神さまの寵愛も楽じゃない

第4夜 夢魔

30-2、

　サイラスも美奈の恐怖に引きずられる。

　向こう側には恐ろしいモノがいる。
　普段は闇の中に潜んでいるモノが。
　ソレは、哀れな獲物が足を踏み入れるのをいまかいまかと待ちかまえていた。
　
　これでは駄目だ。
　鎖で封印されたままでその正体もわからず悪夢を飲み込んでも、消化不良を起こしてしまう。

　サイラスの一部は美奈の恐怖に巻き込まれて恐慌をきたしてしまっている。
　いったん出直さなければならないが、ぴたりと美奈に合わさっているため、己を簡単には引き離せない。
　もがきあがいた分だけ、美奈が夢から覚める時間が長くなっていく。
　そのため、悪夢は続いていく。

　台所の扉が内側からゆらされた。鎖がこすれ、神経を逆なでする耳障りな金属音をガチャリガチャリとたてた。
　ソレは内側から飛びだそうとしていた。　
　次ぎに待ち受けるのは自分と美奈の死なのではないか。
　夢の中で、得体のしれないものに殺されたりするのは、後味が悪すぎるではないか。
　
　手に負えない。
　いますぐこの悪夢から目覚めなければならなかった。

　　お母さんはわたしの代わりに犠牲になったの！
　　全て、わたしのせいなのよ！

　美奈が悲痛な叫びをあげた。　
　そのとき、外から強い力がサイラスと美奈の同調を断ち切った。