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呪術の森
19、不穏な予感
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王はリシュアの表情を読みとった。
「誰か心に決めた相手がいるのか?」
リシュアはうなずく。
「それは誰だ?」
(森の外の人だなんて言えない)
リシュアは早く王から離れて、森を抜けルシルの元に行きたかった。
ルシルと自分なら、さらわれた子供たちを助けることもできるかもしれないと思った。
「言いたくないのか。それはわたしと一緒になることや、王になること以上に大事なことなのか?森の娘たちは皆わたしにすり寄ってくるぞ?」
黒い眼が妖艶に煌めく。
「ぼ、僕は娘ではないから、、」
リシュアはやっと言う。
精霊の力を複数持っているリヒター王は、望んだものを全て手に入れることができるに違いないと思った。
なぜなら、リシュアも彼がいったように森の娘達のように、王に熱くみつめられたらすり寄っていきたくなったからだ。
完全体がもつ、自信に裏付けられた圧倒的な魅力は男も女も惹き付けるのだ。
「そうだな、男でもあり女でもある、あなたは完全体。新しき人間がいうプロトタイプだからな」
リシュアは王の塔から解放される。
訪れたときは夕方であったが、もう日がすっかり落ちている。
リシュアは無性にルシルに会いたくなった。
森の民の男たちの何人かがルシルの街に向かっていた。
森の民も、武器になりそうなものを持ち始めている。
田を耕す鍬や動物を捌くナイフといったものだったが。
リシュアは森を駆けた。
満月が照らす。
森の民はある程度、夜眼がきく。
森から出たことはなかったが、境界を越えてもリシュアは止まらず、穀物が広大に植えられている田畑を走り抜ける。
リシュアはルシルの家を知っている。
新しき人々の集落の中の、その中心にある大きな家だった。
ルシルが昔教えてくれたのだ。
その家は塀に囲まれていた。
リシュアの町に塀などない。
その塀は自分の仲間でさえ信用できないといっているようだった。
塀の奥の建物で灯りがゆらめいていた。
(ルシル!出てきて!)
リシュアは入りかねて、願った。
「君はわたしの家の誰かに用があるのか?」
不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると、壮年の男性と若者がいた。
手には足元を照らすランプをもっていて、それをリシュアの顔に当て照らした。
ルシルに似た面影を、二人の顔にリシュアは見てとる。
リシュアは身構えた。
なぜなら二人は武装をしていたからだ。
「お前は見ぬ顔だが、ルシルに用か?」
男の眼がリシュアを値踏みする。
今すぐ逃げなければ!と思う。
後ずさる。
ルシルに会いたい衝動に突き動かされて来たことを不意に後悔した。
彼らは完全体をつかまえている。
自分は彼らにとって、格好の獲物なのだ。
捕まってはいけない!
(彼らは野蛮で、獰猛な種族)
逃げようとしたリシュアの腕が、若い方の男に捕まれ、ぐいっとねじられた。
捕まった!と思った。
「お父さん、お兄さん、何をしてるのです?」
玄関先のざわついた気配を感じて、家の中にいたルシルが気がついた。
ルシルは腕をねじられている者がリシュアと知って一瞬固まるが、平然とした様子を取り繕う。
「ああ、リシュアじゃないか!怪しいものではないですよ、放してあげてください。僕の学校の友人です」
ルシルの兄は腕を緩めた。
とんっとルシルへ解放する。
「そうか、こんな時間に訪ねてくるなんてよっぽどのことだろう。黒髪は、物騒なやつらに狙われるぞ。
ルシルからも用心せよといってやれ」
リシュアはルシルに抱き止められた。
二人はそのまま、ルシルの父と兄が家に入るのを見届けた。
そして、二人は人目のない敷地内の馬小屋に逃げ込むように入る。
会話を聞くのは、十数頭の馬のみ。
ルシルの父は一族の長だった。
使用人も沢山抱えている。
「リシュア!何で来たんだよ!今ここにはお前のところのやつらが押しかけてきて、大変なんだ!
