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不正アクセス
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「何だ? 何が起きた?」キリカは怪訝な表情を浮かべる。「……お前……じゃないよな」
ニムは自身のカメラを眼球のようにぐるりと、時計回りで一回転させる。「たったいま、わたしのほかにシェルターのネットワークにアクセスした者がいマス。しかし正規のアクセス方法ではなく、どうやらハッキングを試みたようデス。結果、セキュリティに外敵だとみなされてしまいマシタ」
「誰かが強引にシェルターの入り口を開けたってことか……」
味方、ではないだろう。完全に。
厄介だな、とキリカは舌打ちした。ばったり出くわした後のシチュエーションが容易に想像できる。すなわち、強奪を目的とした闘争、殺害。それに対抗するための正当防衛、殺害。負ける気はしないが、はっきりいって面倒だ。
正規の手順でシェルターに入ってないことからも、ここの関係者でないことが読み取れる。
放浪者か。はたまた略奪者か。どっちにせよ関与しないのが賢明だ。
「エマージェンシー、エマージェンシー。総勢百体の警備ロボットがこちらに向かっているようデス」
キリカは溜め息をついた。これまでの経験から大体予想がつくのだ。百体の警備ロボはこのシェルターのいわば奥の手。建物自体を傷つけても必ず機密情報を守秘、もしくは破壊する執行者だ。先程倒した円盤型偵察機とは比べ物にならないほどの攻撃特性を持つに違いない。それが不正アクセスを検知したいま、シェルターの心臓部であり、情報の金庫とも言うべきこの管理ルームに向かって出勤してしまった。
ならばすでに地図の閲覧という時間を浪費するだけの選択は愚の骨頂と化している。不正アクセスが行われ、執行されるセキュリティプロトコルをやり過ごすしか道はないのだから、どうせならテイクアウトを選んだほうがいい。
「予定変更だ、ニム。マップデータは持ち出す」キリカは銃先で後頭部を掻いた。「こっちに来てる警備ロボは銃火器を持っているのか?」
ディスプレイに3Dモデルが表示された。卵のような形をしており、小さな四つの足が体を支えている。体色は白だ。
「K9。Vber社製の警備ロボットデス。外敵の排除に特化した個体でテーザー銃と銃火器を装備していマス」
画面上のK9の体内から、銃筒が左と右に現れた。そして弾丸をマシンガンのように発射する。
「秒間二十発。使用される弾丸は9mmパラベラム弾デス」
キリカは自身の持つ拳銃を見つめた。「わかった。私の準備が整い次第、解析を始めてくれ」
「了解しマシタ」
直後、ニムの背中が勢いよく開いた。キリカはその中から、真円の防護盾、予備弾倉を取り出した。防護盾を左手に持ち、予備弾倉を腰に仕込み、部屋の出入り口を見据えた。
扉は三つ。キリカたちが入って来た五メートルほど上にある中央の扉。通路の階段横にある右の扉。その真向かいにある左の扉。こうしてみると、この部屋は中央扉を境に綺麗なシンメトリーを形成していることが分かった。
キリカは額に上げていたゴーグルをはめた。顔のほぼ半分を透明なレンズが覆った。
ゴーグル越しに部屋を見ると、水色のデジタル文字が視界の右下に浮かび上がった。
使用銃――レイドガン(切替・ハンドガン。切替・ショットガン)。
使用弾薬――ハンドガン時・9mmパラベラム弾。ショットガン時・410ゲージ。
使用システム――弾道補正、核部破壊(K9の個体情報取得済み)。
推定使用弾数――百発。
キリカは防護盾を持ち、机に身を隠した。
