聖女召喚されたらしいけど、私、引きこもりなのでそんな大役はごめんです!

水瀬瑠奈

文字の大きさ
5 / 8

赤と青

しおりを挟む
 目を開けると馴染みのない天井が視界に写った。驚いてガバっと起き上がると頭がゴンっとどこかにぶつかった。

「いったあっ……」

まさに最悪の目覚め。それも何故かソファの上にいた。……床じゃないだけマシ、と思っておこう。昨日はどうやら外に出たあと戻ってきたら、眠気に襲われてソファの上に倒れ込んだまま眠ってしまったらしかった。道理で体が怠いわけだ。そうやってソファの上なんかで眠ったせいで着ていたパーカーはぐちゃぐちゃでこのままでは外に出ることも出来ない見るも無惨な状態だ。

「……あー洗濯したい、え、この世界洗濯機あるの?」

月が二つだとか魔法が存在しているだとか私にとっての常識、つまり前の世界の常識と全く違う。洗濯機もない可能性のほうが高い。引きこもりといえども私は潔癖な方だ。洗濯だってするし、もちろん掃除もする。……最悪だ。

 今の自分のパーカーとジーンズを今日も着るというわけにはいかないので、取り付けてあったクローゼットを開けた。

「は!?」

女子らしくない声が出たのは許してほしい。だってそこにあったのは、私に似つかわしくない、普段なら絶対に着ないであろうフリフリヒラヒラの服ばかりだったから。これが噂に聞くロリータ服とやらか、なんて他人事のように現実逃避してしまうくらいに私はなっていた。

 着れるものを探さないと。端から服を一枚ずつ見ていく。殆どが絶対に着ることが無さそうなもの。好みに合うものがない。一番ましなのは藍色のワンピースのような服、かな。それでもありえないくらいひらひらしていて着たくもないけれど。

「やっぱ似合わない……」

仕方ない。服がないから仕方ないのだ。自分にそう言い聞かせて昨日のように部屋を出た。

「シオン様?」

なんて、部屋を出た途端に爽やかにその白い髪を靡かせて私に声を掛けたのは。――そう、あのクレイという明らかに陽キャで私と生きる世界が違うだろうとしか思えない王子様だ。洗濯が出来ないということに続き、最悪だ。ああぁ、どうすれば逃げられるだろうか。そんなことを考えている間にも、王子様は私に接近してきている。そして、手を掴まれた。私はされるがままで目の前の部屋に連れ込まれてしまった。

「何か、御用でしたか」

コミュ障が発動していることに自分自身少し嫌気がさした。もう少し話せたらこうやって流されることも無かったのにな、とネガティヴな方向にどんどん思考が逸れていっていた。

「昨日の件、考えてくださいましたか?」

あ、勿論今決めなくていいですし、嫌だったら嫌でいいんですけど。と読めない笑顔で言い放たれた。昨日のトールと違い、強引で、会話が早くて言葉が喉元でつっかえて出てこない。

「……えっと、」

やっと絞り出したのは掠れた、聞こえるか聞こえないくらいの声。もう少し話せたら良かったのに、と目に水の膜が張って視界が少し歪んだ。

「すいません。少し言い過ぎましたね。……そういえば、弟と会っているらしいですね。あの子は人を寄せ付けないから珍しいと思いまして。あの子と、弟と仲良くしてやってください」

さっきと一転、表情を崩して、優しい兄の表情かおをして笑った。……弟、は誰なのだろう。直ぐに浮かんでくれない。そんな言い方をしたということは会ったことがあるはずなのだが。

「弟……?」

「……仲良くしてあげて。僕には、もう出来ないけれど、君なら」

敬語から崩れた言葉と、私が何も返せなくなるほど哀しげな表情。私は彼に背を向けて、部屋から出て行った。



 昨日の図書室に入り、長椅子に腰掛けているトールの隣に座る。彼は厚い本を手に持って読んでいた。しばらくして私の存在に気づいたようで、此方を向いて昨日のように優しく、柔らかく笑った。

「……シオン。来てくれたんだ」

どこかやつれたような表情。彼の顔を覗き込むと、なぜ入って来た時に気づかなかったのかと驚いてしまうほど濃い隈が目の下にあった。

「トールさん、寝ましたか?」

「勿論、寝て…… ないな」

あははっ、忘れてたや、と苦しそうに笑うのは最早見ていられない。

「……寝ましょう。寝てください」

彼が持っていた本を取り上げる。余程眠かったのか、女である私でもさほど力を使わずに取り上げることが出来た。

「ふふっ、そこまで言うのなら寝ることにするよ」

少し横になるね、と長椅子に彼は寝転がって目を閉じた。やはり相当眠かったのだろう、しばらくしたら規則正しい寝息が聞こえてきた。

 少しの悪戯心で、彼のサラサラした白い髪を撫でる。想像通りサラサラで、そして意外に柔らかかった。閉じられた目を縁取る睫毛は女である私よりふさふさで長い。その姿を眺めていると、一瞬誰かが彼の姿に重なった。知っているのだ。を。

「……誰だろう……」

『あの子と、弟と仲良くしてやってください』

『僕には、もう出来ないけど、君になら』

フラッシュバック、と言ったやつだろうか。数時間前に話していた彼、クレイとの会話が頭に流れた。

「……まさか」

白い髪。長い睫毛。整った顔。白い肌。……なぜ、気づかなかったのだろう。彼は、トールは、クレイとそっくりだということに。兄弟、と言うよりは双子のよう。目の色が、青と赤と違うことを除いては。そう思ってしまったが最後、それ以外には全く見えない。……もしかしたら、トールはクレイの双子の弟なのではないか。

「……じゃあ、何でトールは此処に……?」

もしも王族ならこんなところにいるのは可笑しい。なんかにいるのは。

 ……これ以上考えるのは止めよう。私はトールと話してみたいと思っただけで、王家のゴタゴタお家騒動、ましてや聖女問題なんかに関わるつもりはない。私はもう一度トールの柔らかい髪をクシャリと撫でた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...