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第四十四話悪役令嬢は覇王と結婚する。
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ここは……どこ?
厳かなパイプオルガンの調べに乗せて、美しい女性の合唱が聞こえてくる。
これは……シューベルトのアベ・マリアかしら?
エリオットは棺の中で目を覚ました。
甘い香りが鼻を掠めた。
これは花の香り?
自分が納められているクリスタルの棺には、
百合、薔薇、リシアンサス、カラーといった、
色とりどりの花で埋め尽くされている。
ん? 棺?
エリオットが身体を起こすと、
祭壇で祈りを捧げている神父と、うっかり目が合ってしまった。
結婚式場とかによくいる感じの、なんちゃって外国人風の神父っぽい。
金髪でオカッパの鼻がやたらと高い、片言神父だ。
(すごく胡散臭い!)
エリオットは、瞬きを繰り返す。
「オー! 生キ返リマシタ、
ソレデハ 1000ゴールド ニ ナリマス」
(え? お金取るの?
だけど私、今持ち合わせなんて……)
そう思って自身を見回してみる。
(え? なんで私ウエディングドレスなんか着ているの?)
色々とあり得ない状況に軽くパニックに、なっていると、
「ハヤク 1000ゴールド 払エヤ、コノアマ」
インチキ神父が凄んでくる。
「申し訳ありません、神父様。
あいにく私、今、持ち合わせがなくて……」
そう謝ると、聖堂の一番前に座っていた少年が、
こらえきれないといったように、笑いだした。
聖堂には、神父と聖歌隊の他にはこの少年しかいない。
金色の髪を緩く背で束ね、少年はタキシードを着ている。
その翡翠色の瞳には覚えがある。
ミシェルと一緒にいた少年だ。
彼の名は……そう。
「ゼノア君?」
いや、違う。
よく似ているが、違う。
そもそも髪の長さが違うではないか。
自分の知っているゼノアは、肩のあたりの髪の長さだった。
エリオットは目を凝らした。
しかし、この少年の髪はその背中くらいまである。
シャンプーのCMに出られそうなくらいのキューティクルだ。
「いかにも我が名はゼノア・サイファリアだ。
ただし、本物のほうな」
少年はエリオットの前に立ち、手を差し出す。
「お前の借金、この俺が払ってやってもいいぜ?」
少年の笑みには、黒い凄みがある。
「1000ゴールド 払エナイナラ
オマエ イカガワシイ店 ニ 売リ飛バス」
どういう神父様?
そんな突っ込みを飲みこみつつ
エリオットは、状況を理解しようと努める。
「いかがわしいお店って……どういう……?」
エリオットが顔色を変えて、神父に尋ねた。
「モンスターの闘技場風の店で、淫魔とあれやこれやする店だ」
ゼノアがシレっと言った。
「嫌です。私をお救い下さい、神父様」
エリオットがふるふると首を振って、神父に懇願する。
「おっと、お前が救いを求めるのはそいつじゃない。
お前が跪くのは、この俺だ」
ゼノアがエリオットの顎を掴み、自分のほうに向かせる。
「あなたが助けてくれるの?」
エリオットは、すがるような視線をゼノアに送る。
「ただし、条件がある。
この俺と今すぐ結婚しろ」
ゼノアは高飛車にエリオットに命令した。
◇◇◇
「ゴ成婚、オメデトウゴザイマ~ス!」
こうしてエリオットの葬儀は、ゼノアのペテンによって結婚式へと変えられた。
ここに一組のカップルが誕生する。
新郎の名は、ゼノア・サイファリア12歳、職業:サイファリア国王太子。
新婦の名はエリオット・エルダートン16歳、職業:悪役令嬢。
「私、ゼノア・サイファリアは生涯エリオット・エルダートンを
病める時も健やかなるときも、愛することを誓いま~す!」
運動会の選手宣誓かというくらいの軽さで、ゼノアが誓う。
「デハ エリオット・エルダートン、愛ノ誓イヲ」
インチキ神父が促す。
「いや……あの……私は……ちょっと……」
エリオットが視線を泳がせると、耳元でゼノアが低く囁いた。
「誓わなければ、闘技場に売り飛ばし、
淫魔とあれやこれやさせるぞ?」
ゼノアの言葉にエリオットが目を瞬かせる。
「ち……誓います! 誓えばいいんでしょ!
