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第5夜 鳳の羽
45、封印(第五夜 完に追加)
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わたしは愛され愛するには、熱情といったものが欠けていたのだろう。
それでも、ふたりの後を追って逝くのだから、だからどうかそれでわたしの薄情さを許して欲しいと願うのだ。
わたしをこともなげに逝かせるあの男を、知っている。
滝壺に落ちた時に、助けてくれたあの男。
肉体に伴った苦しみから解き放たれた今になって、ミイナとして再会したときのことをありありと思い出す。羽を見せたのもあの男が初めてだった。
……再会?
それまで、わたしは一度も大鳥の森から出たことがなかったのに?
それでも、やはり再会だったと思う。
あの男も、あの小憎らしいしゃがれ声の白犬も、わたしのことを知っていた。
そして、わたしも。彼らの事をまざまざと知っているような気がした。
今になってわかってしまう。
わたしは、ヒロと逃走した時も、ヒロを失いダイゴに連れ戻された時も、ずっと、あの男を心のどこかで待ち望んでいたのではないかと。
わたしの心の自分の知らない闇夜の底深い領域に、彼への渇望、再びまみえることの切望、といった自分では制御出来きそうにない、欲望が刻まれているのだ。
二人の男の死への悔恨をべったりと心に貼り付けながら、本当はもう少し生きて、あの男と視線をからめ、言葉を交わしたいなど望みを口にすることなど絶対にできなかった。
あの男への気持ちは、最期に気が付いてしまえば、なんとあやうい熱望なんだろう。そして反動としての悲しさに、心が引き裂かれそうになる。
どうして、わたしを誰よりも先にみつけてくれなかったの?
苦しいだけの大鳥の一族からさらってくれなかったの?
わたしが醜い桃色の羽の半人半妖だとしても、あなたこそ、人ならざる美しさを備えた、人ならざる存在でしょう。
完全な人ならざる存在どうし、ある意味お似合いじゃないの?
面と向う機会があれば、そう言い放ちたかった。
だけど、あの男がわたしを助けることはない。
ただ、どこかでわたしを見つめ続けている。
今でも、わたしの魂の揺らぎを眺めているのを感じる。
心が締め付けられる。
また、置いていく。ざまあみろと思う気持ちと、しばし留まり深く彼と混ざりあいたいという願いがせめぎあう。
これは、もしかして、ーーなのではないか?
ーーだとしたら。
わたしは必死で否定する。
これは気が付いてはならない感情だった。
名前を付けるなどもっての他だった。
今生の、他とは異なる醜い姿で苦しむことになった元凶が、彼なのだと、わたしはどこかで知っている。
呪われ、醜く生まれついたわたしを面白おかしくあざけり笑い、暇つぶしに死の瞬間まで眺めては楽しんでいた相手を、今回のようなことを幾千回も繰り返すうちに、ーーするようになるなんて、あってはならないことだった。
この気持ちは封じなければならなかった。
水の雫が岩を砕くように、すでにもう、桜の呪いと共に魂に深く刻みこまれてしまっていたとしても。
次に生まれ変わったとしても、この気持ちをわたし自身に気が付かせたくなかった。
だから。
厳重に、堅牢に、幾十にも鎖を巻く。
決してほどけてしまわぬように。
開かない宝箱のようにして。
自分でも見つけられないほど魂の奥底に、沈めてしまうのだ……。
第五夜 完
それでも、ふたりの後を追って逝くのだから、だからどうかそれでわたしの薄情さを許して欲しいと願うのだ。
わたしをこともなげに逝かせるあの男を、知っている。
滝壺に落ちた時に、助けてくれたあの男。
肉体に伴った苦しみから解き放たれた今になって、ミイナとして再会したときのことをありありと思い出す。羽を見せたのもあの男が初めてだった。
……再会?
それまで、わたしは一度も大鳥の森から出たことがなかったのに?
それでも、やはり再会だったと思う。
あの男も、あの小憎らしいしゃがれ声の白犬も、わたしのことを知っていた。
そして、わたしも。彼らの事をまざまざと知っているような気がした。
今になってわかってしまう。
わたしは、ヒロと逃走した時も、ヒロを失いダイゴに連れ戻された時も、ずっと、あの男を心のどこかで待ち望んでいたのではないかと。
わたしの心の自分の知らない闇夜の底深い領域に、彼への渇望、再びまみえることの切望、といった自分では制御出来きそうにない、欲望が刻まれているのだ。
二人の男の死への悔恨をべったりと心に貼り付けながら、本当はもう少し生きて、あの男と視線をからめ、言葉を交わしたいなど望みを口にすることなど絶対にできなかった。
あの男への気持ちは、最期に気が付いてしまえば、なんとあやうい熱望なんだろう。そして反動としての悲しさに、心が引き裂かれそうになる。
どうして、わたしを誰よりも先にみつけてくれなかったの?
苦しいだけの大鳥の一族からさらってくれなかったの?
わたしが醜い桃色の羽の半人半妖だとしても、あなたこそ、人ならざる美しさを備えた、人ならざる存在でしょう。
完全な人ならざる存在どうし、ある意味お似合いじゃないの?
面と向う機会があれば、そう言い放ちたかった。
だけど、あの男がわたしを助けることはない。
ただ、どこかでわたしを見つめ続けている。
今でも、わたしの魂の揺らぎを眺めているのを感じる。
心が締め付けられる。
また、置いていく。ざまあみろと思う気持ちと、しばし留まり深く彼と混ざりあいたいという願いがせめぎあう。
これは、もしかして、ーーなのではないか?
ーーだとしたら。
わたしは必死で否定する。
これは気が付いてはならない感情だった。
名前を付けるなどもっての他だった。
今生の、他とは異なる醜い姿で苦しむことになった元凶が、彼なのだと、わたしはどこかで知っている。
呪われ、醜く生まれついたわたしを面白おかしくあざけり笑い、暇つぶしに死の瞬間まで眺めては楽しんでいた相手を、今回のようなことを幾千回も繰り返すうちに、ーーするようになるなんて、あってはならないことだった。
この気持ちは封じなければならなかった。
水の雫が岩を砕くように、すでにもう、桜の呪いと共に魂に深く刻みこまれてしまっていたとしても。
次に生まれ変わったとしても、この気持ちをわたし自身に気が付かせたくなかった。
だから。
厳重に、堅牢に、幾十にも鎖を巻く。
決してほどけてしまわぬように。
開かない宝箱のようにして。
自分でも見つけられないほど魂の奥底に、沈めてしまうのだ……。
第五夜 完
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