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第四話 東雲くんは西枝くんの唇に死ぬほどキスしたい。
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「うっわ~! 西枝くんのノートってめっちゃ綺麗。女子みたい」
西枝時宗のノートを見せてもらった東雲唯人が、
思わず感嘆の声を漏らした。
「女子って……」
東雲唯人の言葉に、西枝時宗が思わず赤面する。
「僕ってそんなに女々しいかな……?
って、まあ見た目通りのガリ勉だし、体力はないけどさ」
少し傷ついた様子で、口を尖らせた西枝時宗に、
「いや、西枝くんはその辺の女子より、よっぽど可愛いと思う」
そう真顔で答える東雲唯人の瞳の瞳孔が開いている。
「かっ……可愛いって、僕が?
東雲くん、君、視力が悪いのかい」
面食らったように、大きく目を見開いている西枝時宗に、
「僕の視力は両目とも2.0だよ?」
東雲唯人がにっこりと微笑んだ。
(じゃあきっと、東雲くんは頭が悪いんだね。
かわいそうに)
西枝時宗はそんな言葉を飲み込んだ。
「コピーさせてくれてありがとう。西枝くんの直筆ノートのコピーなんて、
超レアアイテムじゃん。俺、家宝にするよ」
東雲唯人は小躍りせんがごとくに、喜んでいる。
「あっそうだ、西枝くんこの後時間ある?
良かったらカフェテリアでお茶でもどう?
是非お礼をさせてよ」
東雲唯人は西枝時宗の手を取って、
きらきらとした瞳で見つめてくる。
「お礼だなんて、そんなのいいよ」
恐縮して西枝時宗が断ると、
東雲唯人は奈落の底に突き落とされたかのような表情を浮かべる。
「そ……そうだよね、西枝くんは、忙しいよね……。
俺なんかとお茶を飲んでる時間なんてないよね……ハハッ……」
眦にうっすらと涙を浮かべて、がっくりと肩を落とした東雲唯人に、
西枝時宗は一体どういう声をかけていいのかわからず、
口をパクパクさせている。
「ちょっとだけなら……大丈夫かも。
身体の調子が戻るまで、塾は休むことにしているから」
西枝時宗の言葉に、東雲唯人は再びはじけるような笑顔を浮かべる。
「嬉しいっ! 善は急げだ、ほら行くよ! 西枝くん」
テンションが上がった勢いに任せて、
東雲唯人は西枝時宗の手をとって走り出す。
「ふぇ?」
急に手を引っ張られて、西枝時宗はつんのめってしまった。
再び眼鏡がずり落ちて、
瓶底眼鏡に隠されていた西枝時枝の素顔が露わになる。
憂いを帯びた漆黒の瞳は長く濃い睫毛に縁どられ、
白磁の肌には、今はほんのりと赤みが差して、
その唇は咲き初めの薔薇の蕾の様にみずみずしい。
「あっごめん、西枝くん」
東雲唯人は立ち止まり、西枝時宗の眼鏡を拾ってやる。
しかし東雲唯人はそれを西枝時宗に返すのを忘れ、
しばらくの間、西枝時宗の素顔に見惚れてしまった。
「美しい……」
そう呟いて、ためらいがちに西枝時宗の頬に触れる。
「はいっ?」
そんな東雲唯人の反応に、西枝時宗は思いっきり怪訝そうな顔をする。
「俺の女神……」
思わずそう口走った東雲唯人に
「いや、落ち着いて? 東雲くん、僕男だから」
西枝時宗は冷静にツッコミを入れる。
しかし東雲唯人の暴走は止まらない。
「俺の女神よ、どうかこの俺を憐れんで。
そして受け止めてほしい。
君の美しさに魅了された、この俺の巡礼を……」
恍惚の表情を浮かべて、東雲唯人は西枝時宗の手を取って、
その甲に口づける。
「うん……なんか……色々大変そうだよね……」
西枝時宗はそう言って、視線と思考を遠くに飛ばした。
こうしてこの日、
西枝時宗は、この男に対する全てのツッコミを放棄した。
◇◇◇
「ねぇねぇ、西枝くんはどれにする? 俺のお勧めはね、
英国王室御用達のミルクティーに、トゥンカロンはどうだろう?