ニムはプラズマシールドを起動した。プラズマでできた透明の楕円形の膜がニムを覆うように広がった。物理的接触を完全に拒絶するドーム型の盾だ。最新鋭の装備であり、まだ試作段階の防具のため、広範囲に展開するほどの性能は発揮できていない代物だった。最近ニムに実験的に搭載された機能の一部である。ただ、この機能にも耐久度があり、それは一般の防護盾とほとんど変わらない。しかし、三百六十度どの方向からの攻撃にも対応できるという事実は大きなメリットであった。
何にせよニムの防弾対策は完璧だ。キリカは自身の攻防に集中できると思った。
「いきマス」
ニムの言葉の直後、巨大ディスプレイに英数字が大量に映し出され、上から下に急速にスクロールしていった。
中央の扉が開く。扉の向こうから卵型の機械――K9が現れた。
キリカは机から身を乗り出す。すると空間に、K9に重なるようにロックオン表示の3Dオブジェクトが敵の数だけ浮かび上がった。
キリカは標的に銃を向け、空間に表示された推測弾道のラインを確認しながら、トリガーを引いた。
弾丸は推測弾道をレールにして、飛んでいく。そしてK9に着弾。さらにK9の心臓部を貫く。敵は青白い電光を放つ。一瞬にして超攻撃的警備ロボットはガラクタと化していった。
視界の端に映る消費弾薬数がどんどん増えてく。銃撃音が小気味よく鳴り響いた。
そしてロックオン表示がすべて消えたところで、銃に制限がかかり、それ以上の弾薬放出に歯止めをかける。
結果、K9に攻撃を許さず、あっという間にそれらを無力化し、破壊を遂行することができた。
倒した数は十九。ちょうど一マガジンの弾数と同じ数だった。キリカは弾薬を補充し、次の敵に備える。
ディスプレイでは英数字のスクロールが依然止まらない。パスワード解析の完了にはまだ時間がかかりそうだ。
右の扉が開いた。キリカは先程と同じ要領で、入って来たロボットたちを鉄塊に変えていく。扉の傍で転がる同志を器用に踏みつけて上り、部屋に入ってくるK9一同は無念にも、その役目を果たせず壊されていった。
続いて左の扉から。これも先程と同様に駆逐していく。
消費弾薬の方もまったくもって順調だった。
しかし、第三波目の攻撃が厄介だった。
中央、右、左、三つの扉全てから、一斉にK9が現れたのだ。
まずい、と不利を悟ったキリカは机に身を隠し、防護盾を構え、敵の攻撃に備えた。
次の瞬間、一斉に何十発もの弾丸が部屋の中を飛び交った。コンクリートの壁を削り、床に蜘蛛の巣上の罅を入れ、机上のディスプレイを破壊する。機密情報の保持や、ネットワーク機器の重要性を理解しない滅茶苦茶な銃撃だった。
巨大ディスプレイも数多の弾丸の被害を受け、あちこちに大きな亀裂が形成されていった。
ニムのいる場所だけが、プラズマシールドによって一斉射撃の被害を受けずに済み、あとの場所には弾薬による破壊痕が作られた。
雨あられの様に飛び交う攻撃に歯を食いしばって耐えながら、キリカは盾を右手に、銃を左手に持ち替えた。
そして無差別射撃が弾切れによって終わりを迎えると、ゴーグル越しの空間の右下に10という数値が現れた。キリカはすかさず机の陰から半身を出し、向かって左の扉に、しゃがみつつ飛び出した。防御盾で身を隠し、中央と右の扉の敵からの銃撃に備え、銃を構えながら、じりじりと左の扉前に陣取る敵たちに近づき、引き金を一回、二回、と引いていく。
核部破壊のシステムにより、弾丸は精確無比に獲物の心臓部を貫く。
リロードまであと……。
視界の右下にあった数値が5、4、3とカウントされていき、2になった瞬間にキリカは傍の机の陰に身を隠す。と同時に左の扉の敵の最後の一体が音を立てて、床に倒れた。
そして二度目のクロスファイア。キリカは中央扉の敵、五メートル上空にいる刺客に注意し、防護盾の陰におさまるように身体を丸くした。そして銃撃がおさまる間に、銃の弾倉をひと際長いものと入れ替えた。
現れる静寂。キリカは満を持して立ち上がり、中央扉の敵に向かって引き金を引いた。セミオートからフルオートへ。複数の弾丸が連続的に発射され、機械の心臓を貫いていく。
中央が終わると、次は右の扉の敵に。
防護盾を構えることを忘れず、銃弾をお見舞いする。
