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第6話 顔のない女
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円盤投げで投げられた円盤のように、ホッケーの玉がゴールを狙うように、開いた小箱に向かって飛んでくる。
わたしは強烈な衝撃を受けてよろめいた。
腕をつかみ、背中を支えてくれたのは神坂。
みると、小箱の真ん中には背面の神獣たちを上にして、青銅製の鏡がぴたりと収まっていた。
鏡が嫌がっているのか、湯が沸き立っているような、ぐつぐつした振動を手のひらに感じる。
飛び込んできたときと同様に、ふたたび飛び出していきそうだ。
背後から着物のたもとがのびた。
長い指先が寄木細工の蓋をかつんと閉め、静かになった。
手のひらに収まる小箱は、今となっては鏡を収めた乙女のコンパクトケースにしか思えない。
男は箱ごとわたしの手を握り込んだ。
腕をつかんでいた手は、そのまま上へ、腕をなであげ、肩をかすめ、指の腹で頬に触れた。
男の触れたところから、恐怖とも歓喜とも判別できないしびれが走る。
それは快感だった。
顔があげられる。
男の目が私をのぞき込む。
神坂晴海でありながら、彼ではない。
わたしは彼をずっと昔から知っている。
おそらく、わたしがわたしでなかったときから、彼のことを知っているのだ。
男は神坂晴海ではない記憶を引き継いでる。むしろ、神坂晴海が仮の姿なのか。
「わかりやすい頬の痣(しるし)は取り去ったのだが、まだ、呪いは解けてはおらぬ。愛され度合いが足りないのではないか? 今生も、己の醜さを己の一部だと認めなければ、いつまでたっても刻みこまれた呪いは解けぬぞ」
……ご主人さまは面白いことおっしゃられる。
まるで、呪いが解けることを期待しているかのような。
煩悶するさまが面白いのでございましょうに。
どこからか白い炎のように燃え上がる被毛をもった白犬が現れた。
琥珀の目が場をぐるりと見まわす。
男とわたしの間をくるりくるりとまわり、わたしごと男にじゃれついた。
……ご主人さま、場が崩れる前に、あの女、喰ってもいいか。
がらんどうの内側に溜まった神気の澱が、実にうまそうだ。
白犬は舌なめずりをした。
しゃがみ込みこみ、茫然自失し、あらぬところを見つめて両手で顔を隠し、なにやらぶつぶつとつぶやき続ける倫子は、忍びよる白犬に気が付かない。
「勝手にしろ」
白犬は大きく口をひらき、ぱくりとひとくちで頭から倫子を丸のみする。
倫子の手が助けをもとめて泳いだのも一瞬のこと。
最期にみた顔は、のっぺらぼうだった。
わたしは強烈な衝撃を受けてよろめいた。
腕をつかみ、背中を支えてくれたのは神坂。
みると、小箱の真ん中には背面の神獣たちを上にして、青銅製の鏡がぴたりと収まっていた。
鏡が嫌がっているのか、湯が沸き立っているような、ぐつぐつした振動を手のひらに感じる。
飛び込んできたときと同様に、ふたたび飛び出していきそうだ。
背後から着物のたもとがのびた。
長い指先が寄木細工の蓋をかつんと閉め、静かになった。
手のひらに収まる小箱は、今となっては鏡を収めた乙女のコンパクトケースにしか思えない。
男は箱ごとわたしの手を握り込んだ。
腕をつかんでいた手は、そのまま上へ、腕をなであげ、肩をかすめ、指の腹で頬に触れた。
男の触れたところから、恐怖とも歓喜とも判別できないしびれが走る。
それは快感だった。
顔があげられる。
男の目が私をのぞき込む。
神坂晴海でありながら、彼ではない。
わたしは彼をずっと昔から知っている。
おそらく、わたしがわたしでなかったときから、彼のことを知っているのだ。
男は神坂晴海ではない記憶を引き継いでる。むしろ、神坂晴海が仮の姿なのか。
「わかりやすい頬の痣(しるし)は取り去ったのだが、まだ、呪いは解けてはおらぬ。愛され度合いが足りないのではないか? 今生も、己の醜さを己の一部だと認めなければ、いつまでたっても刻みこまれた呪いは解けぬぞ」
……ご主人さまは面白いことおっしゃられる。
まるで、呪いが解けることを期待しているかのような。
煩悶するさまが面白いのでございましょうに。
どこからか白い炎のように燃え上がる被毛をもった白犬が現れた。
琥珀の目が場をぐるりと見まわす。
男とわたしの間をくるりくるりとまわり、わたしごと男にじゃれついた。
……ご主人さま、場が崩れる前に、あの女、喰ってもいいか。
がらんどうの内側に溜まった神気の澱が、実にうまそうだ。
白犬は舌なめずりをした。
しゃがみ込みこみ、茫然自失し、あらぬところを見つめて両手で顔を隠し、なにやらぶつぶつとつぶやき続ける倫子は、忍びよる白犬に気が付かない。
「勝手にしろ」
白犬は大きく口をひらき、ぱくりとひとくちで頭から倫子を丸のみする。
倫子の手が助けをもとめて泳いだのも一瞬のこと。
最期にみた顔は、のっぺらぼうだった。
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