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第4章 呪われた森 編
第95話 ユリウスの真意
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ファヌス大森林を朝陽が包んだ。
今は、瘴気に覆われているため、心地よい日差しとはならないが、夜が明けたことは十分に分かる。
見張り台の上で目が覚めたレイヴンは、右腕にしびれが残る事に顔をしかめた。
やはり、寝る体勢に無理があったようである。そこは改善点だなと思いつつ、『聖なる火』をジッと見つめるのだった。
炎の揺らぎが、心を落ち着けるリラックス効果があると聞いたことがあるが、今の『炎の剣』にも同様の効能があるのかもしれない。
しばらく、眺めていたのだが、見張り台の下が騒がしくなってきたため、本格的に起きようと立ち上がった。
仲間のカーリィとメラが外に出て来て、レイヴンに向かって手を振る。
お返しに手を上げた後、下に降りようとするのだが、黒髪緋眼の青年に、単純な疑問が湧き上がった。
「『聖なる火』は、どうやって、解除するんだ?」
無事?『聖なる火』を解除できたレイヴンは、朝を迎えて、改めて仲間全員の顔色を確認する。
『ガンダーンタ』で守られているとはいえ、グレースの街より、明らかに濃い瘴気の中で一晩を過ごしたのだ。
体調を崩していないかを心配したのである。
「みんな問題なさそうだな」
「大丈夫よ。それより、朝食の準備を始めたいんだけど」
カーリィをはじめとして元気な返答に安心すると、『金庫』の中から、必要な食材を取り出した。
レイヴンが、特に気にしていたのは、ヘルハウンドという本来、ファヌス大森林にいるはずのないモンスターの存在にショックを受けていたソフィアである。
しかし、カーリィとともに台所に立つ、彼女の後姿を見る限りは、メンタルの部分も大丈夫そうだった。
皆で朝食を済ませた後、珍しく南の大国メントフ王国の王太子ユリウスがレイヴンの元へやって来る。
何の用事か皆目、見当がつかないが、対応しないわけにはいかなかった。
「おはよう。部下たちから聞いたが、昨晩はモンスターの気配すら、まったくなかったそうだ。君の能力は、本当に素晴らしいね」
「俺というより、大精霊たちの力だけどな」
「いや、その大精霊たちから助力を得られるのも含めて、君だからこそだ」
朝から、おべっかを聞かされて、何だか背中のあたりがムズムズする。
それはメントフ王国に対して、警戒を解いていないせいでもあった。
今回、彼らがレイヴンたちに同行し、ファヌス大森林に入る理由は、『森の民に責任があるかを確認するため』である。
聞きようによっては、『森の民の潔白を証明するため』ともとれるのだが・・・
メントフ王国、いやユリウスに、そんな事をするメリットが本当にあるのか、甚だ疑問なのだ。
相手の明確な目的が分からない以上、警戒を抱くのは当然の事。今のままでは、本心で話し合うことなどできなかった。
その後も会話は続くのだが、暖簾に腕押し。レイヴンは、当たり障りのない応答に終始した。
そんな態度に南の大国の王太子が斬り込んでくる。
「そんなに、我々が信用できないかい?」
「正直に言うと、メントフ王国側の真意が分からない。どうしても、用心してしまうのさ」
直球でぶっこんで来たユリウスをダイレクトに打ち返した。裏を返せば、レイヴンは腹を割って話せば、信用すると言っているのである。
「・・・・・」
メントフ王国の王太子は、イグナシア王国の国王巡察使の前で、口を閉ざしてじっと考え込むのだった。
思考の時間が長くなるにつれ、余程の裏事情があるのかとレイヴンは勘ぐる。
そんなに長考にも付き合っていられない。そろそろ、出発の準備を始めなければならないと思った時、ユリウスが緊張を解いた。
「当の本人に、ここまで警戒されれば、正直に話すしかないか・・・」
「当の本人?」
まるで、独り言のように話したユリウスの言葉にレイヴンは反応する。
まともに受け取れば、『当の本人』に該当するのは、自分という事になるが・・・
「実を言うと、君の事は我がメントフ王国でもマークをしていてね」
「マークって言うのは、どういう意味だ?」
「まぁ、端的に言えば、君の能力がどの程度のものか?後、引き抜きが可能かどうかといったところさ」
そんな対象になっているとは思いもしないレイヴンは、驚く。
イグナシア王国内で、多少活躍した覚えはあるが、他国にまで知れ渡っているとは思いもしなかったのだ。
道理で、ユリウスが『黒い翼』などという、マイナーな二つ名を知っているはずである。
レイヴンの事は、ある程度、調べ上げているのだろう。
「それで、お眼鏡にはかなっているのかな?」
「それは調査中さ。ただ、大精霊にも認められている存在と言うのは、ポイントとして大きいと思っている」
率直な感想をユリウスは口にした。やはり、森の民の調査は建前で、レイヴンに対する調査が本命だという事である。
しかし・・・
『本当に、それだけか?』という疑問は残った。
それでも、今はこれ以上の言質を引き出す事は不可能であろう。
レイヴンは、ファヌス大森林での二日目、『森の神殿』までの行程を縮めるべく、準備にとりかかることにした。
「分かったよ。今は、そういう事にしておいてやる。俺たちに仇なす気はないって事だけは、感じ取ったからな」
「そう言ってもらえるだけで助かる。余計な緊張関係は、お互い疲労も蓄積されるからね」
そう話すユリスという人物。
直接会うまでは、カーリィやメラが『アホ王太子』などと言っていたため、どのような人物か、漠然としたイメージしか持っていなかった。
が、『アホ』という言葉から連想されるような温室育ちの王太子では決してなく、裏表を操る強かさと交渉術を併せ持つ男だと見直す。
ユリウスの真の思惑に辿り着いたかは分からないが、レイヴンの利用価値を確信した以上、協力体制を崩したくないというのは本音だろうと看破した。
だから、レイヴンが「仇なす気はない」と言った時、ホッとした表情を一瞬、見せたのである。
道中、背中から首を刈られることがない事が分かっただけでも、朝の会談に収穫があったと、心の中に落とし込んだ。
少なくとも、彼らの真の目的とやらが達成されるまでは・・・
レイヴンは、今までとは、違う目でメントフ王国の王太子を見ようと考えるのだった。
今は、瘴気に覆われているため、心地よい日差しとはならないが、夜が明けたことは十分に分かる。
見張り台の上で目が覚めたレイヴンは、右腕にしびれが残る事に顔をしかめた。
やはり、寝る体勢に無理があったようである。そこは改善点だなと思いつつ、『聖なる火』をジッと見つめるのだった。
炎の揺らぎが、心を落ち着けるリラックス効果があると聞いたことがあるが、今の『炎の剣』にも同様の効能があるのかもしれない。
しばらく、眺めていたのだが、見張り台の下が騒がしくなってきたため、本格的に起きようと立ち上がった。
仲間のカーリィとメラが外に出て来て、レイヴンに向かって手を振る。
お返しに手を上げた後、下に降りようとするのだが、黒髪緋眼の青年に、単純な疑問が湧き上がった。
「『聖なる火』は、どうやって、解除するんだ?」
無事?『聖なる火』を解除できたレイヴンは、朝を迎えて、改めて仲間全員の顔色を確認する。
『ガンダーンタ』で守られているとはいえ、グレースの街より、明らかに濃い瘴気の中で一晩を過ごしたのだ。
体調を崩していないかを心配したのである。
「みんな問題なさそうだな」
「大丈夫よ。それより、朝食の準備を始めたいんだけど」
カーリィをはじめとして元気な返答に安心すると、『金庫』の中から、必要な食材を取り出した。
レイヴンが、特に気にしていたのは、ヘルハウンドという本来、ファヌス大森林にいるはずのないモンスターの存在にショックを受けていたソフィアである。
しかし、カーリィとともに台所に立つ、彼女の後姿を見る限りは、メンタルの部分も大丈夫そうだった。
皆で朝食を済ませた後、珍しく南の大国メントフ王国の王太子ユリウスがレイヴンの元へやって来る。
何の用事か皆目、見当がつかないが、対応しないわけにはいかなかった。
