妹に婚約者を奪われた私は今、隣国の王子に溺愛されています!?

水瀬瑠奈

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フェルシア王国・陰謀編

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「山賊?」

「はい、この辺りでよく活動している『銀狼』という山賊達だそうです。平民が集まったものらしく、今回は金銭目当てだっとたということ。そのうち一人が闇魔法を使えるとのことで……」

「それっておかしくなーい? これ、何かあると思うな」

 声を上げたのは、アリアだ。ロイはそんな彼女を訝しげに見つめている。……まぁ普通ならそう山賊たちに言われたことが真実だと思うだろうけれど、私もアリアと同意見だ。

 、ということに。

 私は今回用いられた隠蔽魔法を、状況と経験から見抜いて暴いた。これは、裏を返せば今回の相手は私すらをも騙せてしまうほどの闇魔法の能力の持ち主、ということだ。

 光属性を持っていれば、闇魔法が使われるとすぐに分かるし、反対に闇属性を持っていれば光魔法をすぐに感じ取れる。いわば2つで対の特殊な属性。そのはずなのに私は今回気づかなかった。そうなるのは、相手の技量が私と同等か、それ以上ということ。まぁ、すぐに魔法が解除できたからたぶん同等くらいだと考えられるので私より圧倒的にという線は薄いと考えていいだろう。

 すると、私と同等、ということは相手は少なくとも公爵位程度。稀に平民などでも現れることはあれど、そこまで優秀ならば国に拾い上げられて貴族になれるのだから、山賊になんてなるはずがない。

 つまり山賊はカモフラージュで、この襲撃の裏には貴族が、それも相当高位なのがいるということだ。

「私もアリアと同意見ね。この襲撃、裏があるわ」

「だろうね、僕もそう思うよ」

 未だ分からないというように首を傾げているロイにトールは苦笑して私に目配せをしてくる。

「闇よ、その力を纏いしものを我が手に」

 ぐっ、と体が引き寄せられるような感覚に逆らって魔力で手繰り寄せるように逆向きに引っ張り、闇の魔力の塊であるそれを引き寄せる。

「なるほど、魔石、ね……」

 窓から飛び込むように入ってきたそれは、こぶし大ほどの大きな漆黒の魔石。おそらくはこれに術式を刻んで、盗賊に渡したということなのだろう。詳しく見てはいないが、緻密に練られた術式だということは確実だから、相手は相当手練れらしい。

 なんとなく、球が少し潰れたような形をしたそれをくるりと裏返す。

「……紋、章?」

 この薔薇の紋章、どこかで見たことがある。おそらく学園の教科書で。どこだったろうか。国の印章なら覚えているはずだから個人のものなのだろう。

 誰のものだっただろうか、と頭を捻るけれど何も浮かばない。

「トー、ル?」

 聞こうと思って顔を上げた私の目に映ったのは、トールの青褪めた顔だった。血の気が引いて、ひどく青白くなっていて、よく見ると膝の上で握りしめた拳が小刻みに震えていた。

「……これ、なにか知ってるの?」

「……」

 黙りこくってしまったトールに代わり、アリアが答えた。

「……フェルシア王家、現正妃ディアナ様。そのお方の印章、だと思う。正妃の証である薔薇をモチーフにした紋章なんて、それくらいしかなかった、と……」

確かにそうだった。薔薇のように美しく、凛々しく、その棘のように強い国母となるように、という意が込められたというものだった。

 ……それにしても、正妃、ということは彼の母に当たる人、ということ? その人が私達を、ひいては子であるはずの彼を殺す計画を?

「っ、誰かがディアナ様を騙って、罪を擦り付けようとしたってことじゃ…… 子供を殺せる親なんて、」

アリアを見つめて、迷子の子供のような表情を浮かべたトールに、アリアは言葉に詰まってしまう。そしてそのアリアに、弱々しくトールは告げる。

「その魔石、近づけたらね、分かったんだよ。間違えるわけがない。……これは、ディアナ様の魔力だ」

「……っ」

「……それはっ……」

なんと言えばいいのか、分からない。親当然の人にこんな形の裏切りを受けるだなんて、酷いことを私が評価して、彼を不用意に慰めてしまうことで彼が傷ついたら、と思うと言葉が出ない。

 大丈夫だから、私は一緒にいるよ、という意を込めて、せめて彼の片手に自分の手を重ねて、ぐっと握りしめた。

 それを見て、やはり弱々しげに今にも消えそうな笑みを浮かべた彼は、意を決したように一言一言紡いでいく。

「…………詳しいことも、話すよ。二人には、知る権利があるしね。到着が1日程度遅れても困ることはないから、次の宿に着いたら、絶対に。…………ロイ! この領地でここにいる全員が泊まれるだけの宿を探してくれ。緊急襲撃のため、一日そこで状況の整理を行う」

窓のすぐ横で待機していたロイは、トールに一礼して了承の意を示した。

「……了解しました」

程なくして、馬車は再びガタゴトと動き出した。なんとも言えない表情をたたえて俯く彼を私達二人は見つめながら、襲撃前とは打って変わった、ひどく張り詰めた静寂に包まれていた。


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