はいはい、誓いますぅぅぅ!」
半ばやけくそになって、エリオットが誓った。
「雑ナ誓イ デ~ス、ハイ、デハ 誓イノキスヲ交シテクダサイ」
インチキ神父が、にやりと笑ってキスを促す。
「は? はあ? キス?
出会って30分も経っていない人と
何が悲しくて、結婚して、しかもキスっ……ていうか
相手は子供じゃない。これじゃあ犯罪になってしまうわ」
エリオットがぶんぶんと頭を激しく横に振った。
「あいにくここは、お前が暮らしていたライネル公国ではなく、
隣国のサイファリアだ。サイファリアには王族に限り、
12歳の元服時に添い臥しという性の相手が必要になってくる。
つまりそれがお前だということだ。
そういうわけだから、法には抵触せん。安心しろ」
ゼノアが腕を組み、冷静な口調で言う。
「法律的に許されたとしても、倫理的に受け付けないわよ」
エリオットの言葉にゼノアの眼差しが険しくなる。
「お前、俺が年下だと思って侮ってやがるな」
ゼノアの言葉に、エリオットが口ごもる。
「そういうわけじゃないけど……」
一応は、相手の手前言葉では否定するが、
本音としてはそうなんだ。
「だったら、来いよ」
ゼノアは許さない。
(ひぃぃぃ、実は私、キスは初めてなんですぅぅぅぅ)
エリオットが心の中で悲鳴をあげる。
ひどく赤面し、震える手で不器用にゼノアの肩に手を置くと、
ちょっと泣きそうになった。
そんなエリオットをゼノアが意地悪そうな眼差しで見ている。
身長は相手が幾分低いとはいえ、あまり気にはならない程度だ。
エリオットは覚悟を決めて、そっと唇を近づけた。
それは微かに触れるだけの不器用なキスだった。
それでもそれはエリオットの精一杯のキスだった。
真っ赤になって、下を向くエリオットの耳元にゼノアが囁く。
「へたくそ」
厳かなパイプオルガンの調べに乗せて、美しい女性の合唱が聞こえてくる。
これは……シューベルトのアベ・マリアかしら?
エリオットは棺の中で目を覚ました。
甘い香りが鼻を掠めた。
これは花の香り?
自分が納められているクリスタルの棺には、
百合、薔薇、リシアンサス、カラーといった、
色とりどりの花で埋め尽くされている。
ん? 棺?
エリオットが身体を起こすと、
祭壇で祈りを捧げている神父と、うっかり目が合ってしまった。
結婚式場とかによくいる感じの、なんちゃって外国人風の神父っぽい。
金髪でオカッパの鼻がやたらと高い、片言神父だ。
(すごく胡散臭い!)
エリオットは、瞬きを繰り返す。
「オー! 生キ返リマシタ、
ソレデハ 1000ゴールド ニ ナリマス」
(え? お金取るの?
だけど私、今持ち合わせなんて……)
そう思って自身を見回してみる。
(え? なんで私ウエディングドレスなんか着ているの?)
色々とあり得ない状況に軽くパニックに、なっていると、
「ハヤク 1000ゴールド 払エヤ、コノアマ」
インチキ神父が凄んでくる。
「申し訳ありません、神父様。
あいにく私、今、持ち合わせがなくて……」
そう謝ると、聖堂の一番前に座っていた少年が、
こらえきれないといったように、笑いだした。
聖堂には、神父と聖歌隊の他にはこの少年しかいない。
金色の髪を緩く背で束ね、少年はタキシードを着ている。
その翡翠色の瞳には覚えがある。
ミシェルと一緒にいた少年だ。
彼の名は……そう。
「ゼノア君?」
いや、違う。
よく似ているが、違う。
そもそも髪の長さが違うではないか。
自分の知っているゼノアは、肩のあたりの髪の長さだった。
エリオットは目を凝らした。
しかし、この少年の髪はその背中くらいまである。
シャンプーのCMに出られそうなくらいのキューティクルだ。
「いかにも我が名はゼノア・サイファリアだ。
ただし、本物のほうな」
少年はエリオットの前に立ち、手を差し出す。
「お前の借金、この俺が払ってやってもいいぜ?」
少年の笑みには、黒い凄みがある。
「1000ゴールド 払エナイナラ
オマエ イカガワシイ店 ニ 売リ飛バス」
どういう神父様?
