運命の子【5】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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呪術の森

14、強制連行命令

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リリアスは仏頂面である。
ムハンマド親衛隊のアルフとレッドは困って顔を見合わせた。
二人は商団で一緒だった男性カップルだ。

アルフは蛮族の襲撃の朝、ムハンマドの元へ疾走し、その日中に100人の軍勢を集め、助けに戻った。
状況の収束をみて、それもすぐに解散し、100人の正規兵は通常活動に戻っている。
彼らの召集離散は、常に訓練されている。

「僕は行かないと言っている!」
リリアスはすっかり男モードになっていた。
この数日間の女子扱いに辟易していた。
そして、さらに不機嫌モードである。

「ですが、ムハンマド様は合流せよとおっしゃられています!
リリアスさまが危険な目に遭われたことにひどく心を痛め、ご一緒に過ごせれば安心だと、、、」

実際は、勝手にパリスに向かったリリアスが蛮族に襲われたことを知り、ムハンマドは激怒し、荒れまくった。
リリアスを何としても自分の元に連れてこいっ!という強制連行命令が下されている。

「だから、僕はムハンマドの元には行かないっ!」
おろおろしているのは根明な金髪の同級生、ズインだ。

彼は先日の状況が非常に深刻なものであったことを知っている。
リリアスは何かとトラブルに巻き込まれる傾向にあると思う。
とはいえ、ズインは自分の不甲斐なさに、自信を喪失気味である。
リリアスを完全に守れる者は、ムハンマドぐらいしかいないかもしれないと思う今日この頃である。

だが、リリアスは完全にヘソを曲げていた。
来るなといったり、来いといったり。
ムハンマドは勝手だと思う。

そもそも死亡宣言された国にリリアスとして行ける訳がないだろう!と思う。
リリアスとムハンマドの間には何の約束もない。
いっそのこと、一緒に国造りをしようと誘ってくれたシアノのところへ、行ってしまおうかと思う。

それはそれで軍部を握るムハンマドが、バレンチン国制圧など、言い出しかねないので、気軽に行動はできないのだが。

アルフは、ふうっと小さく溜め息をついた。
この数日間、間近でムハンマド王弟の愛人の振るまいをみていたが、まるでお子さまである。
王都国立で学ばれているという話を聞いていたが、王族が通うその学校で学んでいることを想像できない、やんちゃぶりである。
しかも、金髪の同級生を婚約者に仕立ててアルゴンを出立したときには、天地がひっくり返るのではないかと思うほど驚いた。

このことを報告するのは控えようかと思ったほどだ。
結局は、言いにくいことほど早めに伝えておくことが、後々の更なる悲惨な状況を回避できるはずと信じて、あますところなく上官であるムハンマドに伝えている。

アルフは10代の男の子3人の父親でもある。
聞き分けのない子の扱いは充分承知している。

「では縄をつけて引きずってでも連れて行きますが、、、?」

レッドはぎょっとした。
彼は入隊してまだ数年の、20代。
ムハンマドの愛人が縄でひきずられるその図を想像し、血の気が下がった。
しかもアルフならやりかねなかった。

「アルフ、ちょっと、、」
「わたしはムハンマド様の命令を遂行するためには手段を問わない」

リリアスは唇を噛んだ。
このままでは本当に、縄を巻かれそうだった。
リリアスは樹海の神官長の第三夫人の子であり、あまり実の父親から父親らしいことをしてもらった記憶がない。
少し、父性を感じさせる人は苦手である。

とうとうリリアスは折れた。
もともとパリスへ行く予定なのである。

「わかった。だけど、僕には寄りたいところがある。そこに寄らせてもらえるならば、ムハンマドのところに行ってもよいよ」

「男に二言はないですか?」
とアルフ。
「ない!」
とリリアス。

ズインとレッドは、内心おいおいと突っ込みをいれたのであった。


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