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第一部 神殿編 第1話 神殿の子供たち
4、ひとしずく (第1話 完)
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琥珀色の瞳の少女は僕をみる。
男の子も、赤毛の少女もいなくなった。
あんたがマレヒトのふりをしつづけたいのなら、ポケットの石を握りしめるのではなくて、あたしなら本当に内側からマレヒトにしてあげられる。
どうしたら、内側からマレヒトになることができるの?
好奇心にかられて僕は聞く。
そんなことできるはずがないと思うのだが、藁にもすがりたい気持ちとはこういう気持ちのことをいうのか。
魔力の判定石は、魔力に反応しているから光る。
なら、体にあらかじめ魔力を取り入れておけばいいのよ。
僕は絶望的な気持ちになった。
この石を飲み込むには大きすぎる。
砕くには固すぎる。
砕いても危険すぎる。
鋭利な鏃のようにとがって、体内を傷つけ、内臓はずたずたになるかもしれない。
少女は笑った。
石を砕く必要なんてないわ。
そんなの、簡単よ。
どうするか今から教えてあげる。
少女は細くて白い腕を差し出した。
どこか誇らしげに。
少女は、装飾美しい小指の爪を己の腕に押し当てる。
小指の爪が切り裂いたやわな肌から、ぷくりと鮮やかな赤が盛り上がった。
毎日ひとつずつ、この赤の雫を体に取り込むのよ。
そうしたら、魔力を帯びたあたしの血があんたの体に取り入れられる。
消化し吸収し同化し、いずれあなた自身の本物になるわ。
僕はおじけづいた。
だけど、眠ったら目覚めることがないかもしれないという恐怖から逃れたかった。
それは本当なの?
たぶん、きっと、おそらく。
……そうだといいと思う。
彼女も確信がない、ただの思いつきなのだ。
試してみる価値はあると思った。
少女の腕に吸い付いた。
舌でなめとる。
唾液が口内にわきだし、ねっとりと包み込んだ。
あっと、少女は僕の舌が肌をなぞる感覚に驚き、喉の奥で息を飲むがかまわない。
飲み下した。
震えだした少女を解放する。
彼女の小さな分身が舌に、喉に、胃に落ちていく。
体が熱くてたまらなくなった。
全身を熱が駆け巡る。
そうして、ひとときの後、収まった。
少女はじっと僕の変化を見つめている。
まるで、僕の体からツタがはい出して絡みつき伸びてくるのを待つかのように。
どう?
変化した感じがある?
心配そうに琥珀色の目が僕を覗きこんだ。
確かに彼女の血には魔力があると思った。
初めて、魔力がどういうものか、わかった気がした。
細胞すべてが好き勝手な方向を向いて、喜び唄う感じだった。
何か火をつけてみて?
こんな風に。
こともなげに、少女は指先に焔をともして見せる。
もちろん、僕にできるはずがない。
毎晩、琥珀色の目の少女は僕に自分を一滴差し出した。
どうして彼女は僕に魔力を与えてくれたのだろう。
ひとりがいやだったのかもしれない。
彼女は自分自身を僕に与えて満足する。
僕にとっても彼女は魔力の源泉。
アンバーは、僕にとって特別になった。
(第1話 完)
男の子も、赤毛の少女もいなくなった。
あんたがマレヒトのふりをしつづけたいのなら、ポケットの石を握りしめるのではなくて、あたしなら本当に内側からマレヒトにしてあげられる。
どうしたら、内側からマレヒトになることができるの?
好奇心にかられて僕は聞く。
そんなことできるはずがないと思うのだが、藁にもすがりたい気持ちとはこういう気持ちのことをいうのか。
魔力の判定石は、魔力に反応しているから光る。
なら、体にあらかじめ魔力を取り入れておけばいいのよ。
僕は絶望的な気持ちになった。
この石を飲み込むには大きすぎる。
砕くには固すぎる。
砕いても危険すぎる。
鋭利な鏃のようにとがって、体内を傷つけ、内臓はずたずたになるかもしれない。
少女は笑った。
石を砕く必要なんてないわ。
そんなの、簡単よ。
どうするか今から教えてあげる。
少女は細くて白い腕を差し出した。
どこか誇らしげに。
少女は、装飾美しい小指の爪を己の腕に押し当てる。
小指の爪が切り裂いたやわな肌から、ぷくりと鮮やかな赤が盛り上がった。
毎日ひとつずつ、この赤の雫を体に取り込むのよ。
そうしたら、魔力を帯びたあたしの血があんたの体に取り入れられる。
消化し吸収し同化し、いずれあなた自身の本物になるわ。
僕はおじけづいた。
だけど、眠ったら目覚めることがないかもしれないという恐怖から逃れたかった。
それは本当なの?
たぶん、きっと、おそらく。
……そうだといいと思う。
彼女も確信がない、ただの思いつきなのだ。
試してみる価値はあると思った。
少女の腕に吸い付いた。
舌でなめとる。
唾液が口内にわきだし、ねっとりと包み込んだ。
あっと、少女は僕の舌が肌をなぞる感覚に驚き、喉の奥で息を飲むがかまわない。
飲み下した。
震えだした少女を解放する。
彼女の小さな分身が舌に、喉に、胃に落ちていく。
体が熱くてたまらなくなった。
全身を熱が駆け巡る。
そうして、ひとときの後、収まった。
少女はじっと僕の変化を見つめている。
まるで、僕の体からツタがはい出して絡みつき伸びてくるのを待つかのように。
どう?
変化した感じがある?
心配そうに琥珀色の目が僕を覗きこんだ。
確かに彼女の血には魔力があると思った。
初めて、魔力がどういうものか、わかった気がした。
細胞すべてが好き勝手な方向を向いて、喜び唄う感じだった。
何か火をつけてみて?
こんな風に。
こともなげに、少女は指先に焔をともして見せる。
もちろん、僕にできるはずがない。
毎晩、琥珀色の目の少女は僕に自分を一滴差し出した。
どうして彼女は僕に魔力を与えてくれたのだろう。
ひとりがいやだったのかもしれない。
彼女は自分自身を僕に与えて満足する。
僕にとっても彼女は魔力の源泉。
アンバーは、僕にとって特別になった。
(第1話 完)
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