「おはよう。部下たちから聞いたが、昨晩はモンスターの気配すら、まったくなかったそうだ。君の能力は、本当に素晴らしいね」
「俺というより、大精霊たちの力だけどな」
「いや、その大精霊たちから助力を得られるのも含めて、君だからこそだ」
朝から、おべっかを聞かされて、何だか背中のあたりがムズムズする。
それはメントフ王国に対して、警戒を解いていないせいでもあった。
今回、彼らがレイヴンたちに同行し、ファヌス大森林に入る理由は、『森の民に責任があるかを確認するため』である。
聞きようによっては、『森の民の潔白を証明するため』ともとれるのだが・・・
メントフ王国、いやユリウスに、そんな事をするメリットが本当にあるのか、甚だ疑問なのだ。
相手の明確な目的が分からない以上、警戒を抱くのは当然の事。今のままでは、本心で話し合うことなどできなかった。
その後も会話は続くのだが、暖簾に腕押し。レイヴンは、当たり障りのない応答に終始した。
そんな態度に南の大国の王太子が斬り込んでくる。
「そんなに、我々が信用できないかい?」
「正直に言うと、メントフ王国側の真意が分からない。どうしても、用心してしまうのさ」
直球でぶっこんで来たユリウスをダイレクトに打ち返した。裏を返せば、レイヴンは腹を割って話せば、信用すると言っているのである。
「・・・・・」
メントフ王国の王太子は、イグナシア王国の国王巡察使の前で、口を閉ざしてじっと考え込むのだった。
思考の時間が長くなるにつれ、余程の裏事情があるのかとレイヴンは勘ぐる。
そんなに長考にも付き合っていられない。そろそろ、出発の準備を始めなければならないと思った時、ユリウスが緊張を解いた。
「当の本人に、ここまで警戒されれば、正直に話すしかないか・・・」
「当の本人?」
まるで、独り言のように話したユリウスの言葉にレイヴンは反応する。
まともに受け取れば、『当の本人』に該当するのは、自分という事になるが・・・
「実を言うと、君の事は我がメントフ王国でもマークをしていてね」
「マークって言うのは、どういう意味だ?」
「まぁ、端的に言えば、君の能力がどの程度のものか?後、引き抜きが可能かどうかといったところさ」
そんな対象になっているとは思いもしないレイヴンは、驚く。
イグナシア王国内で、多少活躍した覚えはあるが、他国にまで知れ渡っているとは思いもしなかったのだ。
道理で、ユリウスが『黒い翼』などという、マイナーな二つ名を知っているはずである。
レイヴンの事は、ある程度、調べ上げているのだろう。
「それで、お眼鏡にはかなっているのかな?」
「それは調査中さ。ただ、大精霊にも認められている存在と言うのは、ポイントとして大きいと思っている」
率直な感想をユリウスは口にした。やはり、森の民の調査は建前で、レイヴンに対する調査が本命だという事である。
しかし・・・
『本当に、それだけか?』という疑問は残った。
それでも、今はこれ以上の言質を引き出す事は不可能であろう。
レイヴンは、ファヌス大森林での二日目、『森の神殿』までの行程を縮めるべく、準備にとりかかることにした。
「分かったよ。今は、そういう事にしておいてやる。俺たちに仇なす気はないって事だけは、感じ取ったからな」
「そう言ってもらえるだけで助かる。余計な緊張関係は、お互い疲労も蓄積されるからね」
そう話すユリスという人物。
直接会うまでは、カーリィやメラが『アホ王太子』などと言っていたため、どのような人物か、漠然としたイメージしか持っていなかった。
が、『アホ』という言葉から連想されるような温室育ちの王太子では決してなく、裏表を操る強かさと交渉術を併せ持つ男だと見直す。
ユリウスの真の思惑に辿り着いたかは分からないが、レイヴンの利用価値を確信した以上、協力体制を崩したくないというのは本音だろうと看破した。
だから、レイヴンが「仇なす気はない」と言った時、ホッとした表情を一瞬、見せたのである。
道中、背中から首を刈られることがない事が分かっただけでも、朝の会談に収穫があったと、心の中に落とし込んだ。
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