ひまわりを君に。

水無瀬流那

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七本のひまわりを。

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 教室の端っこの席に座る彼の目線は、ずっと一人を追っていた。目を細めて、宝物を見つめるかのようにして。

 ずくん、と棘が刺さるかのように胸が苦しくなった。

「はーい、授業終わりだぞ。室長、号令よろしくなー」

「起立、気をつけ、礼、ありがとうございましたー」

はきはきとした室長の声をぼんやりと聞きながら、のろのろとみんなに合わせて頭を下げて「ありがとうございました」と呟いた。

「うーちゃん!」

みっちゃんが私にぎゅうっと抱きついてくる。

「どしたの、みっちゃん。六限終わりだってのに元気だねぇ」

「おばあちゃんみたいなこと言わないでよー ね、ね、後でノート写さして!」

「しょーがないなぁ…… まーた居眠りなんでしょ」

そんな軽口をたたき合いながらも、私は上の空だった。昨日、彼に告げられた言葉が、みっちゃんを追う視線が私を追い詰めてきて、溺れているみたいに苦しくて仕方なかった。

『俺さ、堀川さんが好きなんだよねー』

大好きな幼馴染から、そう告げられたのだ。何年前からかは分からないけど、ずーっと好きだった幼馴染から。……よりによって、相手は親友のみっちゃん。

 大好きなみっちゃんのことを憎く感じて仕方ない自分が嫌で嫌で仕方なかった。

『告白しよーと思うんだよね。|兎月(うつき)、堀川さんと仲いいだろ。好きそうなもの教えてよ』

なんで、いいよ。と答えてしまったんだろう。今日は遅いから明日詳しく教えるね、なんて言っちゃったんだろう。――もう、好きだって伝えることさえできやしない。

「|蒼真(そうま)」

「兎月。えっと、昨日の……」

「うん、聞かれても嫌だろーしうちにおいでよ」

初恋は実らない。気持ちに踏ん切りをつけよう。この気持ちを封印しよう。私は、泣きそうなことを気づかれないようにしながら、彼の前を歩いた。





「相変わらずきれいなとこだなー」

私の育てるひまわり畑の前に来た。蒼真は目を細めてひまわりを見つめる。私はそれを横目に、ちょきん、とひまわりを一輪ずつ切っていく。

「はい、あげる。あのこ、ひまわりすっごく好きなんだよ。あ、あげるときは三本ね」

「なんで?」

「花言葉が、三本だと『愛の告白』だから。ステキでしょ?」

「じゃあ、なんで七本も……」

七本の花言葉は『ひそかな愛』だから。そんなこともちろん伝えられるはずもなく。

「枯れたら大変でしょ。一応、ね? ――うまく、いくといいね」

「ありがとなー!」

私は彼からくるりと背を向ける。つぅっと一滴、涙が頬を伝った。


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