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16本、気づいてほしい。
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きっかけは、彼のスマートフォン。ブブッ、と鳴って、メッセが来た瞬間だった。
ババッと、彼は焦って取り上げた。次に行きたいデートスポットの話をしていて、私にサイトの一覧表を見せるために渡してくれたのを、わざわざ。
『ごめん、バイト先からでさ……』
そう、言い訳をする彼の顔色は、夏真っ盛りなのにもかかわらず、心做しか青白くなっていた。
そんな言い訳、されても。
百聞は一見にしかず、とはよくいったものだ。
ミカ、という名前の子。たぶん女。
『昨日は楽しかったね! またデートしよ~』
という文言。
……あ、浮気だ。残念ながら、そういうことに気づかないほど私は鈍感ではなかった。
心の中には、失望と、寂しさと、少しの怒り。
その場で、浮気してるでしょ、別れようって言えたらよかったのに。
そうするべきだって、頭では、分かってたのに。
口から零れた返答は、『そっかあ、大変だね』だった。
そのまま、タイミングよく食べ終わり、彼とは何事もなかったように次回の約束をしてから別れて。
それから一週間。買い出しを母に頼まれて、外に出ていたときのこと。…………見てしまったのだ。
「次はこの店ー!」
「ん、いーよ。行こっか」
優しげにきゃぴきゃぴした外見の茶髪の女を見つめて、笑いかけて……
なんで、なんで私以外の女に、そんな目をするの?
吐き気がして、口元を手で抑えながら、必死に彼らに背を向けて走った。
……こんなことを、こんな醜い嫉妬をしてしまう自分も気持ち悪くて、嫌で嫌で仕方ない。
「や、ただの同級生とかかもしれないし、私の勘違いだし……」
見たことをなかったことにするように、自分に言い訳をする言葉がポロポロと零れた。
頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されたみたいに纏まらなくて、自分が今、どんな感情なのかもわからない。
つぅっと、涙が伝って、頬が生温かい水で濡れたのが分かった。
惰性で、いつものように高校に通って、授業を受けて、帰って。彼と高校が違うのだけが救いだった。それを何度か繰り返しているうちに、気づけば彼に会う日。
「……あ、今日で、一年なんだ……」
8月3日。去年のこの日に、私は彼に告ったのだ。塾の同級生で、一目惚れをして、距離を縮めて……
了承されたときは、どんなに嬉しかったっけ。
「うん、準備しよう」
いつもは悩んで悩んで選び抜くデート服を、今日は適当に棚から引っ張り出して、花がらのほわほわしたワンピースを身に纏った。
まだ、約束まで時間があったから、花屋に寄った。
「すいません、ひまわりを16本、ください。花束にしてもらえますか?」
「16……? あ、分かりました、いま包みますね」
女々しいことだなって自分でも思う。きっと彼は気づかないだろうし。
「こちらです。1600円となります」
お財布からちょうどを抜き取って渡す。交換で渡された花束を私は胸のあたりに抱えて、今度こそ待ち合わせ場所へ向かうことにした。
「お待たせ」
数分して、彼が来た。
「ん、おはよ」
にこり、と笑うと、彼もいつもの明るい笑顔を返してくれる。
「これ、あげる。今日、付き合い始めてから一年だから、記念ね。今日、優吾の家だから買ってきても大丈夫かなって思って」
「あ、ほんとだ! ありがと、気が利かなくてごめん!」
「んーん、私がやりたかっただけだからいいの。……あ、そうだ……」
この前、女の子と歩いてるの見たんだけどさ、そう言おうとした。けど、喉で引っかかって、結局声にはならなかった。
「どうしたの?」
「……なんでもない!」
これを聞いたら、きっと崩れちゃう。
砂の城のように、脆い関係だってことを肌で感じてしまって。それを、崩すことなんて、私にはできない。
「じゃ、行こー」
