神さまの寵愛も楽じゃない

藤雪花(ふじゆきはな)

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第6話 顔のない女

46、大掃除

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 以前来たときよりも神坂の館は玄関周りも庭木も整理され、朝方の雨に緑が洗われ鮮やかである。

「不用心じゃない?」

 華連は大きく開いた玄関を指した。庭に面した縁側のガラス戸を腕まくりをしたサイラスががたがた揺らしながら慣れた手つきで開いている。他にも大鳥君とか、知っている姿があった。サイラスはわたしたちにすぐに気が付いて手を振った。玄関には女性用のサンダルや男もののスニーカーなどありとあらゆる靴であふれている。今日は、神坂晴海が住む石川恵子と南野武の邸宅の、大掃除の日だ。

「こんにちは! 神坂さん? 遅くなりました…… 」
「ちょっとミーナ、なに遠慮しているのよ」

 華連がひじで小突いた。
 他の人に聞かれるかもしれないのに、晴海さんとは恥ずかしくて言えない。恋人であるというには、わたしたちの関係は残念ながらまったく進展していない。
 時間通りというのは遅かったかもしれない。
 準備に手間取ったのは華連のせいだ。
 頬にピンクのハートを描いていたために時間がかかったのだ。より小悪魔なかわいさをアピールしようと、花蓮が始めたワンポイントペイントである。ただでさえかわいさで目立つ花蓮だが、たったワンポイントで普段花蓮のファン層である女子たち以外の層の視線を引き付けている。

「良くきてくれたわね! 山吹さんに櫻木さん」

 手ぬぐいをほっかぶりにし、着物でもないのに割烹着を着ている女が出迎えてくれた。ばっちりメイクを決めている藤原優子理事長だ。みそぎともいう地味なスタイルから再びド派手な外見に戻ってきている。それが自分らしくて心地いいそうだ。

「ここは神坂さんの家なのに、シュウトメのような顔して出しゃばらないでくださイ!」
 そう汗を拭きながら出迎えてくれたのは、さきほどガラス戸を全開していた金髪碧眼のサイラスである。彼は帰国をせず、日本でモデルの仕事が増えてきているようで、居候を続けている。

 収集癖があった南野武が所蔵していたものを、きちんと整理し、晴海が管理できないのであればしかるべきところへに寄贈するなり、自宅を一部開放して世界の南野と石川恵子の邸宅公開でもしなさいよ、藤原優子理事長がせっついた。晴海は公開するつもりはなさそうだが、整理することが供養になるとかならないとか理事長はいいだし、どうせやるなら人数がある程度あった方が早いでしょう、ということであれよあれよと日程が決まったのだ。

「遅いですヨ、皆もう来てお掃除が始まってマスから」

 玄関脇に、かつて待合にしていたという小さな応接室が荷物を置く部屋になっている。すでにリュックや鞄でいっぱいなところ、場所を確保し、手早く埃避けにハンカチをほっかむりにする。華連ははながらの割烹着である。ふわふわ髪をトップでくるりと団子にする。

「どうしてカレンまで割烹着なのよ」
「だって、袖までカバーしてくれるし、柔肌を蚊とかダニとかに食われたくないし。ジャージだといかにもって感じで格好悪いでしょ。いつ写真に取られてもいいようにしておかないとね」
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