低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第104話 アンナとの再会

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ファヌス大森林の内奥部に歴史を感じさせる建造物が存在感を示していた。それが風の精霊シルフが守る『森の神殿』である。

レイヴン一行とメントフ王国の騎士団は、海の民の戦士ライの先導の元、この霊格高い建物に足を踏み入れると、まず、佇む空気の違いに気がついた。

今まで、『ガンダーンタ』のペンダントに守られており、ファヌス大森の中に充満する瘴気の影響を断ち切っていたのだが、『森の神殿』の中の清浄さは別格に感じる。

やはり大精霊のお膝元は、更に結界の強度が高いようだ。

ファヌス大森林の中を普通に活動できていたため、瘴気の害悪を忘れかけていたが、よく考えれば、ライはどうやって戦闘をしていたのだろうか?
レイヴンは、槍の名人に疑問をぶつける。

「この瘴気の影響はないのか?」
「『森の神殿』近くは薄まっています。それと、これのおかげですね」

そう言って、取り出したのは小さな円盤だった。渡されたレイヴンは、驚きのあまり、思わず落としそうになる。

「これは、一体?」
「新鮮な空気を常に出し続ける事ができるようです。この神殿から、どうしても外に出なければならない人のためにシルフさまが作ってくれました。・・・といっても、これ一つしかありませんが」

ウンディーネとサラマンドラは、境界を創って瘴気を遮断する方法を考えたが、風の精霊は違うアプローチで瘴気に対抗する手段を考案したようだ。

『なるほど』と思いながら、感心する。
大切な物のはずなので、丁重に扱ってライに返した。

海の民の戦士の案内で、『森の神殿』の中を進んでいくと、祭壇が祀られている大きな空間に出る。

本来、その祭壇には『風の宝石ブリーズエメラルド』が、供えられていると思われるが、今はなかった。その代わり、『海の神殿』にあった『水の宝石アクアサファイア』が設置されている。
この水の精霊の秘宝が、この『森の神殿』を守る結界の源になっているのだった。

神殿の中には、想像していたよりも人の姿があり、多くの森の民が避難に成功したのだと、胸を撫で下ろす。
ただ、皆の表情には、一様に疲労の跡が見えて、心が痛んだ。

住んでいる場所から離れることを余儀なくされ、神殿の中の避難生活は、相当に辛いのだろうと察することができる。
早く問題を解決してあげたいとレイヴンの仲間たちは、皆、思うのだった。

まずは、一刻も早くアンナに会いたかったのだが、その前に森の民の長から挨拶したいとの申し出を受ける。

当然、そのコミュニティーと友好関係を築こうと思えば、そこのトップとの面談は不可欠だ。仲介に入るライには、『こちらからも、ぜひ』という意向を伝えてもらう。

程なくして、やって来たのは、白髪はくはつを肩まで伸ばした初老の男だった。

森の民は、一般的に緑色の髪の毛をしているのだが、年齢を重ねると彼のように白髪しらがになるのだと、妙なところで驚く。
砂漠の民や海の民との接点では、お目にかからなかったので、尚更だった。

にこやかに挨拶をするレイヴンの後ろに、ソフィアが隠れる。長を前にして、集落を勝手に飛び出したことを気まずく感じたのだと思われた。

しかし、そんな彼女に対しても長は、優しく微笑みかける。
中々の人格者のようだ。

「私は、森の民の長をしているウィードと申します。レイヴンさんには、アンナがお世話になったと聞いております。長として、感謝、申し上げます」

「いや、大したことはしていないよ。・・・それより、ここには、多くの森の民が逃げ込んでいるようだけど、物資の方は足りているかい?」

レイヴンの言葉にウィードは目を伏せる。ずばり不足しているのが、はっきりと分かった。

ここに来るまで目にした、森の民の活気のなさの原因の一つが、食糧問題だと推測したが、やはり、その通りのようである。

瘴気が突然発生し、着の身着のまま逃げたのであれば、何の準備もする余裕がなかったとしても仕方がない。

「俺の手持ちの食糧と水を提供するよ。皆さんに振舞ってあげてほしいんだ」
「しかし・・・」

レイヴンのスキルを知らない長は、気持ちはありがたいが携帯する食料程度では焼け石に水と考えたようだ。
ウィードの表情は冴えなかったが、その話を横で聞いていたライの顔がパッと明るくなる。

「レイヴンさんに会った時、僕は正直、その点を大いに期待してしまいました」
「それで、必死に加勢したのかよ」
「・・・いえ、そういう訳では・・」

黒髪緋眼くろかみひのめの青年は、笑って槍の名人の胸を軽く小突いた。
そして、近くの空いているスペースに水の入った樽を十個と、すぐに食べられる携帯食料が入った箱を十個出す。その他にフルーツが盛り重なった籠も五個ほど台を設置して置くのだった。