私は誤魔化すかのように、できるだけ、満面の笑みを貼り付けた。
【16本のひまわりの花言葉】……不安な愛
ババッと、彼は焦って取り上げた。次に行きたいデートスポットの話をしていて、私にサイトの一覧表を見せるために渡してくれたのを、わざわざ。
『ごめん、バイト先からでさ……』
そう、言い訳をする彼の顔色は、夏真っ盛りなのにもかかわらず、心做しか青白くなっていた。
そんな言い訳、されても。
百聞は一見にしかず、とはよくいったものだ。
ミカ、という名前の子。たぶん女。
『昨日は楽しかったね! またデートしよ~』
という文言。
……あ、浮気だ。残念ながら、そういうことに気づかないほど私は鈍感ではなかった。
心の中には、失望と、寂しさと、少しの怒り。
その場で、浮気してるでしょ、別れようって言えたらよかったのに。
そうするべきだって、頭では、分かってたのに。
口から零れた返答は、『そっかあ、大変だね』だった。
そのまま、タイミングよく食べ終わり、彼とは何事もなかったように次回の約束をしてから別れて。
それから一週間。買い出しを母に頼まれて、外に出ていたときのこと。…………見てしまったのだ。
「次はこの店ー!」
「ん、いーよ。行こっか」
優しげにきゃぴきゃぴした外見の茶髪の女を見つめて、笑いかけて……
なんで、なんで私以外の女に、そんな目をするの?
吐き気がして、口元を手で抑えながら、必死に彼らに背を向けて走った。
……こんなことを、こんな醜い嫉妬をしてしまう自分も気持ち悪くて、嫌で嫌で仕方ない。
「や、ただの同級生とかかもしれないし、私の勘違いだし……」
見たことをなかったことにするように、自分に言い訳をする言葉がポロポロと零れた。
頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されたみたいに纏まらなくて、自分が今、どんな感情なのかもわからない。
つぅっと、涙が伝って、頬が生温かい水で濡れたのが分かった。
惰性で、いつものように高校に通って、授業を受けて、帰って。彼と高校が違うのだけが救いだった。それを何度か繰り返しているうちに、気づけば彼に会う日。
「……あ、今日で、一年なんだ……」
8月3日。去年のこの日に、私は彼に告ったのだ。塾の同級生で、一目惚れをして、距離を縮めて……
了承されたときは、どんなに嬉しかったっけ。
「うん、準備しよう」
いつもは悩んで悩んで選び抜くデート服を、今日は適当に棚から引っ張り出して、花がらのほわほわしたワンピースを身に纏った。
まだ、約束まで時間があったから、花屋に寄った。
「すいません、ひまわりを16本、ください。花束にしてもらえますか?」
「16……? あ、分かりました、いま包みますね」
女々しいことだなって自分でも思う。きっと彼は気づかないだろうし。
「こちらです。1600円となります」
お財布からちょうどを抜き取って渡す。交換で渡された花束を私は胸のあたりに抱えて、今度こそ待ち合わせ場所へ向かうことにした。
「お待たせ」
数分して、彼が来た。
「ん、おはよ」
にこり、と笑うと、彼もいつもの明るい笑顔を返してくれる。
「これ、あげる。今日、付き合い始めてから一年だから、記念ね。今日、優吾の家だから買ってきても大丈夫かなって思って」
「あ、ほんとだ! ありがと、気が利かなくてごめん!」
「んーん、私がやりたかっただけだからいいの。……あ、そうだ……」
この前、女の子と歩いてるの見たんだけどさ、そう言おうとした。けど、喉で引っかかって、結局声にはならなかった。
「どうしたの?」
「……なんでもない!」
これを聞いたら、きっと崩れちゃう。
砂の城のように、脆い関係だってことを肌で感じてしまって。それを、崩すことなんて、私にはできない。
「じゃ、行こー」
私は誤魔化すかのように、できるだけ、満面の笑みを貼り付けた。
【16本のひまわりの花言葉】……不安な愛
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