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第3夜、憑き物落とし
19-2、
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「……魂に刻まれた印は残りわずか。印がひとつふたつと消えるにつれて、おまえから香気が立ち上り、残った印が返って目印になっているようだ。だから、あえて消し去ったのに。まさか、かつてはわたしの忠実な白犬までお前を喰らおうとするのだからな。さて、呆然自失している間抜けな犬をどうしてくれようか」
「消し去った印って、頬のアザを?あなたがいつどうやって消したというの?わたしは以前あなたに会っていたの?神坂晴海に?それとも神がかりのあなたに?」
再び、男の気を引いてしまった。
男の唇が近づいてくる。
わたしの身体は硬直し、拒むことができない。
ぎゅっと目を閉じるだけで精一杯だった。
「そのことは思い出す必要はない。今生は、どうやってわたしを楽しませてくれるのかだけを気にしておいておくれ……」
彼は、藤原優子の忘れてしまっていた親友への思慕の情を暴いたように、早坂紫苑とクロの思い出のように、わたしを丸裸にして翻弄されるさまを見て愉悦に浸りたいのか。
遊歩道の外灯が再び明滅をはじめた。
いつから、そうだったのか、ジジジと耳障りな音がする。
ぽつりと冷たい水滴が頬に落ちた。
必死でわたしの名前を呼ぶ声が近づいてくる。
「……この身体ではこれ以上は無理なようだ」
男の息がわたしの唇に触れる。
わたしが覚えているのはそこまでだった。
※
同じ考古学コースの大鳥大吾とその友人たちが、一人で出たわたしを心配して後を追ってきてくれていて、わたしをかばうように神坂晴海がわたしに覆いかぶさり、森の中へ白い犬が走りさるのを彼らは目撃したそうである。
あらためて、湧き水がでるところに笹をたて、今度は人に対してではなく清心の敷地の森に神坂晴海は厳粛に祈祷を行った。
その日以降、ぐるぐるぐるという犬の唸り声をきいたとか、襲われたとか、そういう問題は起こらなくなり、清心のなんでも屋は不可思議なことを解決できる祈祷師だという評判が立ち始め、神坂さんでなければ解決できないと思うんです、っと前置きしての問い合わせが増え忙しくなる。
早坂紫苑は退学したことになっていた。
彼のことを話題にしてみた。
だけど、なぜかだれも紫苑のことを覚えていなかった。
花蓮に聞いても、「え、後輩で、元気なジェンダーレスな男子?そんな子いたっけ?ミーナが誰かと勘違いしているんじゃなければ、夢でもみたんじゃないの?」と、首をかしげるばかりだったのである。
第3夜 憑きもの落とし 完
「消し去った印って、頬のアザを?あなたがいつどうやって消したというの?わたしは以前あなたに会っていたの?神坂晴海に?それとも神がかりのあなたに?」
再び、男の気を引いてしまった。
男の唇が近づいてくる。
わたしの身体は硬直し、拒むことができない。
ぎゅっと目を閉じるだけで精一杯だった。
「そのことは思い出す必要はない。今生は、どうやってわたしを楽しませてくれるのかだけを気にしておいておくれ……」
彼は、藤原優子の忘れてしまっていた親友への思慕の情を暴いたように、早坂紫苑とクロの思い出のように、わたしを丸裸にして翻弄されるさまを見て愉悦に浸りたいのか。
遊歩道の外灯が再び明滅をはじめた。
いつから、そうだったのか、ジジジと耳障りな音がする。
ぽつりと冷たい水滴が頬に落ちた。
必死でわたしの名前を呼ぶ声が近づいてくる。
「……この身体ではこれ以上は無理なようだ」
男の息がわたしの唇に触れる。
わたしが覚えているのはそこまでだった。
※
同じ考古学コースの大鳥大吾とその友人たちが、一人で出たわたしを心配して後を追ってきてくれていて、わたしをかばうように神坂晴海がわたしに覆いかぶさり、森の中へ白い犬が走りさるのを彼らは目撃したそうである。
あらためて、湧き水がでるところに笹をたて、今度は人に対してではなく清心の敷地の森に神坂晴海は厳粛に祈祷を行った。
その日以降、ぐるぐるぐるという犬の唸り声をきいたとか、襲われたとか、そういう問題は起こらなくなり、清心のなんでも屋は不可思議なことを解決できる祈祷師だという評判が立ち始め、神坂さんでなければ解決できないと思うんです、っと前置きしての問い合わせが増え忙しくなる。
早坂紫苑は退学したことになっていた。
彼のことを話題にしてみた。
だけど、なぜかだれも紫苑のことを覚えていなかった。
花蓮に聞いても、「え、後輩で、元気なジェンダーレスな男子?そんな子いたっけ?ミーナが誰かと勘違いしているんじゃなければ、夢でもみたんじゃないの?」と、首をかしげるばかりだったのである。
第3夜 憑きもの落とし 完
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