そんな突っ込みを飲みこみつつ
エリオットは、状況を理解しようと努める。
「いかがわしいお店って……どういう……?」
エリオットが顔色を変えて、神父に尋ねた。
「モンスターの闘技場風の店で、淫魔とあれやこれやする店だ」
ゼノアがシレっと言った。
「嫌です。私をお救い下さい、神父様」
エリオットがふるふると首を振って、神父に懇願する。
「おっと、お前が救いを求めるのはそいつじゃない。
お前が跪くのは、この俺だ」
ゼノアがエリオットの顎を掴み、自分のほうに向かせる。
「あなたが助けてくれるの?」
エリオットは、すがるような視線をゼノアに送る。
「ただし、条件がある。
この俺と今すぐ結婚しろ」
ゼノアは高飛車にエリオットに命令した。
◇◇◇
「ゴ成婚、オメデトウゴザイマ~ス!」
こうしてエリオットの葬儀は、ゼノアのペテンによって結婚式へと変えられた。
ここに一組のカップルが誕生する。
新郎の名は、ゼノア・サイファリア12歳、職業:サイファリア国王太子。
新婦の名はエリオット・エルダートン16歳、職業:悪役令嬢。
「私、ゼノア・サイファリアは生涯エリオット・エルダートンを
病める時も健やかなるときも、愛することを誓いま~す!」
運動会の選手宣誓かというくらいの軽さで、ゼノアが誓う。
「デハ エリオット・エルダートン、愛ノ誓イヲ」
インチキ神父が促す。
「いや……あの……私は……ちょっと……」
エリオットが視線を泳がせると、耳元でゼノアが低く囁いた。
「誓わなければ、闘技場に売り飛ばし、
淫魔とあれやこれやさせるぞ?」
ゼノアの言葉にエリオットが目を瞬かせる。
「ち……誓います! 誓えばいいんでしょ!
はいはい、誓いますぅぅぅ!」
半ばやけくそになって、エリオットが誓った。
「雑ナ誓イ デ~ス、ハイ、デハ 誓イノキスヲ交シテクダサイ」
インチキ神父が、にやりと笑ってキスを促す。
「は? はあ? キス?
出会って30分も経っていない人と
何が悲しくて、結婚して、しかもキスっ……ていうか
相手は子供じゃない。これじゃあ犯罪になってしまうわ」
エリオットがぶんぶんと頭を激しく横に振った。
「あいにくここは、お前が暮らしていたライネル公国ではなく、
隣国のサイファリアだ。サイファリアには王族に限り、
12歳の元服時に添い臥しという性の相手が必要になってくる。
つまりそれがお前だということだ。
そういうわけだから、法には抵触せん。安心しろ」
ゼノアが腕を組み、冷静な口調で言う。
「法律的に許されたとしても、倫理的に受け付けないわよ」
エリオットの言葉にゼノアの眼差しが険しくなる。
「お前、俺が年下だと思って侮ってやがるな」
ゼノアの言葉に、エリオットが口ごもる。
「そういうわけじゃないけど……」
一応は、相手の手前言葉では否定するが、
本音としてはそうなんだ。
「だったら、来いよ」
ゼノアは許さない。
(ひぃぃぃ、実は私、キスは初めてなんですぅぅぅぅ)
エリオットが心の中で悲鳴をあげる。
ひどく赤面し、震える手で不器用にゼノアの肩に手を置くと、
ちょっと泣きそうになった。
そんなエリオットをゼノアが意地悪そうな眼差しで見ている。
身長は相手が幾分低いとはいえ、あまり気にはならない程度だ。
エリオットは覚悟を決めて、そっと唇を近づけた。
それは微かに触れるだけの不器用なキスだった。
それでもそれはエリオットの精一杯のキスだった。
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