妹に婚約者を奪われた私は今、隣国の王子に溺愛されています!?

水瀬瑠奈

文字の大きさ
14 / 31
リリーシェ王国・婚約編

お茶会

しおりを挟む
「どうぞ、お掛けになって。今用意するわ」

「……ええ」

甘ったるい花の香りが鼻につく。香が焚かれているらしい。部屋中にいかにも可愛らしい、といったものばかりが置かれていて、いかにも部屋だった。

 ふと、部屋の端にある棚に目を向ける。

 ふわふわといった印象のする部屋にはそぐわない、簡素な白い木棚。

 壊れた櫛、綿の飛び出たぬいぐるみ、腕のなくなった人形。色褪せてほつれたドレス。

 そこには、そんな数々のものが置かれていて。

 ──全て、私のものだった。

 アイミヤに、いつかに奪われたものたちだ。

 動悸と吐き気。視界が狭まっていくような気さえする。

 あぁ、どうして。こんな無惨に。

 言いたいことが胸の底からこんこんと湧き上がって止まらない。

 なのに、なのに。

 喉でつっかえて、言葉は一つも発することができなかった。

「あぁ、それ? 昔にお姉様が下さったものよ。ちょっと壊れちゃったけど、はい。返してあげる」

さも愉快そうでご機嫌な声色でそう歌うように話しながら、アイミヤはゆったりと立ち上がり、腕いっぱいにそれらを抱える。

 そして、気持ち悪さと恐怖で動けなくなった私の上に全て落とした。

「っ」

体中にそれらがぶつかった痛みと吐きそうなほどの苦しい感情で涙がじわりと滲む。

 ……泣いてなるものか。アイミヤに屈してなるものか。そう必死に念じても、ぽろぽろと零れ落ちていく。

「嬉しいでしょう、お姉様」

ふふふ、と歪んだ笑みで、座り込んでしまった私をアイミヤは見下ろしている。

「…………貴方は、何がしたいの? 私は貴方に何もしていないのに、どうしてこんな、」

「ずるいもの」

私の言葉を途中で遮って、アイミヤはそう言い放った。毒々しい笑顔で、吐き捨てるように。

「……どういうこと?」

「お姉様は何もしなくても愛されるじゃない。私よりも優秀だし。だから、全部盗ることにしたの」

意味がわからない。そんな表情を浮かべていたことが分かったのか、やはり吐き捨てるようにしてアイミヤは私に言葉を投げる。

「お姉様には分からなくて結構よ」

それからアイミヤはゆったりとした動きで、私へと一歩、二歩と近づいてくる。

 怖い。立ち上がって後ずさるけれど、壁に当たってしまう。

 アイミヤは口元を歪めて、金の腕輪を私の前に掲げた。

 ……あれ、何だろう。見たことはあるんだろうけれど、名前が思い出せない。

 でも、確実に良くないものなのは間違いない。

 逃げようと身じろぎした瞬間、アイミヤはそれを私に勢いよく振りかざす。

 そして、唱えた。

「腕輪よ、彼の者を拘束せよ」

魔力封じの指輪だ。そう気づいたときにはもう遅い。右腕にそれは嵌ってしまっていた。

 ……最悪だ。闇の魔法で作られたこの代物は非常に厄介で、術式を全て分析して分解せねば外せない。そのうえ、魔力を封じられてほとんど使えなくなるため、ものすごい時間がかかるのだったはず。授業で一度だけ見て説明してもらったことがあるだけだから、そもそも外せるかどうかも怪しい。

 でも、外さないと。アイミヤが何をしたいのかは全くもって分からないが、いいことではないのは確実だ。

「外そうとしても無駄よ。お姉様相手だから、とっても効果が高いものを手に入れたんだから。すぐには外せないわ」

「……アイミヤ、貴方、何をしようと……!」

「お姉様のものを全部私のにするのよ。全部終わったら出してあげるわ」

トールもアリアも、みんな奪ってあげる。

 そう言ったアイミヤは明らかに異常だった。……これ以上ここにいてはいけない。逃げなければ。

 とにかく部屋から出ようと立ち上がって走り出した私を見て、アイミヤは思い出したように部屋の脇に置かれていた鳥籠を手に取った。

「……っ、開かない……!」

「鍵をかけておいたもの、残念だったわね」

解錠の魔法を使うため呪文を唱えようとした私めがけて、アイミヤは鳥籠を放り投げた。

 その瞬間、鳥籠は膨れ上がった。白かったはずの格子は光沢のある艷やかな黒に変わっている。

 私の背よりも大きくなったそれの中に、気づけば私はいた。

「そこの中で大人しくしていてね、お姉様。全てが終わったら出してあげるから。あぁ、あと叫んでも無駄よ。防音結界を張っておくから」

「アイミヤ!」

鳥籠を部屋の真ん中の方に移動させてから、アイミヤはいくら私が叫んでも振り返ることなく、軽い足取りで部屋を出ていってしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...