1 / 46
第1部 樹海の少年 第1話 樹海の少年
1.樹海の少年
しおりを挟む
パリスの国とバラモン国の間に、切り立つ岩山を盾にして、緑深き原始の森が残されている。
普段は訪れるものはいないが、踏み入れる者は、森を堂々巡りし疲れはてることになる。
運の悪い者は、森の命を繋ぐ輪のなかに、ゆるやかに、分解され、取り込まれ森の養分になっていく。
この人を惑わす呪術は、300年前に古き民の森の王国の、最後で最強だった王、リヒターが、森に新しき人の侵入を拒むためにかけたという。
侵入者は決まって森の奥つ城にあるという、古き魔法の形見か、いにしえの王国の宝を略奪にくる。
それもここ数年は訪れるものはいない。
その人を拒む森は、樹海と呼ばれるようになっていた。
その奥つ城の周辺には、数少ない住民達がいる。
彼らは古き人の血を引く、森の王国の末の者である。
幾星霜も変わらず祈りをささげる。
古き人の血を守るため、近親婚を繰り返している。
いずれ消え行く運命の、樹海の民である。
彼らによると、神により作り出された時は、人はすべて両性を備え、性別は未分化(プロトタイプ)だったという。
その後、ひとつの性別しか持たない、不完全な新しき人が生まれ、世界は新しき人で満ちていく。
一方で、両性未分化の古き人は、数を激減させる。
プロトタイプで生まれるのは、古き人の血を引く樹海の民のなかでもまれ。
『少年』は、樹海の民の神官長の愛人の、三人目の子。
待望の両性未分化(プロトタイプ)であった。
一番目の子はプロトタイプに生まれつき、女性となって、樹海の外で生きているという。
土の精霊が、誕生を祝い、森中のゆりの花を一斉に咲かせたため、リリアスと名付けられた。
リリアスの体には、男の子の未熟な器官と、女の子の器官が両方とも矛盾なく存在している。
この物語は樹海出身の『少年』リリアスが、愛を知り、成長する物語である。
◇◇◇◇
侵入者に気がついたのは古き人の血を引くその『少年』リリアスだった。
リリアスは森のざわめきから、侵入者の存在を知った。
黄金にかがやく美しい毛皮の、友でもある豹、シャーが侵入者をうかがっている。
例によって入り口付近のまじないに囚われている。
リリアスは木陰から観察する。
侵入者の髪は、豪奢に煌めく金茶の髪だった。大変美しいと思う。
足取りはつまらなさそうだが、体をぴったりと覆う衣装の外からも、強さとしなやかな肉体を感じさせる。
彼からは血と、つんとした金属の匂いと、樹海の外へ拡がる刺激的なスパイスのような危険な世界の匂いがした。
僕の運命。
リリアスは思った。
彼は自分をこの辛気くさい牢獄から連れ出してくれる、運命に違いない。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
侵入者がとらわれてる閉じられた呪術の輪の中へ、入り込む。
リリアスは、方向感覚を麻痺させる呪術を少し読みとく。
その呪術は強力で、完璧にはかわせないが、ほどほどでもなんとかなるものだった。
金茶の侵入者の行く先を先回りして、泉にでる。
森の中の清浄なオアシスで、心身を清める泉として、リリアスは度々利用していた。
後ろを振り返り、金茶の若ものが辿り着くのにまだ数刻あるのを確認する。
パシャンと水をはねあげて、泉の魚の鱗が煌めいた。
ただ待つのが手持ちぶさただったので、リリアスは草木に染まった衣服を脱ぎ捨てる。
泉に飛び込んだ!
森に浄化された泉の水はキンとして冷たく、気持ちが良かった。
普段は訪れるものはいないが、踏み入れる者は、森を堂々巡りし疲れはてることになる。
運の悪い者は、森の命を繋ぐ輪のなかに、ゆるやかに、分解され、取り込まれ森の養分になっていく。
この人を惑わす呪術は、300年前に古き民の森の王国の、最後で最強だった王、リヒターが、森に新しき人の侵入を拒むためにかけたという。
侵入者は決まって森の奥つ城にあるという、古き魔法の形見か、いにしえの王国の宝を略奪にくる。
それもここ数年は訪れるものはいない。
その人を拒む森は、樹海と呼ばれるようになっていた。
その奥つ城の周辺には、数少ない住民達がいる。
彼らは古き人の血を引く、森の王国の末の者である。
幾星霜も変わらず祈りをささげる。
古き人の血を守るため、近親婚を繰り返している。
いずれ消え行く運命の、樹海の民である。
彼らによると、神により作り出された時は、人はすべて両性を備え、性別は未分化(プロトタイプ)だったという。
その後、ひとつの性別しか持たない、不完全な新しき人が生まれ、世界は新しき人で満ちていく。
一方で、両性未分化の古き人は、数を激減させる。
プロトタイプで生まれるのは、古き人の血を引く樹海の民のなかでもまれ。
『少年』は、樹海の民の神官長の愛人の、三人目の子。
待望の両性未分化(プロトタイプ)であった。
一番目の子はプロトタイプに生まれつき、女性となって、樹海の外で生きているという。
土の精霊が、誕生を祝い、森中のゆりの花を一斉に咲かせたため、リリアスと名付けられた。
リリアスの体には、男の子の未熟な器官と、女の子の器官が両方とも矛盾なく存在している。
この物語は樹海出身の『少年』リリアスが、愛を知り、成長する物語である。
◇◇◇◇
侵入者に気がついたのは古き人の血を引くその『少年』リリアスだった。
リリアスは森のざわめきから、侵入者の存在を知った。
黄金にかがやく美しい毛皮の、友でもある豹、シャーが侵入者をうかがっている。
例によって入り口付近のまじないに囚われている。
リリアスは木陰から観察する。
侵入者の髪は、豪奢に煌めく金茶の髪だった。大変美しいと思う。
足取りはつまらなさそうだが、体をぴったりと覆う衣装の外からも、強さとしなやかな肉体を感じさせる。
彼からは血と、つんとした金属の匂いと、樹海の外へ拡がる刺激的なスパイスのような危険な世界の匂いがした。
僕の運命。
リリアスは思った。
彼は自分をこの辛気くさい牢獄から連れ出してくれる、運命に違いない。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
侵入者がとらわれてる閉じられた呪術の輪の中へ、入り込む。
リリアスは、方向感覚を麻痺させる呪術を少し読みとく。
その呪術は強力で、完璧にはかわせないが、ほどほどでもなんとかなるものだった。
金茶の侵入者の行く先を先回りして、泉にでる。
森の中の清浄なオアシスで、心身を清める泉として、リリアスは度々利用していた。
後ろを振り返り、金茶の若ものが辿り着くのにまだ数刻あるのを確認する。
パシャンと水をはねあげて、泉の魚の鱗が煌めいた。
ただ待つのが手持ちぶさただったので、リリアスは草木に染まった衣服を脱ぎ捨てる。
泉に飛び込んだ!
森に浄化された泉の水はキンとして冷たく、気持ちが良かった。
1
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる