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4(最終話)

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「あ、れ?」

目を覚ませば、目の前に広がるのは、カーテンで仕切られた空間の、シミ一つない白い天井。アルコールの独特な芳香臭が鼻をついた。ぐっと力を入れて上半身を起こすと、やはりそこは病院の一室。

「7月、14、?」

それは、あの事故の起こった日。

『あぁ、やっと目覚めたのね。ご苦労様。完全に事故をなかったことにするのは少々難しくてね。彼を死なずに現世に留めることを別の神に頼ませてもらったわ。怪我はしているけれど、生きているよ。あの神のサービスである程度治癒しておいてくれたみたいだし。……じゃあ、さようなら。今までありがとうね』

頭の中に声が響いた。……あぁ、彼に、彼にもう一度会えるんだ。

「こちらこそ、ありがとうございました」

人間の力など及ばない、その領域の願いを叶えてくれた。突然異世界に飛ばされたのはさすがにちょっと不服だったけれど、本当にありがたかった。

 もう、返事は帰ってこないだろうけど、私は神様にお礼を告げた。

「あ、起きたらナースコールしろってあるじゃん」

手元の椅子に置いてあったメモパッドの一番上の紙に、走り書きで指示されている。ベッドの脇にあったナースコールの赤いボタンを、私は急いで押した。

 前の記憶では、怪我もしてないし失神しただけだったからすぐに開放されるだろう。

 開放されたら、彼に会いに行こう。私にとっては5年ぶりの再会に、つい顔がにやけたのが自分でも分かった。

 前代未聞の悪役令嬢視点での乙女ゲー攻略は、ハッピーエンドで、ここにて終わる。

 今思えば、悪役令嬢も悪くなかったのかもしれない。
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