見つかったら殺られるぞ!」
「しかけているのはそっちでしょう?森の民の子供がさらわれている!」
「俺のところじゃあない。
別の、隣村の一族だ。お前たちには俺たちの区別がつかないのだろうが、全然別なんだ。俺らは人をさらうような野蛮なことなどしないっ」
苦々しくルシルは言った。
「さらわれた子を見つけるにはどこにいったらいい?」
「なんだって?」
「助けに行く!」
ルシルは冷静である。
「やめろよ。今、父があちらの一族に掛け合っているから。
こう何度も間違えられて、森の民に関係のない我ら一族の家々を火やら風やらで襲撃されたらたまらないからな」
「ルシルの一族ではないの?」
リシュアはずるずるとへたりこんだ。
ルシルも腰を落とす。
「そんなことするか!ただでさえ隣人とはこじれやすいのだから」
リシュアは、今知ったことを伝えなければと思う。
「泊まるか?今出歩くのは危険だ」
ルシルは自分の部屋にリシュアを誘う。
ここよりも居心地がよいはずだった。
馬小屋を回っていける。
帰らなければというリシュアは、泊まっていけというルシルの強い希望に押しきられた。
ルシルがいつも寝ているフカフカのベッドで横になる。
ルシルの匂いがする。
「今夜は抱き締めていて、、」
「ああ、、」
二人はお互いを、腕枕に抱き合って寝る。
「ねえ、ルシルの一族は何人ぐらいなの?」
「一族は100名。町は500人ぐらい。それが何か?」
「ここにくるまでにあった穀物畑がすごいな、と思って。500人にしては多くない?」
ルシルは言った。
「穀物はこの街で必要とする以上に作っているよ。余剰分は作物が取れなかったときとか、他の村に販売する。
販売してお金を得る。
お金があれば、たいていの望みが叶う。
お金か、相当の宝石か、そんなところだな。
森の民にはお金はないのか?」
「ない」
森の民は、必要なものは皆で分けあう。自分達の必要とする以上の物は作らない。
リシュアは王の部屋に行く途中にある宝物庫のことを思い出した。
「あるのは宝物庫だけ。いろんな宝が入っているみたいだよ?」
「ふうん?」
ルシルはすべすべのリシュアの服に顔を擦り付けた。
「リシュアの服は気持ちがいいな」
虫の繭から糸を取り出し紡いで軽くて丈夫な糸を作り、その糸から織った布だというと、ルシルは驚く。
森の民の文化はルシル達の先をいく。
その夜、森の民とルシルの隣の一族の間で激しいこぜり合いが勃発する。
街の家が焼かれ、森の民が切り殺される。
翌朝、子供の遺体が森に投げ込まれた。
顔からも体からも判別できないほど、切り刻まれた無惨な姿であった。
報復であった。
「誰か心に決めた相手がいるのか?」
リシュアはうなずく。
「それは誰だ?」
(森の外の人だなんて言えない)
リシュアは早く王から離れて、森を抜けルシルの元に行きたかった。
ルシルと自分なら、さらわれた子供たちを助けることもできるかもしれないと思った。
「言いたくないのか。それはわたしと一緒になることや、王になること以上に大事なことなのか?森の娘たちは皆わたしにすり寄ってくるぞ?」
黒い眼が妖艶に煌めく。
「ぼ、僕は娘ではないから、、」
リシュアはやっと言う。
精霊の力を複数持っているリヒター王は、望んだものを全て手に入れることができるに違いないと思った。
なぜなら、リシュアも彼がいったように森の娘達のように、王に熱くみつめられたらすり寄っていきたくなったからだ。
完全体がもつ、自信に裏付けられた圧倒的な魅力は男も女も惹き付けるのだ。
「そうだな、男でもあり女でもある、あなたは完全体。新しき人間がいうプロトタイプだからな」
リシュアは王の塔から解放される。
訪れたときは夕方であったが、もう日がすっかり落ちている。
リシュアは無性にルシルに会いたくなった。
森の民の男たちの何人かがルシルの街に向かっていた。
森の民も、武器になりそうなものを持ち始めている。
田を耕す鍬や動物を捌くナイフといったものだったが。
リシュアは森を駆けた。
満月が照らす。
森の民はある程度、夜眼がきく。
森から出たことはなかったが、境界を越えてもリシュアは止まらず、穀物が広大に植えられている田畑を走り抜ける。
リシュアはルシルの家を知っている。
新しき人々の集落の中の、その中心にある大きな家だった。
ルシルが昔教えてくれたのだ。
その家は塀に囲まれていた。
リシュアの町に塀などない。
その塀は自分の仲間でさえ信用できないといっているようだった。
塀の奥の建物で灯りがゆらめいていた。
(ルシル!出てきて!)
