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「……何故? 理由を聞いてもいいか、それが正当なものだと判断できない場合は受理できない」

王子にも体面というものはある。リリアナのことが好きなのは明らかに分かるのだが、物語の中と違って主人公を虐めたなどという非のない私との関係を切るほど大胆で馬鹿ではないらしい。……ここで喜んではいわかりました、ってほうが楽なんだけど……

 まぁ、こう言われることは予想済みだ。すぐに通るとは思っていない。

「わたくし、病に罹っているらしいのです。元来、身体が弱かったこともあり、このような状態では未来の王妃となるであろう貴方の婚約者を続行することが難しいのではないか、と思われましたので、申し立てることに致しましたの……」

「病、か……」

「これが診断書でございます」

お金を積んで、ちょっと脅して揺さぶって、無理やり手に入れた偽の診断書を王子に差し出す。

「っ、そうか……」

表情を歪めて、悲しげに王子が私を見る。元来、優しい人なのだ。そんな彼に嘘をつくのは申し訳ないが、背に腹は代えられないのだから仕方ない。ごめんね、と心の中で精一杯に謝る。

「なんと…… おいたわしや……」

「あれほど努力されていたのに……」

周りからは、驚きから同情に変わった声が飛び交っている。

「……その話は、私からしてもよいか?」

「王! もちろんでございます、このように王家に我が家の願いを聞き入れていただいた恩を仇で返す形になってしまったこと、誠にお詫び申し上げます」

「いや、よい。公爵からも話を聞いている。ゆっくり療養して、過ごされるといい。今まで息子が世話になったな」

王が優しげに目を細めて、慈しむような目線を向けてくれる。

 それから数秒、彼はパーティ会場で私達を取り囲むように群れている貴族たちに言い放つ。

「では、ちょうどこのように国の皆が集まってくれたいい機会であるし、私から宣言させてもらおう。……ここに、アンジェリカ・サフィールとギルバード・フィーゼルの婚約を破棄することを宣言する」

あぁ、長かったな…………

 そこからは、覚えていない。確か、はじまりのときのように、白い光に包まれて、そこでふっと意識が途切れたのだ。


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