低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第94話 ファヌス大森林の夜

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ファヌス大森林に侵入したレイヴン一行は、初日の夜を迎えた。
アンデット系モンスターがいるとすれば、これからが彼らの時間帯。
当然、襲撃への備えと警戒が必要になる。

メントフ王国の騎士団は、王太子であるユリウスをテントの中で休ませて、交代で寝ずの番をするようだ。
それに倣ってではないが、レイヴンたちも自分たちを守るために見張りを立てる必要がある。
夕食に満足した後、その件について、みんなで話し合った。

「見張りの件だが、案内人のソフィアを外した四人で分担したいと思う」
「それはそうよね。ソフィアには、日中、頑張ってもらわないといけないし」

カーリィが言うように、その差配に文句をいう者はいない。
当のソフィアも自分に戦闘能力がないことを自覚しているため、「ごめんなさい」と謝罪しつつ、その提案を受け入れるのだった。

「では、四人で二時間ずつ交代というのが妥当なところかねぇ」
「そうだな。それで、一番、キツイ中間を俺とモアナで担当しようと思うが、どうだろうか?」

二番目と三番目の見張りは、睡眠時間を分けることになるため、負担が大きい。
そのため、体力に自信があるモアナとレイヴンが担当するのがベストと考えたのだ。

「まぁ、そうなるだろうね。私は構わないよ」
「すまない。モアナを二番目にするから、出番が終わったらゆっくり休んでくれ」

これで会議ミーティングは終わる。最終的に順番は、カーリィ、モアナ、レイヴン、メラの順になるのだった。
早速、トップバッターのカーリィ以外が、就寝の準備を始める。

だが、その前にレイヴンには、確認したいことが一つだけあった。
それは結界についてである。

『ガンダーンタ』は炎と水の境界を造る事で作用する結界だった。
それならば、炎の精霊、水の精霊、それぞれから授かった精霊具でも似たようなことができないかと考えたのである。

試しにカーリィとモアナから、ヘッドティカと籠手を借りて、キャンプ地の両サイドに設置してみた。
そのまま、しばらく様子を見ていたが、特に変化は見られない。

レイヴンは、残念と思いながら、二つの精霊具を回収するのだった。

まぁ、よく考えてみれば、これで何らかの事象が発生するのであれば、普段装備している状態のカーリィとモアナの間にも何がしかの現象が起きているはず。
そんな不思議な出来事は、今まで、見たことがなかった。

これはもう仕方がないと諦めて、二人に精霊具を返した時、レイヴンの身に予想外の現象が起こる。
突然、『金庫セーフ』の中から、『炎の剣フレイムソード』が飛び出してきたのだ。

驚きつつもレイヴンは、愛用の剣に話しかける。こんな事をするのは、炎の精霊サラマンドラしか考えられなかった。

「おい、びっくりするじゃないか。何か用事か?」
「うむ。小僧が面白いことを考えていたようなので、アドバイスをしてやろうと思ってな」

どれだけ暇人ならぬ暇精霊なのかと思いつつ、大精霊の助言に傾聴する。
なんだかんだ言って、彼の力は偉大であり、この状況のアドバイスは必ず役に立つと考えたからだ。

「アドバイスってのは、一体?」
「『ガンダーンタ』を強制的に作り出そうとしたようだが、それは無理だ。あれには、膨大な霊力が必要になる」
「・・・だろうな。試してみて分かったよ」

膨大な霊力っていうのが、どれほどのものか想像できないが、それを十個も用意してくれたことには、改めて感謝の念がある。

口にこそ出さないが、レイヴンは心の中で頭を下げた。
そんな機微を察したのか、サラマンドラの声は心なし弾んでいるように聞こえる。

「『ガンダーンタ』ほどではないが、この『炎の剣フレイムソード』にも浄化作用があるぞ」
「本当か?」

反射的に言葉が出たが、実際に疑っているわけではなかった。
レイヴンは、『炎の剣フレイムソード』の浄化能力とやらに期待を寄せる。

「我が嘘をつくはずがあるまい。まずは、『炎の剣フレイムソード』を手に取り、心を落ち着けて集中するのだ」
「分かったよ」

言われた通りにして、目を閉じてから瞑想する。
すると、頭の中に鮮やかな朱色の炎のイメージが飛び込んできた。

「そして、『聖なる火セイクリッドファイア』と唱えるのだ」

聖なる火セイクリッドファイア

レイヴンが呪文を唱えると、『炎の剣フレイムソード』の刀身がイメージ通りの朱色に染まり炎が噴き出す。
神々しい炎の輝きは、『闇を退ける』力を漲らせている事に、疑いようがなかった。

「アンデットなど不浄なものは、この炎に抗することができぬ」
「なるほどな。こいつは、素晴らしい」

サラマンドラの説明では、この『聖なる火セイクリッドファイア』の光りが届く範囲は、アンデット系モンスターが近づくことができないらしい。
しかも、直接、ぶち込めば一撃必殺の攻撃にもなるということだ。

いい事づくめのようだが、実は欠点もある。
それは『炎の剣フレイムソード』の所有者である、レイヴンが剣に触れていなければならないという事だった。

「まじか・・・しかし、見張りを立てずとも俺以外の仲間は、安心して休めるって事だな」
「なに、剣を握ってさえいればいいのだ。明るさを気にしなければ、小僧も寝ることはできるぞ」

確かに炎の精霊の言う通りだが、こんな近くに明るい光があって眠ることなんてできるだろうか?
それにファヌス大森林の中は瘴気で満ちており、視界がやや悪い。

聖なる火セイクリッドファイア』をキャンプ地、全体に行き届かせるためには、少々、高い位置から照らさなければならなかった。

しかし、そのデメリットを差し置いても有効な能力には違いない。
レイヴンがサラマンドラに礼を述べると、満足したのか大精霊の気配が、『炎の剣フレイムソード』からなくなるのだった。

まだ、就寝前だった仲間を集めて説明し、先ほど取り決めた見張りの件は不要になったと告げる。
一人に負荷が集中することを懸念する声も上がったが、レイヴンは強引に押し切った。
どんな苦労があろうとも、まず優先すべきは安全なのである。

続いて、メントフ王国側にも見張りが不要になった件を説明したのだが、こちらは、いまいち信用していないようだ。

ユリウスの部下であるホリフィールドが、胸を反らせて、「王太子殿下の安全は我らの手で守る」と言い切る。
それならば、「勝手にしろ」とレイヴンは、あっさりと引き下がり、自身の寝床を造る準備を始めるのだった。

金庫セーフ』の中から、適当な材料を見繕って、やぐらのような見張り台を建築する。
聖なる火セイクリッドファイア』の光りを届かせる高さを稼ぐとともに、横になるスペースを確保したのだ。

「兄さん、僕も付き合うよ」
「いや、お前はロッジで休んでいろ。なに、アイマスクでも使えば、いくらでも眠ることはできるさ」

兄の苦労を懸念したクロウの提案を、「俺が寝坊したら、起こしてくれ」と冗談も付け加えて退ける。
大丈夫という兄を翻意させるのは無理な話だ。

素直に諦めたクロウは、カーリィたちと一緒にロッジへと向う。
その心配そうな視線をレイヴンは、手を振って安心させるのだった。

さて、見張り台へと登ったレイヴンだったか、一つ考え込む。
寝相は悪いつもりはないが、今まで剣を握ったままなんて、寝たことがなかった。

炎の剣フレイムソード』も、外から見える位置にないと意味がない。

「まぁ、一晩寝てみて、改善点があれば考えるか」

そう独り言を呟くと、カーリィから貰った紐を手と剣の柄にグルグルと巻きつけた。
外れないことを確認すると、台の上に手を置く。
収まりがいい位置を確認した後、アイマスクを用意した。

魔物が潜む森の中で、自ら視界を奪う行為は勇気がいるのだが、そこはサラマンドラを信用する。
レイヴンは、度胸一発、アイマスクを装着して目を閉じることにするのだった。
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