リシュアは入りかねて、願った。
「君はわたしの家の誰かに用があるのか?」
不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると、壮年の男性と若者がいた。
手には足元を照らすランプをもっていて、それをリシュアの顔に当て照らした。
ルシルに似た面影を、二人の顔にリシュアは見てとる。
リシュアは身構えた。
なぜなら二人は武装をしていたからだ。
「お前は見ぬ顔だが、ルシルに用か?」
男の眼がリシュアを値踏みする。
今すぐ逃げなければ!と思う。
後ずさる。
ルシルに会いたい衝動に突き動かされて来たことを不意に後悔した。
彼らは完全体をつかまえている。
自分は彼らにとって、格好の獲物なのだ。
捕まってはいけない!
(彼らは野蛮で、獰猛な種族)
逃げようとしたリシュアの腕が、若い方の男に捕まれ、ぐいっとねじられた。
捕まった!と思った。
「お父さん、お兄さん、何をしてるのです?」
玄関先のざわついた気配を感じて、家の中にいたルシルが気がついた。
ルシルは腕をねじられている者がリシュアと知って一瞬固まるが、平然とした様子を取り繕う。
「ああ、リシュアじゃないか!怪しいものではないですよ、放してあげてください。僕の学校の友人です」
ルシルの兄は腕を緩めた。
とんっとルシルへ解放する。
「そうか、こんな時間に訪ねてくるなんてよっぽどのことだろう。黒髪は、物騒なやつらに狙われるぞ。
ルシルからも用心せよといってやれ」
リシュアはルシルに抱き止められた。
二人はそのまま、ルシルの父と兄が家に入るのを見届けた。
そして、二人は人目のない敷地内の馬小屋に逃げ込むように入る。
会話を聞くのは、十数頭の馬のみ。
ルシルの父は一族の長だった。
使用人も沢山抱えている。
「リシュア!何で来たんだよ!今ここにはお前のところのやつらが押しかけてきて、大変なんだ!
見つかったら殺られるぞ!」
「しかけているのはそっちでしょう?森の民の子供がさらわれている!」
「俺のところじゃあない。
別の、隣村の一族だ。お前たちには俺たちの区別がつかないのだろうが、全然別なんだ。俺らは人をさらうような野蛮なことなどしないっ」
苦々しくルシルは言った。
「さらわれた子を見つけるにはどこにいったらいい?」
「なんだって?」
「助けに行く!」
ルシルは冷静である。
「やめろよ。今、父があちらの一族に掛け合っているから。
こう何度も間違えられて、森の民に関係のない我ら一族の家々を火やら風やらで襲撃されたらたまらないからな」
「ルシルの一族ではないの?」
リシュアはずるずるとへたりこんだ。
ルシルも腰を落とす。
「そんなことするか!ただでさえ隣人とはこじれやすいのだから」
リシュアは、今知ったことを伝えなければと思う。
「泊まるか?今出歩くのは危険だ」
ルシルは自分の部屋にリシュアを誘う。
ここよりも居心地がよいはずだった。
馬小屋を回っていける。
帰らなければというリシュアは、泊まっていけというルシルの強い希望に押しきられた。
ルシルがいつも寝ているフカフカのベッドで横になる。
ルシルの匂いがする。
「今夜は抱き締めていて、、」
「ああ、、」
二人はお互いを、腕枕に抱き合って寝る。
「ねえ、ルシルの一族は何人ぐらいなの?」
「一族は100名。町は500人ぐらい。それが何か?」
「ここにくるまでにあった穀物畑がすごいな、と思って。500人にしては多くない?」
ルシルは言った。
「穀物はこの街で必要とする以上に作っているよ。余剰分は作物が取れなかったときとか、他の村に販売する。
販売してお金を得る。
お金があれば、たいていの望みが叶う。
お金か、相当の宝石か、そんなところだな。
森の民にはお金はないのか?」
「ない」
森の民は、必要なものは皆で分けあう。自分達の必要とする以上の物は作らない。
リシュアは王の部屋に行く途中にある宝物庫のことを思い出した。
「あるのは宝物庫だけ。いろんな宝が入っているみたいだよ?」
「ふうん?」
ルシルはすべすべのリシュアの服に顔を擦り付けた。
「リシュアの服は気持ちがいいな」
虫の繭から糸を取り出し紡いで軽くて丈夫な糸を作り、その糸から織った布だというと、ルシルは驚く。
森の民の文化はルシル達の先をいく。
その夜、森の民とルシルの隣の一族の間で激しいこぜり合いが勃発する。
街の家が焼かれ、森の民が切り殺される。
翌朝、子供の遺体が森に投げ込まれた。
顔からも体からも判別できないほど、切り刻まれた無惨な姿であった。
報復であった。
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