突然、垂涎ものの食べ物が出てきた事に、森の民たちは警戒の色を示すが、迷わず飛び込んできたのは子供たちである。

「まだ、たくさんあるから、慌てないで食べろよ」

レイヴンは、子供たちに数個、手渡しした後、自由に持っていっていいと、大人たちにも呼びかけた。
すると次第に人が集まりだし、食糧を手にした森の民たちから歓喜の声が溢れる。

どこから、どのようにして大量の物資が飛び出してきたのか?ウィードは理解が追いつかず、ただ、目を丸くするのだった。
だが、次の瞬間には、涙を流さんばかりに感謝して、レイヴンの手を握る。

「このご恩、森の民は一生、忘れないでしょう」
「困った時は、お互いさまだろ。気にしなくてもいいさ」

いつの間にかライが先頭になって、食糧を支給していた。三つの箱があっという間になくなるのだが、すぐにレイヴンが追加を出すので、歓声に沸く。
それを見ていたウィードの口からは、感謝の言葉が続いた。

「ありがとうございます。久しぶりに、みんなの笑顔を見た気が・・・、子供たちがお腹を空かせているのを見るのは、やはり辛いものがありました」
「用意できる物資は食料だけじゃない。必要な物があったら、遠慮なく言ってくれ」

ウィードは、改めてレイヴンを見つめ直す。アンナを救ったというこの途方もない能力を発揮する黒髪緋眼くろかみひのめの青年・・・

この時期、この人と出会ったことは、森の民にとって、まさに天祐ではないかと感じるのだった。

「盛り上がっているところ、申し訳ないが、私にも長を紹介してほしいのだが」

そこにメントフ王国の王太子ユリウスがやって来る。
側近のホリフィールドがレイヴンを睨むのは、分かりやすい人気取りをしやがってと言ったところか。

これは、単なるやっかみなので気にもとめないが、ユリウスの要求には応えてやらなければならない。
彼は、今回の瘴気の原因を突き止めるため、森の民の調査を行わなければならない立場なのだ。

「彼の名はユリウス。メントフ王国の王太子です」

メントフ王国と聞いて、ウィードは畏まる。直接、交流はないがファヌス大森林の南に位置する大国であることは承知していた。

その軍事力は、西の大国イグナシア王国にも匹敵するとも言われている。
今まで、交流がないだけに、このタイミングでの訪問の意図を図りかねているのだ。

「私はウィードと申します。今はこのような事態のため、大したおもてなしはできませんが、ゆっくりとなさって下さい」
「いや、社交辞令は、今は結構。それより、ファヌス大森林を覆うこの瘴気は、どこから・・・なぜ、生じているのかを知りたい」

ユリウスは、単刀直入に質問する。レイヴンとの会話や態度から、ウィードが嘘をつける人物に見えなかったため、下手な駆け引きは止めたのだ。

「それは・・・」

困った表情をした森の民の長は、答えに窮する。正直、彼自身も、なぜ瘴気が出始めたのかは、分かっていなかった。
但し、どこから発生したかを問われれば、それは・・・

「・・・理由は分かりません。ただ、おそらく、森の民の集落から、生じたのだと思います」
「では、貴様らが原因か!」

ユリウスが何か答える前にホリフィールドが激高する。勢いに乗って、ウィードの襟首を捕まえようと、間合いを詰めようとした。

しかし、それはあまりにも短絡的な考え方である。
レイヴンが、この暴挙を止めようとするが、その前にユリウスの一喝が轟いた。

「やめろ!私に恥をかかせないでほしい」

予想外の声にホリフィールドは、凍りついてしまう。今まで、これほどまでにユリウスから叱責を受けたことがなかったのだ。

だが、レイヴンにはユリウスの考えが分かる。
まだ、確証がない段階で、武力行使に出るメントフ王国と食料を提供したレイヴンでは、あまりにも心証が違い過ぎるのだ。

これでは、森の民目線で、メントフ王国の王太子が小者に見えてしまう。
さすが大国だけあって、ユリウスにはしっかりとした帝王学を学ばせているのだった。

「部下が失礼をした。すまない。」
「いえ、私は気にしておりません」

ウィードも寛大な態度を示す事で、この場はとりあえず収まる。結局、理由、自然発生なのか、何者かの悪意なのかを突き止めなければならないようだ。

『いや、それよりも瘴気を止める方が先か』

ユリウスが自分の中で結論を出すと、一礼をして去って行く。
それを見送ったレイヴンは、ウィードにアンナの元へ案内を頼んだ。
承知した長は、レイヴンたちを神殿奥の一室の前に連れて行く。

「ここで、彼女は休んでいます」

部屋の中に入ると、簡易的な寝台が作られており、そこに横たわる一人の少女がいた。
それは間違いなくアンナである。

入室した者がいることに気づいた彼女は、身を起こして来訪者を確認した。そして、次の瞬間、涙が止まらなくなる。

「レイヴンさん・・・それに、皆さん」
「よぅ、随分と頑張ったんだな」

その言葉を聞くとアンナは、顔をシーツに埋めて肩を小刻みに震わすのだった。
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