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番外編1、プロローグ1、 神託~呪紋字編
1、殷国
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亳(はく)城の奥津城にある神殿には、この世の始まりに雷とともにもたらされたという炎が守られている。
神殿の安寧は、戟を持つ男たちに破られた。
華国が雇ったはずの傭兵たちである。
王城から怒号と悲鳴を聞いた時、神官たちは我先にと逃げ去った。
創世の炎を守るのは、白濁した目の老いた神官長と、幼少から彼の目であり杖である奴隷の碧のみ。
石柱や壁面、床にはこの世の森羅万象を写し取った呪紋字が彫り込まれている。
中央に据えた三本足の青銅の釜から無数に踊る焔をうけ、万物を足下に泰然と歩く傭兵の双眸は、明けの明星のように明滅している。
その男が脇に挟む戟の、ぬらりと赤く染まる二股の刃先は、ゆうらりゆれる。
「世の始めの炎とやらは、ただのかがり火のようだな。俺が、世界を治めるのにふさわしい男なのか占ってみろ」
「……神の御心があなたさまにございますれば、そのように御徴がございましょう」
既に碧の手で炎に投じていた亀甲は、図ったかのようにぴしりと弾けた。
「……神の御心は顕現いたしました。横ならば諾、縦ならば否」
促される前に、碧は輝く青銅の火箸で亀裂の入った亀甲を引き上げている。
そうするだけで碧の頭から顔から汗が吹き出し目に染みた。神官の目が悪くなるのも熱にあぶられるためだ。
神意は亀甲に明瞭に表れている。
「神官さま、御徴は……」
碧の喉に刃先が留まる。
「亀か。贄は高貴なものほどふさわしいのではなかったか?これで占うがいい。世界の中心にたつ王の真価を問うのにこれ以上のものはあるまい」
男の合図で、隻眼の部下は何かを包んでいる赤い絹の肌着をぞんざいに炎へ投じた。
それは燃え縮みあがり、生首が剥き出しになった。
恐怖と苦悶に顔をゆがませ舌をだらりと垂らす、その醜悪な面は神官長と瓜二つ。
音を立て頬肉がとろけ落ちる。
碧は、人肉の焼けるにおいに悲鳴を必死に抑えた。
「桀王の頭ひとつで足りぬというのなら、百なり二百なり刈ってこさせるが」
老人は双子の兄の死に見えぬ目を見開き絶句し卒倒する。
碧は、己も正気を失いたかったが、男の目が許さない。
明の明星だと思った男の目は、真正面からみれば青灰色である。
男には西方の血が流れているのだ。
幼少時にかどわかされたのか、碧のように奴隷女に産ませたものか。
青い目は奴隷を連想させる。
世界の中心で永遠に君臨すると思われた華国が、奴隷あがりの傭兵の暴挙により一夜にして滅亡することなど誰が想像しただろう。
神殿の安寧は、戟を持つ男たちに破られた。
華国が雇ったはずの傭兵たちである。
王城から怒号と悲鳴を聞いた時、神官たちは我先にと逃げ去った。
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石柱や壁面、床にはこの世の森羅万象を写し取った呪紋字が彫り込まれている。
中央に据えた三本足の青銅の釜から無数に踊る焔をうけ、万物を足下に泰然と歩く傭兵の双眸は、明けの明星のように明滅している。
その男が脇に挟む戟の、ぬらりと赤く染まる二股の刃先は、ゆうらりゆれる。
「世の始めの炎とやらは、ただのかがり火のようだな。俺が、世界を治めるのにふさわしい男なのか占ってみろ」
「……神の御心があなたさまにございますれば、そのように御徴がございましょう」
既に碧の手で炎に投じていた亀甲は、図ったかのようにぴしりと弾けた。
「……神の御心は顕現いたしました。横ならば諾、縦ならば否」
促される前に、碧は輝く青銅の火箸で亀裂の入った亀甲を引き上げている。
そうするだけで碧の頭から顔から汗が吹き出し目に染みた。神官の目が悪くなるのも熱にあぶられるためだ。
神意は亀甲に明瞭に表れている。
「神官さま、御徴は……」
碧の喉に刃先が留まる。
「亀か。贄は高貴なものほどふさわしいのではなかったか?これで占うがいい。世界の中心にたつ王の真価を問うのにこれ以上のものはあるまい」
男の合図で、隻眼の部下は何かを包んでいる赤い絹の肌着をぞんざいに炎へ投じた。
それは燃え縮みあがり、生首が剥き出しになった。
恐怖と苦悶に顔をゆがませ舌をだらりと垂らす、その醜悪な面は神官長と瓜二つ。
音を立て頬肉がとろけ落ちる。
碧は、人肉の焼けるにおいに悲鳴を必死に抑えた。
「桀王の頭ひとつで足りぬというのなら、百なり二百なり刈ってこさせるが」
老人は双子の兄の死に見えぬ目を見開き絶句し卒倒する。
碧は、己も正気を失いたかったが、男の目が許さない。
明の明星だと思った男の目は、真正面からみれば青灰色である。
男には西方の血が流れているのだ。
幼少時にかどわかされたのか、碧のように奴隷女に産ませたものか。
青い目は奴隷を連想させる。
世界の中心で永遠に君臨すると思われた華国が、奴隷あがりの傭兵の暴挙により一夜にして滅亡することなど誰が想像しただろう。
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