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第三十五話影武者の言い分⑮『余興』
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「ロザリア様~! ちゃんと飲んでますぅ~?
なんてったって今夜はロザリア様の帰還の祝いなんですからね、
ささっ、どうぞぉ」
メルさんはロザリア様のもとに、ワインボトルを抱えていきました。
ちらりとラベルが見えましたが、これはどこぞの国の希少ワインですね。
お高いですよぉ? 私は子供なので詳しくはわかりませんが。
え? メルさんってば、その希少ワインを
ロザリア陛下のワイングラスになみなみと注いでいます。
あれ? 幻覚なのかな。
私は目を擦りました。
こんなにキレイなお姉さんなのに、
なぜだかその背後に大衆居酒屋に通うひと昔前の親父が見えます。
グラスに希少ワインを注がれたロザリア様は、
最初は恥じらいながらも気に入ったのか
カパカパと気持ちよくグラスを開けていきます。
一杯目……二杯目……三杯目を超えたあたりから、
段々雲行きが怪しくなってきました。
「なんかぁ、わらひ、気分が良くなってきたわ~♪
誰か余興やんなさい、余興!」
グラスがまだるっこしくなったのか、
ロザリア陛下はすでにボトルキープで口飲みです。
(見なければよかった……)
心の涙が止まりません。
夢見た世界の虚飾が、がらがらと音を立てて崩れ落ちるの感じました。
サンタクロースの正体が親だったと知ったときくらいのショックです。
これがまさに大人の階段を上るということなのでしょうか。
「王族つったってなぁ、所詮人間なんだ。
過度な夢を見るな」
コーナーリングで真っ白になる矢吹ジョーのごとくに燃え尽きている
私の肩に、生温かい視線とともにミシェル様がポンと手を置きました。
「おやっさん……」
思わず呟いたら、ミシェル様が複雑な表情をなさいました。
あれ? なんで傷ついているんですか?
「だから~誰か~余興やりなさいよぉ~!
女王たる、このわらひを~楽しませなさ~い!」
ひぃぃぃぃぃ! ひな壇で酔っ払い女王、ロザリア陛下がご立腹されています。
嫌な予感しかしません。
「はいは~い! じゃあ私やります!」
そういってメルさんが勢いよく、手を上げました。
「私メル・シャルドがサイファリア王太子である、ゼノア・サイファリア君と
剣技で真剣勝負しま~す!」
メルさんの一声に、会場が沸きました。
注目を浴びて半泣きになっている私の前に、上着を脱いだミシェル様が立ちました。
「え?」
きょとんとしている私に、ミシェル様が上着を手渡しました。
「ちょっと持ってて」
そういってミシェル様はロザリア陛下の前に進み出ました。
「今宵は陛下のご帰還の祝い。
不肖の息子であるこの私も僭越ながら
陛下に余興なりとご披露したく思っております。
先程のメル・シャルド嬢のお申し出は
、東宮殿の客人、ゼノア・サイファリア氏を
剣技の相手として指名されましたが、
陛下がお許しくだされば、この私が代わりに
メル・シャルド嬢のお相手をしてもよろしいですか?」
そう言ってミシェル様は跪き、一輪の紅の薔薇をロザリア陛下に差し出しました。
ロザリア様は満足げにミシェル様から、薔薇を受け取られました。
その光景に、会場が一層沸きました。
(ロザリア様……全然酔ってないじゃん……)
ロザリア様は素面です。
その上でメルさんを泳がせましたね。
恐ろしい……。
ロザリア様が薔薇を受け取ったということは、
ミシェル様の言い分を受け入れたということです。
メルさんは果たして納得するのでしょうか?
「構いませんか? メル」
ロザリア様がそう問うと、
メルさんは少し面食らったような顔をしていましたが、
「はい、大丈夫です。ではミシェル様、よろしくお願いします」
そう言ってミシェル様の分の剣を渡しました。
会場が整えられると、即席の闘技場ができました。
中央で互いの剣を交わらせ、両者がお互いに少し離れたところで
女王陛下が開始の合図をされました。
ふむ、ミシェル様はフォム・ダッハの構えですね。
さすが一国の王太子、綺麗なフォルムです。
隙がありません。
剣を真っすぐに構え、左足を前にして肩幅に開いています。
ここから斜め下の強烈な切り下げが入ります。
スピードもあります。
そこをメルさんが辛うじてのところで躱しますが、
圧倒的にミシェル様が押しています。
これは王太子だからという理由での接待ではありません。
瞳孔の開いたミシェル様は、強いです。
魔王遺伝子が覚醒したのでしょうか。
シュランクフート、そこから水平切りが繰り出され、
小さく悲鳴をあげたメルさんが体制を崩しました。
どうやら足を挫いたようです。
振り翳されたミシェル様の剣の勢いがとまらない。
いけないっ!
とっさに私は予備の剣を手に取って、メルさんを背にかばい、
ミシェル様の剣を受け止めました。
(くっ、重いっ!)
