配する。一方で、彼女の行動には、故郷の現状から、今は体を動かしていた方が、余計な事を考えずにすむのかもとおもんばかるのだった。

「じゃあ、この野菜を一口大に切って、鍋に入れてくれ」
「分かったわ」

ソフィアが手際よく、食材を処理するとレイヴンの指示通り、鍋に投入する。
普段から、料理はこなしている包丁さばきであった。

スープ自体は、事前に完成した物が『金庫セーフ』の中に入っており、後は具材が煮立つのを待つだけ。
鍋の方をソフィアに任せて、レイヴンは鶏肉の炙り焼きに取りかかった。

次第に、辺りには鼻腔を誘ういい匂いが立ち込める。
料理が完成すると、クロウを入れた六人は美味しい料理に舌鼓を打った。

メントフ王国の騎士団は、やっと火起こしが終わり、これから夕食の支度を始めるところ。
先に美食を味わうのに罪悪感を覚えたレイヴンは、スープの提供を提案した。
カーリィとメラが、お盆に乗せた人数分のスープをユリウスの元へと運ぶ。

「私たちが先に食べているから、毒は入っていないのは確認済みよ」
「今さら、そんなことは疑わないさ」

受け取ったユリウスが、早速、口をつける。一日、歩き通した体に、温かいスープは、疲労した体の骨身にしみた。
疲れが和らいだような気分になる。

「美味しいな。これは、君が?」
「いえ、レイヴンよ。自分で用意したのか、どこかの食堂から調達したのかは、知らないけど」

まぁ、結局、誰が作ったかは関係なく、美味しい料理が食べられれば、それで十分。
このおすそ分けにユリウスは感謝する。

食事の途中だが、カーリィとの二人の間に、やや気まずい沈黙が訪れた。
だが、このままではいけないという思いから、メントフ王国の王太子が口を開く。

「・・・中途半端な求婚で、君に迷惑をかけたな」
「私だって、今、生きている事が不思議でならないわ。王国を維持するためのパートナー選びという点では、賢明な判断よ」

砂漠の民とメントフ王国は、立地的に近い位置にあるため、親密な関係を築いていた。
次世代の指導者となる王太子ユリウスと族長の娘カーリィの縁談の話も、両国の関係から自然に生まれた話。

ところが、カーリィがいずれ命を落とす『精鎮の巫女』だと知ると、メントフ王国側は手の平を返したのだ。
縁談はなかったことにして、国交も冷え切るのである。

そんなメントフ王国の方針や態度から、腹を立てたカーリィとメラが、以前、ユリウスの事をアホ王太子と呼ばわったのだった。

「・・・何を言っても、全てはいい訳さ。・・・ただ、率直にあの時の非礼を謝りたい」
「私自身も、恋愛はおろか、生きることも半ば諦めていた。・・・それりゃ、一時は頭に来たけど、もう大丈夫よ」
「それは彼がいるからかい?」

ユリウスの言葉に、やや離れた位置にいるレイヴンをカーリィは見つめる。そして、メントフ王国の王太子に向き直すと、素直に頷いた。

「今の私があるのは、レイヴンのおかげ。彼にとっては、当たり前の事をしただけかもしれないけど、私はレイヴンに出会って全てが変わった」

「だろうね。以前より、生き生きとしているのが、はっきりと分かるよ」
「諦めていた恋愛をしているからかな」

ヘダン族族長の娘の明るい笑顔に、ユリウスも自然と口元が綻ぶ。止めていた手を動かし、再び、スープの味を噛みしめた。

カーリィとユリウスにあったわだかまり。これが、今回の合同行動の足枷になる懸念があった。
それを取り除くために、あの黒髪緋眼くろかみひのめの青年はスープを用意し、カーリィに運ばせたのではないか・・・

そのことを当の二人は、薄々、勘づくのだった。また、ある意味、レイヴンが背中を押してくれたのだとも思う。

その期待に応えて、悪い感情を払しょくすることができたのは、何とも喜ばしい話だ。お互い確認するまでもなく、それは理解している。

ユリウスは、今日食べたスープの味を一生、忘れることがないのだろうと思うのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...