見た目もとっても可愛いだろ?」
東雲唯人がきゃっきゃとはしゃぐのだが、
「う……うん、僕は……甘いものはちょっと……。
ブラックコーヒーで、いいよ」
嘘である。
西枝時宗は本当は甘いものも、紅茶も大好きである。
可愛くデコられた、トゥンカロンを食べてみたいと思った。
(だけど……だけど……こんな可愛いお菓子を僕なんかが食べていたら、
きっとまた、キモイとか言われるんだ)
そんなことを考えて、しょんぼりと肩を落とした。
そして眉間に皺を寄せて、ホットコーヒーを啜る。
苦い。
何が美味しいのかさっぱりわからない。
「ねぇねぇ、西枝くん、そのコーヒー美味しい?
俺も飲んでみたいな。ほいで、俺のロイヤルミルクティーもとっても美味しいから、
交換しようよ」
東雲唯人がそう言って人懐こい笑みを浮かべると、
「えっ? ええっと……」
西枝時宗がもじもじとした様子で、少し顔を赤らめた。
「食わず嫌いはよくないよ。西枝くん、ほら、これも美味しいから食べてみて」
東雲唯人はそう言って、トゥンカロンを指でつまんで西枝時宗の口元に持って行った。
「んっ」
西枝時宗はそのトゥンカロンを東雲唯人の指から、ぱくりと啄んだ。
その拍子に西枝時宗の唇が、東雲唯人の指に触れた。
東雲唯人が目を見開いて、動きを止める。
「美味しい」
驚きとともに破顔した西枝時宗に、
「っ!」
東雲唯人は無言のままで、カフェテリアの柱に頭突きをかます。
「ひっ! 一体何をしているの?
東雲くん……東雲くん、ちょっと大丈夫?」
額が割れて、少し血が滲んでいたが、
構うものかと東雲唯人は開き直る。
こうでもしなければ、恐らく自分は衝動的に……。
東雲唯人の欲情を孕んだ視線が、
西枝時宗の唇を追う。
西枝時宗のノートを見せてもらった東雲唯人が、
思わず感嘆の声を漏らした。
「女子って……」
東雲唯人の言葉に、西枝時宗が思わず赤面する。
「僕ってそんなに女々しいかな……?
って、まあ見た目通りのガリ勉だし、体力はないけどさ」
少し傷ついた様子で、口を尖らせた西枝時宗に、
「いや、西枝くんはその辺の女子より、よっぽど可愛いと思う」
そう真顔で答える東雲唯人の瞳の瞳孔が開いている。
「かっ……可愛いって、僕が?
東雲くん、君、視力が悪いのかい」
面食らったように、大きく目を見開いている西枝時宗に、
「僕の視力は両目とも2.0だよ?」
東雲唯人がにっこりと微笑んだ。
(じゃあきっと、東雲くんは頭が悪いんだね。
かわいそうに)
西枝時宗はそんな言葉を飲み込んだ。
「コピーさせてくれてありがとう。西枝くんの直筆ノートのコピーなんて、
超レアアイテムじゃん。俺、家宝にするよ」
東雲唯人は小躍りせんがごとくに、喜んでいる。
「あっそうだ、西枝くんこの後時間ある?
良かったらカフェテリアでお茶でもどう?
