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第5夜 鳳の羽
35、「成る」①
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ミイナは村の子どもたちが例外なくそうであったように「成る」ことを心待ちにしていた。
「成る」ことができた者は、父母がどのような身分であれ、大鳥の族長の館に召し抱えられ、飢えることはなく、真綿を詰めたあたたかな布団で寝て、贅沢に沸かした湯に毎日身体を沈めることができるという。
「成る」のはもしかして明日かもしれないし、こうして寝ているこれからはじまるかもしれないのだ。
「……「成る」日が来たら正式の大鳥の部族の者になれるんだよね」
「そうだよ。こんな辺鄙な外れではなくて、城内に入れるよ。生活は一変する」
「つぎあてひとつないまっさらな着物を着て、赤い紅を挿し、さらに大鳥の族長の目にとまれば妻となり贅沢三昧なんだって、すごいよね」
「はあ?族長っていっても40過ぎてるのに、そんなヤツの十番目の妻になりたいのかよ、ミイナは」
唇を突き出して憤慨するのはダイゴ。
族長の五番目の息子だが、この子供部屋には「成る」まえの子供全員が身分も関係なく集められている。
ダイゴはわたしの隣に場所を陣取り、藁を束ねた敷き布団に、わたしと同じく明日着る着物をかぶっている。この部屋の中の自分だけといえる空間はこの着物を広げたぐらいしかない。六歳から十五歳までの子どもたち20人ほどがぎゅうぎゅうに詰められて眠っていた。
消灯の時間はとっくに過ぎているが、満月の夜は明かりが部屋の中まで差し込んできて睡魔は訪れそうにない。
「……男は族長のおそばで仕えることができるんだぜ?泥や糞にまみれて畑を耕したり、木や岩場に登ったりすることもないんだ」
「結局、族長に仕えるんじゃあ、男も女もかわらないんじゃあないの?」
「変わらないことはない。俺は強くなって側近にまで上り詰める可能性があるけれど、ミイナが成っても、不細工は変わらないだろうから誰からも妻にと望まれることはないかもしれないよ?」
わたしとダイゴの会話は部屋の子どもたちにも聞こえている。
くすくすとあざ笑う声が漏れ聞こえた。
ミイナをもらうやつはいねえよ。
臭いし、不細工だし。
一緒にいたら穢れが感染するよ。
意地悪な囁き声は、同い年のヒロかアヤハか。他の子供たちかもしれない。
「不細工じゃねえし匂いもしねえ!穢れでも病気でもねえ!ミイナはちょと毛色が違うだけだ。誰ももらってくれるヤツがいなかったら、俺がもらってやるから!」
わたしへの悪口なのに、怒ったのはダイゴ。
布団をはねのけて抗議する。
「なんだ?族長の息子さまは目がわるいんじゃないの?」
同じく布団をはねたのはヒロで、月明かりがにらみ合う頭を短く刈りあげた黒髪の、二人の子供を照らし出す。
黒髪黒目の彼らと違って、わたしの髪は晩秋の落ち葉が積もった腐葉土色。肌は弱くて日差しに負けて、時折真っ赤にただれて赤鬼のようになる。
わたし自身があきらめている容姿を不細工じゃないと言ってくれるのはダイゴだけ。
友達だからわたしのことをかばってくれる。
そんな友人はアヤハにもヒロにもいないんじゃないの。
「わたしだって、その時がくれば闇夜に艶めく黒か生糸よりも白い、大鳥一族一番の美人になるのだから!そうなってからわたしに結婚を申し込んでも遅いんだから!だから、ダイゴ、もういいよ」
それがわたしの口癖だった。
子どもたちは仕事が割り振られる。
ここで生き残るのは過酷だった。
「成る」ことができた者は、父母がどのような身分であれ、大鳥の族長の館に召し抱えられ、飢えることはなく、真綿を詰めたあたたかな布団で寝て、贅沢に沸かした湯に毎日身体を沈めることができるという。
「成る」のはもしかして明日かもしれないし、こうして寝ているこれからはじまるかもしれないのだ。
「……「成る」日が来たら正式の大鳥の部族の者になれるんだよね」
「そうだよ。こんな辺鄙な外れではなくて、城内に入れるよ。生活は一変する」
「つぎあてひとつないまっさらな着物を着て、赤い紅を挿し、さらに大鳥の族長の目にとまれば妻となり贅沢三昧なんだって、すごいよね」
「はあ?族長っていっても40過ぎてるのに、そんなヤツの十番目の妻になりたいのかよ、ミイナは」
唇を突き出して憤慨するのはダイゴ。
族長の五番目の息子だが、この子供部屋には「成る」まえの子供全員が身分も関係なく集められている。
ダイゴはわたしの隣に場所を陣取り、藁を束ねた敷き布団に、わたしと同じく明日着る着物をかぶっている。この部屋の中の自分だけといえる空間はこの着物を広げたぐらいしかない。六歳から十五歳までの子どもたち20人ほどがぎゅうぎゅうに詰められて眠っていた。
消灯の時間はとっくに過ぎているが、満月の夜は明かりが部屋の中まで差し込んできて睡魔は訪れそうにない。
「……男は族長のおそばで仕えることができるんだぜ?泥や糞にまみれて畑を耕したり、木や岩場に登ったりすることもないんだ」
「結局、族長に仕えるんじゃあ、男も女もかわらないんじゃあないの?」
「変わらないことはない。俺は強くなって側近にまで上り詰める可能性があるけれど、ミイナが成っても、不細工は変わらないだろうから誰からも妻にと望まれることはないかもしれないよ?」
わたしとダイゴの会話は部屋の子どもたちにも聞こえている。
くすくすとあざ笑う声が漏れ聞こえた。
ミイナをもらうやつはいねえよ。
臭いし、不細工だし。
一緒にいたら穢れが感染するよ。
意地悪な囁き声は、同い年のヒロかアヤハか。他の子供たちかもしれない。
「不細工じゃねえし匂いもしねえ!穢れでも病気でもねえ!ミイナはちょと毛色が違うだけだ。誰ももらってくれるヤツがいなかったら、俺がもらってやるから!」
わたしへの悪口なのに、怒ったのはダイゴ。
布団をはねのけて抗議する。
「なんだ?族長の息子さまは目がわるいんじゃないの?」
同じく布団をはねたのはヒロで、月明かりがにらみ合う頭を短く刈りあげた黒髪の、二人の子供を照らし出す。
黒髪黒目の彼らと違って、わたしの髪は晩秋の落ち葉が積もった腐葉土色。肌は弱くて日差しに負けて、時折真っ赤にただれて赤鬼のようになる。
わたし自身があきらめている容姿を不細工じゃないと言ってくれるのはダイゴだけ。
友達だからわたしのことをかばってくれる。
そんな友人はアヤハにもヒロにもいないんじゃないの。
「わたしだって、その時がくれば闇夜に艶めく黒か生糸よりも白い、大鳥一族一番の美人になるのだから!そうなってからわたしに結婚を申し込んでも遅いんだから!だから、ダイゴ、もういいよ」
それがわたしの口癖だった。
子どもたちは仕事が割り振られる。
ここで生き残るのは過酷だった。
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