神さまの寵愛も楽じゃない

藤雪花(ふじゆきはな)

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第4夜 夢魔

25、サイラス

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「悲鳴がきこえてきたように思えたのですが大丈夫デスか?」

 思わず瞬いてしまいたくなるド金髪。
 わたしと神坂を往復する鏡のようなグレーの瞳に見覚えがあった。
 神坂はわたしからさっと距離を置くと立ちあがり、着物の襟もとをただした。わざとらしすぎる。動揺しているのが伝わってくる。神坂が何を心配したのかわかって、わたしは悪夢のショックから急速に立ち直っていく。
 ここは密室なのだ。
 女の悲鳴となると、暴行を疑われても不思議ではない。
 実際には、わたしと神坂の間になんにもないのだから、乱れてもいない服の乱れをただすふりなど、怪しすぎて疑われてしまうからやめてほしい。
 
「大丈夫です。夢の話をしていて、のめり込んでしまって。それでまた怖くなって声がでただけですから」
 疑いをかき消すように声を出した。
「悪夢、デスか?ホントですか?」

 わたしに味方になるよと励ますような眼をむけてくる。
 金髪の男が向ける疑いのまなざしに神坂はごほんと咳払いした。

「えっと、ここに用があるとしたら君は、藤原理事長から依頼があった留学生の」
「サイラス・ウイルソンです。アナタが、誰にも解決できない問題事を解決するという神坂先生デスか」
「そうデス。今日はもう予約があった分はこなせたので、その荷物をもって行こうか」

 サイラスにつられて神坂の語尾がおかしくなってしまっている。
 サイラスは神坂をよりも背が高く肩幅が広い上に巨大なスーツケースを持ってきていて、事務所は急に窮屈になった。
 いそいそと帰る準備をし始めた神坂をみて、わたしはこのままおいて行かれてしまいそうだった。

「神坂さん、どちらに行かれるのですか」
「ああ、留学生のサイラス君を留学中受け入れて欲しいと理事長に頼まれていたんだ。だから櫻木くんは今日はもうこれで仕事は終わってもらっていいんだけど」

 神坂は緊張が感じられる顔をわたしに向けた。

「もしあれだったらサイラス君と一緒に僕の家に来る?正確には僕の家じゃなくて居候をしているだけなんだけど、空き部屋がいくつかあって、その一つをサイラス君に提供することになったんだ。個人的な夢を話す代わりに僕の秘密を教えてあげると約束したから。僕の家に誰にも連れてきたことがないし、最初の客が男というのもあれだし、急な話だったから部屋の片付けもまだだから手伝ってくれるのならば、うれしいし」
「もちろん行きます!お部屋の片付け手伝います!」

 知り合って三ヶ月ルールがあると華蓮にきつくいわれたところだった。
 家に誘われたのがド金髪のついでではあったけれど、神坂の私生活を見ることができて、さらに距離をぐうんと縮めるチャンスとなるのではないか。
 
「なら一緒に行こうか」
 部屋を片付け帰宅の準備をする。 
 机の上には古びたA5サイズのノートが置き忘れられていた。
 わたしの悪夢や山田先輩の夢を書き留めていたノートだ。
 山田先輩の悪夢はやぶりとられて粉々にされて燃やされたのだけれど。
 神坂は、そのノートを黒柿の書斎机の鍵のついた引き出しにしまう。
 その厳重さが普段あまりものをきちんと片づけない神坂にしては意外だった。
 あのノートには、わたしの夢の他にも誰にも見られてはならない個人情報などが記されているのかもしれない。
 
「君は、お客さんじゃないんデスね。学生で、上司と部下ですか?本当に襲われかけたんじゃないんデスね?心配しました。何か、心配事があるようでしたら僕も相談にのれるかもしれません。何でも話してくださいね。日本人は悩み事を一人で抱え込み過ぎじゃないかと思うんデス。もちろん悩み事だけじゃなくて夢とか希望とか?そういったことも、おおっぴらに口にしないようですし。慎み深いというか。でも、僕がきけば、みんな話してくれるデスよ?本当は自分の夢を聞いて欲しくてたまらないに違いないのデス……」

 荷物があるので移動はタクシーをつかう。
 サイラスは初対面のわたしにも神坂にも人懐っこい。
 おしゃべりが止まらない。
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