聖女召喚されたらしいけど、私、引きこもりなのでそんな大役はごめんです!

水瀬瑠奈

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パーティのお誘い

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 到底値段の想像がつかない、私の部屋にあるものと比べ物にならないほどの豪華絢爛なシャンデリア、細かいところまで凝って彫られたアンティークの調度品。王族と会うときの本来の応接間らしい。やはりそこに第一王子様、もといクレイが悠々と座っていた。

「こちらにお座りください」

兵士が椅子を引いて私にそう言った。私は躊躇いなく言われたところに座る。こうしないと相手が困るということを今日で学習した。私はこの国じゃ王族と同等である権威を持っているらしく、私が不機嫌になったら首が飛ぶとひやひやされている、らしい。トールが言っていた。

 クレイをじっと見つめ返す。彼の青い目は、初めて見たときと同じように感情の読めない作り笑いを含んでいた。

「本日は急に呼び出してしまってすいません。少し用事がありまして……」

「い、いえ、大丈夫です……」

「デューク、人払いを」

あの兵士に彼はそう呼びかける。そちらも見ずに、ただ言い渡す。これが、貴族なのだと否応なしに感じさせられた。トールにも言われた。

『自分の感情を隠して、笑って、下の者を虐げる。それが貴族の在り方。それに反した人は、この世界じゃ生きていけない』

民主主義、みんなで仲良く、そんな中で暮らしてきた私が甘いのかもしれない。でも、無理だと。私には出来ないと感じてしまった。

『ここで生き残りたかったら、隠して。君のその優しさを見せたら、付け込まれる。不本意でも。どんなに嫌でも』

目指すは平穏な引きこもりライフ。……でも、それは、他人を虐げてでも生き残るなんてのは嫌だった。私が、そうだったから。虐げられて、駆逐される側だったから。私を虐めたら、あの学校で生き残れる。そう感じたクラスメイトはみな、主犯と同じように私を虐めるようになったのだ。いや、申し訳無さそうにしてするのだから余計にタチが悪い。あの頃を思い出しぐっときつく唇を噛んだ。……ああ、気分が悪い。きっとこれ以上、彼らの言う行動を見てしまったら私はきっと柄にもなく激昂してしまうだろう。

 そんな珍しく気の立った私は幸か不幸か、クレイの大爆弾を含んだ言葉で再び恐るべし現実に引き戻された。

「少し、話をしても?」

「……はい、話してください」

「聖女を召喚することを祝うためのパーティをすることになったんです。聖女様の性格上パーティは好まれないだろうと反対はしましたが、王が大層乗り気でして、その……」

続きは言われなくとも分かった。私にパーティに出ろと言っているのだ。今までの思考が全て吹き飛び、焦りでいっぱいになる。

「お断りすることって、出来ませんよ、ね?」

一縷の望みを掛けてそう尋ねる。パーティ嫌い。陽キャの集まる場所でしかない。

「ほぼ不可能に近いかと……」

青い目を申し訳無さそうにすっとそらす。……パーティに出るというのは大勢の前で晒し者になることと同義である。つまり、ラノベにあった聖女としての治癒魔法の行使とか討伐の同行とかを行うという意思表示になるということなのでは? ……うん、理解。大変になるってこのことか。

「ああでもっ、僕がフォローするので殆ど話すことが無いようにしようと思います。一曲目以外は、ダンスも出なくてもいいように、体調が悪い中無理を押してきてくださったと説明しますし……」

大切で、私にとって非常に深刻な話をしているはず、はずなのに。くすっ、と。私の口から小さく笑いが漏れた。独りぼっちになって不安がる兎のように、不安そうに瞳を揺らして、困りきったように話す様子がトールに重なったから。

 何があったのかなんて知らないし、二人がどうして一緒に居ないのかも知らない。この通り、なんにも知らない。でもこれだけは分かった。彼らは正真正銘の兄弟だってこと。

「分かりました、出ます。後ろで静かにしているだけでいいんですよね?」

トールと重ねてしまって、可哀想になったからだろうか、気づいたときには私はそう言っていた。

「ありがとう、本当に助かった……」

王子様らしからぬ様子でテーブルに倒れ込む。敬語も外れてしまっているので相当のプレッシャーが掛かっていたんだろう。王族は大変だな、としみじみ思わされた。

「では、帰って大丈夫ですよ。急に2回も呼び出してすいませんでした」

「いえ…… あの、体調には気をつけてください。差し出がましいことかもしれないけれど、その、目の下に隈が出来ていたので」

彼は目をパチクリと皿のように丸くしている。

「ありがとう。そうだね、今日は早く寝ることにします」

そう言った彼からは、初めて会ったときの、読めない作り笑いは消えていてトールとそっくりな柔らかい笑みを浮かべていた。彼は私とともに部屋の外に出てデュークという先程の兵士に声を掛け、私を部屋まで送るように命じてまた部屋へと入っていった。
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