敵のリロード完了まで。あと5、4、3、2……。
1という数字が表示される前に事態は収束した。扉前のK9――警備ロボットたちは電光を出しながら地面に横たわった。
ニムは自身のカメラを眼球のようにぐるりと、時計回りで一回転させる。「たったいま、わたしのほかにシェルターのネットワークにアクセスした者がいマス。しかし正規のアクセス方法ではなく、どうやらハッキングを試みたようデス。結果、セキュリティに外敵だとみなされてしまいマシタ」
「誰かが強引にシェルターの入り口を開けたってことか……」
味方、ではないだろう。完全に。
厄介だな、とキリカは舌打ちした。ばったり出くわした後のシチュエーションが容易に想像できる。すなわち、強奪を目的とした闘争、殺害。それに対抗するための正当防衛、殺害。負ける気はしないが、はっきりいって面倒だ。
正規の手順でシェルターに入ってないことからも、ここの関係者でないことが読み取れる。
放浪者か。はたまた略奪者か。どっちにせよ関与しないのが賢明だ。
「エマージェンシー、エマージェンシー。総勢百体の警備ロボットがこちらに向かっているようデス」
キリカは溜め息をついた。これまでの経験から大体予想がつくのだ。百体の警備ロボはこのシェルターのいわば奥の手。建物自体を傷つけても必ず機密情報を守秘、もしくは破壊する執行者だ。先程倒した円盤型偵察機とは比べ物にならないほどの攻撃特性を持つに違いない。それが不正アクセスを検知したいま、シェルターの心臓部であり、情報の金庫とも言うべきこの管理ルームに向かって出勤してしまった。
ならばすでに地図の閲覧という時間を浪費するだけの選択は愚の骨頂と化している。不正アクセスが行われ、執行されるセキュリティプロトコルをやり過ごすしか道はないのだから、どうせならテイクアウトを選んだほうがいい。
「予定変更だ、ニム。マップデータは持ち出す」キリカは銃先で後頭部を掻いた。「こっちに来てる警備ロボは銃火器を持っているのか?」
ディスプレイに3Dモデルが表示された。卵のような形をしており、小さな四つの足が体を支えている。体色は白だ。
「K9。Vber社製の警備ロボットデス。外敵の排除に特化した個体でテーザー銃と銃火器を装備していマス」
画面上のK9の体内から、銃筒が左と右に現れた。そして弾丸をマシンガンのように発射する。
「秒間二十発。使用される弾丸は9mmパラベラム弾デス」
キリカは自身の持つ拳銃を見つめた。「わかった。私の準備が整い次第、解析を始めてくれ」
「了解しマシタ」
直後、ニムの背中が勢いよく開いた。キリカはその中から、真円の防護盾、予備弾倉を取り出した。防護盾を左手に持ち、予備弾倉を腰に仕込み、部屋の出入り口を見据えた。
扉は三つ。キリカたちが入って来た五メートルほど上にある中央の扉。通路の階段横にある右の扉。その真向かいにある左の扉。こうしてみると、この部屋は中央扉を境に綺麗なシンメトリーを形成していることが分かった。
キリカは額に上げていたゴーグルをはめた。顔のほぼ半分を透明なレンズが覆った。
ゴーグル越しに部屋を見ると、水色のデジタル文字が視界の右下に浮かび上がった。
使用銃――レイドガン(切替・ハンドガン。切替・ショットガン)。
使用弾薬――ハンドガン時・9mmパラベラム弾。ショットガン時・410ゲージ。
使用システム――弾道補正、核部破壊(K9の個体情報取得済み)。
推定使用弾数――百発。
キリカは防護盾を持ち、机に身を隠した。
ニムはプラズマシールドを起動した。プラズマでできた透明の楕円形の膜がニムを覆うように広がった。物理的接触を完全に拒絶するドーム型の盾だ。最新鋭の装備であり、まだ試作段階の防具のため、広範囲に展開するほどの性能は発揮できていない代物だった。最近ニムに実験的に搭載された機能の一部である。ただ、この機能にも耐久度があり、それは一般の防護盾とほとんど変わらない。しかし、三百六十度どの方向からの攻撃にも対応できるという事実は大きなメリットであった。
