神さまの寵愛も楽じゃない

第2夜 探しもの

8-3、

　コメント欄の反応は速かった。

　隼人、ずうずうしいな、早く代われよ。
　絶対隼人がいい。こんなに頑張っているんだから、もういいじゃない隼人に決めて！
　俺らにマジで投票権はないんですか？
　今から見に来たんですけれど、僕のカレンちゃんはもうでましたか。
　隼人、がんばれ！藤原優子に負けるな！
　隼人は芸能界あきらめた方がいいんじゃないの？

　藤原優子は立ち上がり、舞台の袖から北野隼人の側に近づいた。

「そういうわけではないですよ。あなたのことも、誰のこともきちんと見ています。理事長として、学院のイメージを作りだすのにぴったりな学生を審査員との協議で選びます。たとえもし選ばれなかったとしても、ただ、今回のイメージに合っていなかったというだけです。隼人君を、選ばれなかった方たちを否定しているわけでは全くありませんから」

「あれから何回もオーディションを受けたのに、落とされ続けてるのは、理事長の差し金だったんじゃないですか？」
　笑顔を作る藤原優子の顔がひくついた。

「そんなこといたしません。応援し、助言し、後押しすることはあっても、決して努力する人の足を引っ張ることはいたしません」
　気持ちのこもった明瞭な否定。

　野外の会場に集まった者たちは舞台のやりとりに息を呑んでいた。
　直接この学院の女王のような藤原優子に面と向かって意見するものなどいなかったからだ。しかもネットで公開されている。

　ダダダと乱暴に連打されるキーボードの音。
　見なくても、バイトたちの必死な形相が想像できた。
　不適切な投稿があとからあとから湧いているのだ。

　すごい、隼人、独裁女王に立ち向かってる！
　これは炎上させて注目させたい藤原優子の演出じゃないの？

　隼人を応援するコメントの中にまぎれたとりこぼした投稿がスクリーンに映し出される。ＳＮＳの30000人の閲覧者にも。
　それが、コメントの流れを一気に変えた。

　藤原優子って、自分が目立ちたいからって、やることが浅ましいよね。
　ゲルンの仕事だって、隼人をむりやりねじりこんだんじゃない？
　実力が伴わないから隼人干されたんじゃないの？
　清心だって、ちやほやされたいためのいやらしいハーレムなんじゃないの？


　会場がしんと静まり、delet音だけがやけに反響した。