思わず顔を顰めてしまいました。
ミシェル様が驚いた表情をされました。
野暮かとも思いますが、このままでは確実にメルさんが怪我をすると
思ったので割って入りました。
「既に勝負はありました。
剣をお納めください。ミシェル様」
そう言って微笑むと、なぜだか会場が沸きました。
そして『ミシェルvsゼノア』の試合を望むこえがあちこちから聞こえてきます。
もちろんそんなつもりは毛頭ありません。
墓穴掘ったか? 私……。
なんてったって今夜はロザリア様の帰還の祝いなんですからね、
ささっ、どうぞぉ」
メルさんはロザリア様のもとに、ワインボトルを抱えていきました。
ちらりとラベルが見えましたが、これはどこぞの国の希少ワインですね。
お高いですよぉ? 私は子供なので詳しくはわかりませんが。
え? メルさんってば、その希少ワインを
ロザリア陛下のワイングラスになみなみと注いでいます。
あれ? 幻覚なのかな。
私は目を擦りました。
こんなにキレイなお姉さんなのに、
なぜだかその背後に大衆居酒屋に通うひと昔前の親父が見えます。
グラスに希少ワインを注がれたロザリア様は、
最初は恥じらいながらも気に入ったのか
カパカパと気持ちよくグラスを開けていきます。
一杯目……二杯目……三杯目を超えたあたりから、
段々雲行きが怪しくなってきました。
「なんかぁ、わらひ、気分が良くなってきたわ~♪
誰か余興やんなさい、余興!」
グラスがまだるっこしくなったのか、
ロザリア陛下はすでにボトルキープで口飲みです。
(見なければよかった……)
心の涙が止まりません。
夢見た世界の虚飾が、がらがらと音を立てて崩れ落ちるの感じました。
サンタクロースの正体が親だったと知ったときくらいのショックです。
これがまさに大人の階段を上るということなのでしょうか。
「王族つったってなぁ、所詮人間なんだ。
過度な夢を見るな」
コーナーリングで真っ白になる矢吹ジョーのごとくに燃え尽きている
私の肩に、生温かい視線とともにミシェル様がポンと手を置きました。
「おやっさん……」
思わず呟いたら、ミシェル様が複雑な表情をなさいました。
あれ? なんで傷ついているんですか?
「だから~誰か~余興やりなさいよぉ~!
女王たる、このわらひを~楽しませなさ~い!」
ひぃぃぃぃぃ! ひな壇で酔っ払い女王、ロザリア陛下がご立腹されています。
嫌な予感しかしません。
「はいは~い! じゃあ私やります!」
そういってメルさんが勢いよく、手を上げました。
「私メル・シャルドがサイファリア王太子である、ゼノア・サイファリア君と
剣技で真剣勝負しま~す!」
メルさんの一声に、会場が沸きました。
注目を浴びて半泣きになっている私の前に、上着を脱いだミシェル様が立ちました。
「え?」
きょとんとしている私に、ミシェル様が上着を手渡しました。
「ちょっと持ってて」
そういってミシェル様はロザリア陛下の前に進み出ました。
「今宵は陛下のご帰還の祝い。
不肖の息子であるこの私も僭越ながら
陛下に余興なりとご披露したく思っております。
先程のメル・シャルド嬢のお申し出は
、東宮殿の客人、ゼノア・サイファリア氏を
剣技の相手として指名されましたが、
陛下がお許しくだされば、この私が代わりに
メル・シャルド嬢のお相手をしてもよろしいですか?」
そう言ってミシェル様は跪き、一輪の紅の薔薇をロザリア陛下に差し出しました。
ロザリア様は満足げにミシェル様から、薔薇を受け取られました。
その光景に、会場が一層沸きました。
(ロザリア様……全然酔ってないじゃん……)
ロザリア様は素面です。
その上でメルさんを泳がせましたね。
恐ろしい……。
ロザリア様が薔薇を受け取ったということは、
ミシェル様の言い分を受け入れたということです。
メルさんは果たして納得するのでしょうか?
「構いませんか? メル」
ロザリア様がそう問うと、
メルさんは少し面食らったような顔をしていましたが、
「はい、大丈夫です。ではミシェル様、よろしくお願いします」
そう言ってミシェル様の分の剣を渡しました。
会場が整えられると、即席の闘技場ができました。
中央で互いの剣を交わらせ、両者がお互いに少し離れたところで
女王陛下が開始の合図をされました。
ふむ、ミシェル様はフォム・ダッハの構えですね。
さすが一国の王太子、綺麗なフォルムです。
隙がありません。
剣を真っすぐに構え、左足を前にして肩幅に開いています。
ここから斜め下の強烈な切り下げが入ります。
スピードもあります。
そこをメルさんが辛うじてのところで躱しますが、
圧倒的にミシェル様が押しています。
これは王太子だからという理由での接待ではありません。
瞳孔の開いたミシェル様は、強いです。
魔王遺伝子が覚醒したのでしょうか。
シュランクフート、そこから水平切りが繰り出され、
小さく悲鳴をあげたメルさんが体制を崩しました。
どうやら足を挫いたようです。
振り翳されたミシェル様の剣の勢いがとまらない。
いけないっ!
とっさに私は予備の剣を手に取って、メルさんを背にかばい、
ミシェル様の剣を受け止めました。
(くっ、重いっ!)
思わず顔を顰めてしまいました。
ミシェル様が驚いた表情をされました。
野暮かとも思いますが、このままでは確実にメルさんが怪我をすると
思ったので割って入りました。
「既に勝負はありました。
剣をお納めください。ミシェル様」
そう言って微笑むと、なぜだか会場が沸きました。
そして『ミシェルvsゼノア』の試合を望むこえがあちこちから聞こえてきます。
もちろんそんなつもりは毛頭ありません。
墓穴掘ったか? 私……。
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