是非お礼をさせてよ」
東雲唯人は西枝時宗の手を取って、
きらきらとした瞳で見つめてくる。
「お礼だなんて、そんなのいいよ」
恐縮して西枝時宗が断ると、
東雲唯人は奈落の底に突き落とされたかのような表情を浮かべる。
「そ……そうだよね、西枝くんは、忙しいよね……。
俺なんかとお茶を飲んでる時間なんてないよね……ハハッ……」
眦にうっすらと涙を浮かべて、がっくりと肩を落とした東雲唯人に、
西枝時宗は一体どういう声をかけていいのかわからず、
口をパクパクさせている。
「ちょっとだけなら……大丈夫かも。
身体の調子が戻るまで、塾は休むことにしているから」
西枝時宗の言葉に、東雲唯人は再びはじけるような笑顔を浮かべる。
「嬉しいっ! 善は急げだ、ほら行くよ! 西枝くん」
テンションが上がった勢いに任せて、
東雲唯人は西枝時宗の手をとって走り出す。
「ふぇ?」
急に手を引っ張られて、西枝時宗はつんのめってしまった。
再び眼鏡がずり落ちて、
瓶底眼鏡に隠されていた西枝時枝の素顔が露わになる。
憂いを帯びた漆黒の瞳は長く濃い睫毛に縁どられ、
白磁の肌には、今はほんのりと赤みが差して、
その唇は咲き初めの薔薇の蕾の様にみずみずしい。
「あっごめん、西枝くん」
東雲唯人は立ち止まり、西枝時宗の眼鏡を拾ってやる。
しかし東雲唯人はそれを西枝時宗に返すのを忘れ、
しばらくの間、西枝時宗の素顔に見惚れてしまった。
「美しい……」
そう呟いて、ためらいがちに西枝時宗の頬に触れる。
「はいっ?」
そんな東雲唯人の反応に、西枝時宗は思いっきり怪訝そうな顔をする。
「俺の女神……」
思わずそう口走った東雲唯人に
「いや、落ち着いて? 東雲くん、僕男だから」
西枝時宗は冷静にツッコミを入れる。
しかし東雲唯人の暴走は止まらない。
「俺の女神よ、どうかこの俺を憐れんで。
そして受け止めてほしい。
君の美しさに魅了された、この俺の巡礼を……」
恍惚の表情を浮かべて、東雲唯人は西枝時宗の手を取って、
その甲に口づける。
「うん……なんか……色々大変そうだよね……」
西枝時宗はそう言って、視線と思考を遠くに飛ばした。
こうしてこの日、
西枝時宗は、この男に対する全てのツッコミを放棄した。
◇◇◇
「ねぇねぇ、西枝くんはどれにする? 俺のお勧めはね、
英国王室御用達のミルクティーに、トゥンカロンはどうだろう?
見た目もとっても可愛いだろ?」
東雲唯人がきゃっきゃとはしゃぐのだが、
「う……うん、僕は……甘いものはちょっと……。
ブラックコーヒーで、いいよ」
嘘である。
西枝時宗は本当は甘いものも、紅茶も大好きである。
可愛くデコられた、トゥンカロンを食べてみたいと思った。
(だけど……だけど……こんな可愛いお菓子を僕なんかが食べていたら、
きっとまた、キモイとか言われるんだ)
そんなことを考えて、しょんぼりと肩を落とした。
そして眉間に皺を寄せて、ホットコーヒーを啜る。
苦い。
何が美味しいのかさっぱりわからない。
「ねぇねぇ、西枝くん、そのコーヒー美味しい?
俺も飲んでみたいな。ほいで、俺のロイヤルミルクティーもとっても美味しいから、
交換しようよ」
東雲唯人がそう言って人懐こい笑みを浮かべると、
「えっ? ええっと……」
西枝時宗がもじもじとした様子で、少し顔を赤らめた。
「食わず嫌いはよくないよ。西枝くん、ほら、これも美味しいから食べてみて」
東雲唯人はそう言って、トゥンカロンを指でつまんで西枝時宗の口元に持って行った。
「んっ」
西枝時宗はそのトゥンカロンを東雲唯人の指から、ぱくりと啄んだ。
その拍子に西枝時宗の唇が、東雲唯人の指に触れた。
東雲唯人が目を見開いて、動きを止める。
「美味しい」
驚きとともに破顔した西枝時宗に、
「っ!」
東雲唯人は無言のままで、カフェテリアの柱に頭突きをかます。
「ひっ! 一体何をしているの?
東雲くん……東雲くん、ちょっと大丈夫?」
額が割れて、少し血が滲んでいたが、
構うものかと東雲唯人は開き直る。
こうでもしなければ、恐らく自分は衝動的に……。
東雲唯人の欲情を孕んだ視線が、
西枝時宗の唇を追う。
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