21 / 41
呪術の森
20、リヒター王の呪い
しおりを挟む
街の三つの一族の長とその補佐、そして長老たちが集まっている。
街の最高意志決定会議だった。
森の民とのトラブルをどう納めたら良いかの話し合いだった。
彼らの前には、5人の荒くれものが引き出されていた。
彼らが森の民の、完全体を残す子供たちをさらった者たちだった。
拐い、犯して、凌辱したのは確実だった。
遺体として森に帰った子供たちの他にも、あと10名ほどさらわれている、速やかに返せと森の民は主張していた。
ルシルの父はため息をつく。
「我らの一族にはそんなことをするものがいるとは信じたくはなかったのだがな!
それで、そのさらった子供たちはどこにいるのか?」
荒くれものたちは、さらに別の街の一族に子供たちを売り渡したという。
おぞましいことを彼らは意気揚々といっていた。
古き種族の両性具有体とのまぐわいは、自分達の疲労や不調をたちどころに直してくれるという。
かれらは、両性具有、もしくは未分化の体を持ったもののことをプロトタイプと呼んでいた。
「彼らは高く売れる!我々は金の鉱脈を見つけたようなものだ!
ほら、内臓が悪くて黒かった顔が、普通の肌色に戻っている!!」
荒くれものたちは嬉々として主張する。
彼らは街の会議で満場一致で最高刑が言い渡される。
公開縛首刑だった。
森との境で速やかに行われた。
これで子供の完全体がさらわれる事件は終焉したかと思われた。
だが、さらわれた子供たちは依然として戻ってこない。
プロトタイプは、
不調を直す。
高く売れる。
金の鉱脈。
会議で叫ばれた荒くれものの叫んだ言葉は、貪欲に利益を追い求める不完全体のものたちの耳の奥で、何度も繰り返し響いたのであった。
一見、森の民は平和を取り戻していた。
子供たちは森の奥に隠された。
だが、森に侵入するものは跡をたたない。
森の民も学習する。
人間達の衣服の特徴や身に付ける装飾品で、どこの村のものかがわかるようになっていた。
遠方からの侵入者も多い。
ロボット兵以外にも配置された警備の男たちは、森に入り込んできたものの首をかききりつつ、彼らの身に付けた特徴的なものを採集する。
「王よ。益々侵入者が増えるばかり。
きりがありません。おそらく昨年から50以上の部族から」
そしてとうとう、ギリギリの攻防ラインが破られてしまう。
またひとり、二人とさらわれる。大人数での襲撃だった。
リシュアは美しく成長していた。
その体は依然として、完全体のまま。
リヒター王のたっての願いで、二人の優秀な血脈を残すために、リシュアは衰退の国の王妃の一人となっていた。
ルシルとは、あの夜以来会っていない。
もう会うこともないだろうと思っていた。
既に、新しい人々の優勢と森の王国の終焉は、誰の目にも隠しきれないほど明らかだった。
リヒター王は、リシュアが眠る寝室をぬけだし、毎晩森を歩く。
彼は最後の王にして、傑出した最強の加護の持主だった。
彼は森に存在する精霊の力を巧みにほどき、彼の望むように結び直していく。
あるがままの自然を、意図的に組み換えて、さらに時間の経過と共に霧散しないように、数百年は動かない岩に、大地の奥の例え動いても緩やかなものに、しっかりと結びつけていく。
王は、森自体を彼らの守りに利用しようとしていた。
その結び付きをより強固なものにするために、亡くなって無惨な姿で見つかった森の子供たちの、その体を利用することさえ厭わない。
血液、髪、切り刻まれた指であっても、リヒター王は森の守りの呪術に利用した。
森の物は森に還る。
その還っていく課程に、リヒター王は願いをこめる。
無惨に殺された精霊の加護をもつ子供たちは死してもなお、精霊の力が宿る。
森の民の森自体が、彼らを守る防御壁になる。
外からの侵入者を排除する。
それは同時に、森の民にも反ってくる。
かれらは森から外にはでられなくなるだろう。
願いというよりも、呪いかもしれない、とリヒター王は思う。
それでも最後の王として、残された者を守る義務があった。
狩られ、生きている間中、尊厳を踏みにじられてなぶられるぐらいなら、森のなかで静かに終わっていくのも良いのではないか?
その呪いもあと少しで完成する。
必要なのは最後のピース。
一番の要になるものだった。
「リシュア、、」
王は彼のベッドで眠る、黒髪の最愛の妻を見る。
彼の新妻は、ぬばたまの黒髪、黒曜石のような目の美しい完全体で、女性寄りの優しい体つきをしていた。
愛されるために生まれてきたような、とリヒターは思う。
リシュアとの愛の行為は、リヒターの味わったことのないものだった。
お互いの唇が触れるところで、さまざまな加護紋様がはじけ飛び、重なり霧散する。
精霊の加護五つと神の愛で六つ。
六種類の加護紋様だと長くいわれていたが、リヒター王とリシュアの間には、それどころではなく、見慣れぬ紋様が現れれていた。
リシュアもそれに気がついていた。
この世界の構成要素、空、風、火、水、土の五つに加えて神の愛というのが、森の民の常識だったが、もっと別の違う次元の要素があるのかも知れなかった。
(解明するには私たちには時間がない)
リヒター王とリシュアは、まぐわいの時に数えていく。
いつも最後は欲望と快楽に理性が押しやられて、数えられなくなってしまう。
だから、先祖たちは六つまでしか数えられなかったのだと思った。
リヒターとの愛の行為の最中でも、リシュアの心の欠片は森の外にあった。
金茶の髪の、紺碧の瞳のルシル。
二人はきちんと別れを交わしていない。
リヒターに愛され、彼を愛していると思っていても、リシュアの欠片はルシルを愛することを止められなかった。
街の最高意志決定会議だった。
森の民とのトラブルをどう納めたら良いかの話し合いだった。
彼らの前には、5人の荒くれものが引き出されていた。
彼らが森の民の、完全体を残す子供たちをさらった者たちだった。
拐い、犯して、凌辱したのは確実だった。
遺体として森に帰った子供たちの他にも、あと10名ほどさらわれている、速やかに返せと森の民は主張していた。
ルシルの父はため息をつく。
「我らの一族にはそんなことをするものがいるとは信じたくはなかったのだがな!
