妹に婚約者を奪われた私は今、隣国の王子に溺愛されています!?

水瀬瑠奈

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フェルシア王国・陰謀編

第3王子の事情

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「僕と正妃、ディアナ様は、形式上は母ということになっている」

「形式上はってことは……実際は違う、のね?」

「ああ、僕は正妃の子じゃなく、妾妃であるミルフィリアの子なんだよ」

貴族社会ではよくある話なので、そこまで驚きはしなかった。私も、アリアも。

 正妃、というのは魔力量と立場で決まる。所謂政略結婚だ。それに対して、妾妃、というのは基本的に夫側の好み、というか恋愛感情で選ばれる。だから、身分が低い相手だったという場合も少なくないのだ。そんなとき、親は子を守るためにその子を正妃に託してしまう。というようなことは、何も珍しくないのだ。

「まぁ、どうしてかは想像どおりだと思うけれど。母は僕を正妃に託した。でも、不遇にされたとかはなかったよ。ディアナ様にはすごく可愛がってもらったしね、母に会う機会もこっそり設けてくれたくらいだ」

「ならどうして、さっきみたいになって……」

「……王族、じゃなかったらこうはならなかっただろうね」

王族だから起きた、血で血を洗う跡継ぎ争い。そう、俯いて彼は言った。私すら今まで見たことのないような、感情の抜け落ちたような虚ろな表情で。

「……あるとき、父王がこう言った。『魔力と統治、両方の才能が最も高い王子を儂の跡継ぎにしよう』と、ね。……僕の母、ミルフィリアは伯爵家の娘でありながら、魔力がとても高かったんだよ。突然変異とさえ言われるほどにね。そしてそれは、僕にも受け継がれていたんだ」

「……ディアナ様は、自らの息子達の王位を脅かす存在であるトールを、だから、殺そうとしたのね」

「……殺そうとしてきたのはこれが初めて。ディアナ様は、優しい人なんだ。ただ、家が息子を王位に、というのに逆らえなかったんだ。そのはずだったんだよ……!」

留学を暗に勧めてくるくらいだったんだよ、こんな、こんなことをする人じゃなかったんだ、と彼は今にも泣き出しそうな下手な作り笑いを見せた。

「……もし、二人がこれを聞いてこの国に来るのをやめたいと思うのなら、そのように手配するよ。僕の近くにいたら、きっとこれからも命を狙われるだろうから……」

「帰るわけないでしょう。トールと婚約するって決めたのは、他の誰でもなく私なのよ。今更戻らないわよ」

「私もだよ。ここまで来たんだから帰らないって」

彼の言葉を遮って、私達は力強く告げた。傷付いて、傷付いて、それでも私達を心配して、守ろうとする彼に。これ以上彼を一人にして苦しめることなんてできるわけがない。

「でもっ、」

「トール、あなたが私達を心配してくれるようにね、私達だってトールが心配なの! 友達で、仲間で、それに婚約者なんだから! そんな酷い顔したトールを置いていけるわけないでしょ!?」

「そうだよ、それに、私もティアも戻ったって碌なことないし? ティアは魔力目的でたぶんまたあの王子あたりと結婚させられ国に囚われて、私は適当な貴族の養子になって適当なところのお坊ちゃまと結婚させられるか、平民のところで虐められながら一人惨めに暮らしていくか。元々、故郷を離れるって時点で腹括ってきてるんだから何を今更って感じですー」

「……うん、ありがとう」

彼は俯いて、噛みしめるような掠れた声で、一粒涙を零した。

「で、調べましょ。なんでディアナ様がトールを殺そうとしているのか。何かあるはずでしょ。そんな簡単に人の性格は変わらないのよ? きっと誰かが操ってるんじゃないかしら」

トールから聞いた話では、到底ディアナ様はトールのことを殺しそうにない。なら、裏に実家か何かがあるに違いない。

「操って……」

「そう。冷静に考えてみたら、おかしいと思わない? 私だったら、そんな小さい頃から可愛がってた子供、いくら思い詰めたって殺せないもの」

「アリアも、そう思う? ディアナ様は、僕を本当に殺したいわけじゃないって」

「うん、そう思うよ。あの魔石、別に紋章を刻まなくても魔法くらい発動させられるし、そのほうがもしディアナ様が犯人なら都合がいいはず。なのに、これみよがしにああして刻まれてたってことはそういうことじゃないのかな?」

「……僕は、信じたい。ディアナ様が、僕を殺そうとなんてしてないって」

ぐっと血の出そうなほど拳を握りしめて、トールが私達を見据える。いつもの、強くて優しい彼の澄んだ目が、凛とした表情が戻ってきていた。

「うん、信じよう。で、探そう。本当の犯人を」

「トールを狙ってきているなら、きっとまた出てくるわ。……絶対に見つけましょう」

私はぐっと拳を突き出す。授業のときによくしていたのだ。すぐに二人とも察してくれて、コツンと拳を突き合わせてくれた。

 さぁ、探そうじゃないか。トールをこんなに苦しめる奴を、私は絶対に許さない。

 その思いを込めて、私は不敵に微笑んだ。


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