何にせよニムの防弾対策は完璧だ。キリカは自身の攻防に集中できると思った。
「いきマス」
ニムの言葉の直後、巨大ディスプレイに英数字が大量に映し出され、上から下に急速にスクロールしていった。
中央の扉が開く。扉の向こうから卵型の機械――K9が現れた。
キリカは机から身を乗り出す。すると空間に、K9に重なるようにロックオン表示の3Dオブジェクトが敵の数だけ浮かび上がった。
キリカは標的に銃を向け、空間に表示された推測弾道のラインを確認しながら、トリガーを引いた。
弾丸は推測弾道をレールにして、飛んでいく。そしてK9に着弾。さらにK9の心臓部を貫く。敵は青白い電光を放つ。一瞬にして超攻撃的警備ロボットはガラクタと化していった。
視界の端に映る消費弾薬数がどんどん増えてく。銃撃音が小気味よく鳴り響いた。
そしてロックオン表示がすべて消えたところで、銃に制限がかかり、それ以上の弾薬放出に歯止めをかける。
結果、K9に攻撃を許さず、あっという間にそれらを無力化し、破壊を遂行することができた。
倒した数は十九。ちょうど一マガジンの弾数と同じ数だった。キリカは弾薬を補充し、次の敵に備える。
ディスプレイでは英数字のスクロールが依然止まらない。パスワード解析の完了にはまだ時間がかかりそうだ。
右の扉が開いた。キリカは先程と同じ要領で、入って来たロボットたちを鉄塊に変えていく。扉の傍で転がる同志を器用に踏みつけて上り、部屋に入ってくるK9一同は無念にも、その役目を果たせず壊されていった。
続いて左の扉から。これも先程と同様に駆逐していく。
消費弾薬の方もまったくもって順調だった。
しかし、第三波目の攻撃が厄介だった。
中央、右、左、三つの扉全てから、一斉にK9が現れたのだ。
まずい、と不利を悟ったキリカは机に身を隠し、防護盾を構え、敵の攻撃に備えた。
次の瞬間、一斉に何十発もの弾丸が部屋の中を飛び交った。コンクリートの壁を削り、床に蜘蛛の巣上の罅を入れ、机上のディスプレイを破壊する。機密情報の保持や、ネットワーク機器の重要性を理解しない滅茶苦茶な銃撃だった。
巨大ディスプレイも数多の弾丸の被害を受け、あちこちに大きな亀裂が形成されていった。
ニムのいる場所だけが、プラズマシールドによって一斉射撃の被害を受けずに済み、あとの場所には弾薬による破壊痕が作られた。
雨あられの様に飛び交う攻撃に歯を食いしばって耐えながら、キリカは盾を右手に、銃を左手に持ち替えた。
そして無差別射撃が弾切れによって終わりを迎えると、ゴーグル越しの空間の右下に10という数値が現れた。キリカはすかさず机の陰から半身を出し、向かって左の扉に、しゃがみつつ飛び出した。防御盾で身を隠し、中央と右の扉の敵からの銃撃に備え、銃を構えながら、じりじりと左の扉前に陣取る敵たちに近づき、引き金を一回、二回、と引いていく。
核部破壊のシステムにより、弾丸は精確無比に獲物の心臓部を貫く。
リロードまであと……。
視界の右下にあった数値が5、4、3とカウントされていき、2になった瞬間にキリカは傍の机の陰に身を隠す。と同時に左の扉の敵の最後の一体が音を立てて、床に倒れた。
そして二度目のクロスファイア。キリカは中央扉の敵、五メートル上空にいる刺客に注意し、防護盾の陰におさまるように身体を丸くした。そして銃撃がおさまる間に、銃の弾倉をひと際長いものと入れ替えた。
現れる静寂。キリカは満を持して立ち上がり、中央扉の敵に向かって引き金を引いた。セミオートからフルオートへ。複数の弾丸が連続的に発射され、機械の心臓を貫いていく。
中央が終わると、次は右の扉の敵に。
防護盾を構えることを忘れず、銃弾をお見舞いする。
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