それで、そのさらった子供たちはどこにいるのか?」
荒くれものたちは、さらに別の街の一族に子供たちを売り渡したという。
おぞましいことを彼らは意気揚々といっていた。
古き種族の両性具有体とのまぐわいは、自分達の疲労や不調をたちどころに直してくれるという。
かれらは、両性具有、もしくは未分化の体を持ったもののことをプロトタイプと呼んでいた。
「彼らは高く売れる!我々は金の鉱脈を見つけたようなものだ!
ほら、内臓が悪くて黒かった顔が、普通の肌色に戻っている!!」
荒くれものたちは嬉々として主張する。
彼らは街の会議で満場一致で最高刑が言い渡される。
公開縛首刑だった。
森との境で速やかに行われた。
これで子供の完全体がさらわれる事件は終焉したかと思われた。
だが、さらわれた子供たちは依然として戻ってこない。
プロトタイプは、
不調を直す。
高く売れる。
金の鉱脈。
会議で叫ばれた荒くれものの叫んだ言葉は、貪欲に利益を追い求める不完全体のものたちの耳の奥で、何度も繰り返し響いたのであった。
一見、森の民は平和を取り戻していた。
子供たちは森の奥に隠された。
だが、森に侵入するものは跡をたたない。
森の民も学習する。
人間達の衣服の特徴や身に付ける装飾品で、どこの村のものかがわかるようになっていた。
遠方からの侵入者も多い。
ロボット兵以外にも配置された警備の男たちは、森に入り込んできたものの首をかききりつつ、彼らの身に付けた特徴的なものを採集する。
「王よ。益々侵入者が増えるばかり。
きりがありません。おそらく昨年から50以上の部族から」
そしてとうとう、ギリギリの攻防ラインが破られてしまう。
またひとり、二人とさらわれる。大人数での襲撃だった。
リシュアは美しく成長していた。
その体は依然として、完全体のまま。
リヒター王のたっての願いで、二人の優秀な血脈を残すために、リシュアは衰退の国の王妃の一人となっていた。
ルシルとは、あの夜以来会っていない。
もう会うこともないだろうと思っていた。
既に、新しい人々の優勢と森の王国の終焉は、誰の目にも隠しきれないほど明らかだった。
リヒター王は、リシュアが眠る寝室をぬけだし、毎晩森を歩く。
彼は最後の王にして、傑出した最強の加護の持主だった。
彼は森に存在する精霊の力を巧みにほどき、彼の望むように結び直していく。
あるがままの自然を、意図的に組み換えて、さらに時間の経過と共に霧散しないように、数百年は動かない岩に、大地の奥の例え動いても緩やかなものに、しっかりと結びつけていく。
王は、森自体を彼らの守りに利用しようとしていた。
その結び付きをより強固なものにするために、亡くなって無惨な姿で見つかった森の子供たちの、その体を利用することさえ厭わない。
血液、髪、切り刻まれた指であっても、リヒター王は森の守りの呪術に利用した。
森の物は森に還る。
その還っていく課程に、リヒター王は願いをこめる。
無惨に殺された精霊の加護をもつ子供たちは死してもなお、精霊の力が宿る。
森の民の森自体が、彼らを守る防御壁になる。
外からの侵入者を排除する。
それは同時に、森の民にも反ってくる。
かれらは森から外にはでられなくなるだろう。
願いというよりも、呪いかもしれない、とリヒター王は思う。
それでも最後の王として、残された者を守る義務があった。
狩られ、生きている間中、尊厳を踏みにじられてなぶられるぐらいなら、森のなかで静かに終わっていくのも良いのではないか?
その呪いもあと少しで完成する。
必要なのは最後のピース。
一番の要になるものだった。
「リシュア、、」
王は彼のベッドで眠る、黒髪の最愛の妻を見る。
彼の新妻は、ぬばたまの黒髪、黒曜石のような目の美しい完全体で、女性寄りの優しい体つきをしていた。
愛されるために生まれてきたような、とリヒターは思う。
リシュアとの愛の行為は、リヒターの味わったことのないものだった。
お互いの唇が触れるところで、さまざまな加護紋様がはじけ飛び、重なり霧散する。
精霊の加護五つと神の愛で六つ。
六種類の加護紋様だと長くいわれていたが、リヒター王とリシュアの間には、それどころではなく、見慣れぬ紋様が現れれていた。
リシュアもそれに気がついていた。
この世界の構成要素、空、風、火、水、土の五つに加えて神の愛というのが、森の民の常識だったが、もっと別の違う次元の要素があるのかも知れなかった。
(解明するには私たちには時間がない)
リヒター王とリシュアは、まぐわいの時に数えていく。
いつも最後は欲望と快楽に理性が押しやられて、数えられなくなってしまう。
だから、先祖たちは六つまでしか数えられなかったのだと思った。
リヒターとの愛の行為の最中でも、リシュアの心の欠片は森の外にあった。
金茶の髪の、紺碧の瞳のルシル。
二人はきちんと別れを交わしていない。
リヒターに愛され、彼を愛していると思っていても、リシュアの欠片はルシルを愛することを止められなかった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる