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第5夜 鳳の羽
38-2、代替わり②
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長老たちからの大鳥の血の濃い子供を残せという圧力は強い。果たしてわたしとの子が長老を、ダイゴを満足させることができるのか、はなはだ疑わしく、わたしは子供を作ることに積極的になれなかった。
だから、ダイゴが複数妻を娶るのも、しょうがないのではと思うのだ。
アヤハとの式は、ひっそりと行われたわたしとの時と違って盛大に行われた。
次の、妻との式はどうなるのだろう。
波打つ髪は適当に三つ編みにしている。
我ながら、美しいとはいえない情けない髪だと思う。
わたしは縁側にでた。最上階のこの部屋で目覚めたのはもう数年も前のことである。
ひとり眼下の黒い森に点在する灯りに眼をむけた。
ずっと向こうの町があるというところは、人々の家々がこぼす灯りで白く淡く浮き上がってみえた。
見るたびに膨れていくように見えた。
夜は好きである。
わたしの淡い眼も髪も、アヤハのような黒に染めてくれる。
安全柵のない際にまで足を擦らせた。
石垣から塀を勢いよく噴き上げてくる冷気が、わたしの身をすくませ三つ編みを弾ませた。
「……危ないぞ。自殺でもするつもりなのかよ。どうしてあんな女にのさばらせているんだ」
ばさり、とも音がしなかった。
いつからそこにいたのだろう。
一瞬、あの男かと思ったが、そう思ったのも雷鳴のようにひらめいた記憶の、氷の欠片のようなものである。
あの男とは誰のことなのか、捕まえられそうで捕まえきれない、茫漠としたままに溶けさってしまった。
縁側の壁の縁の夜闇から、腕を組んだ男が分離していく。
ヒロである。
「どうやってここに」
「なんだよ、愚問だな。俺には羽があるだろ」
「羽を表すのは禁じられているわ」
「月のない夜には誰もわからないさ」
「いったいいままでどこにいたの」
「どこって、ここじゃないところだ。体よく追い出された」
「追い出されるってどこに?」
まじまじとヒロはわたしを見つめた。
「お前と若の、今は族長だな、の式の後、追捕に命じられ諸国を回ってきた」
「追捕?」
「大鳥の外へ逃亡した者たちの後を追うことだ」
ヒロはさらりというが、逃亡した者で大鳥に戻ってきたものはひとりもいない。
追捕とは、大鳥の秘密を知るものの口を永遠に封じる仕事だった。
だから、ダイゴが複数妻を娶るのも、しょうがないのではと思うのだ。
アヤハとの式は、ひっそりと行われたわたしとの時と違って盛大に行われた。
次の、妻との式はどうなるのだろう。
波打つ髪は適当に三つ編みにしている。
我ながら、美しいとはいえない情けない髪だと思う。
わたしは縁側にでた。最上階のこの部屋で目覚めたのはもう数年も前のことである。
ひとり眼下の黒い森に点在する灯りに眼をむけた。
ずっと向こうの町があるというところは、人々の家々がこぼす灯りで白く淡く浮き上がってみえた。
見るたびに膨れていくように見えた。
夜は好きである。
わたしの淡い眼も髪も、アヤハのような黒に染めてくれる。
安全柵のない際にまで足を擦らせた。
石垣から塀を勢いよく噴き上げてくる冷気が、わたしの身をすくませ三つ編みを弾ませた。
「……危ないぞ。自殺でもするつもりなのかよ。どうしてあんな女にのさばらせているんだ」
ばさり、とも音がしなかった。
いつからそこにいたのだろう。
一瞬、あの男かと思ったが、そう思ったのも雷鳴のようにひらめいた記憶の、氷の欠片のようなものである。
あの男とは誰のことなのか、捕まえられそうで捕まえきれない、茫漠としたままに溶けさってしまった。
縁側の壁の縁の夜闇から、腕を組んだ男が分離していく。
ヒロである。
「どうやってここに」
「なんだよ、愚問だな。俺には羽があるだろ」
「羽を表すのは禁じられているわ」
「月のない夜には誰もわからないさ」
「いったいいままでどこにいたの」
「どこって、ここじゃないところだ。体よく追い出された」
「追い出されるってどこに?」
まじまじとヒロはわたしを見つめた。
「お前と若の、今は族長だな、の式の後、追捕に命じられ諸国を回ってきた」
「追捕?」
「大鳥の外へ逃亡した者たちの後を追うことだ」
ヒロはさらりというが、逃亡した者で大鳥に戻ってきたものはひとりもいない。
追捕とは、大鳥の秘密を知るものの口を永遠に封じる仕事だった。
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