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呪術の森
18、森の民の王
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森が開墾されていく。
森だったところに、不完全な単性の人間が根をはり、畑を耕し、畜産し、旺盛な繁殖力でもって増えていく。
彼らは友好的なのに好戦的で、仲良くしていたかと思えば、裏切り奪い合い、殺しあっていた。
同母をひとつの単位とし、それが複数集る。他の集団から身を守るために、さらに集まって村になっていく。
そして自分たちより好戦的な別の村や集団から家族を守るために、武器を作り殺人の技術を磨いている。
単性の新しい人間は、あやういバランスの上にある平和な状態をしばし享受していた。
彼らは強く、かつ貪欲だった。
欲望に正直で、命を大事にしなかった。
取り巻く命の循環の流れに目を背け、つかの間の短い命を謳歌していた。
森の民は、自然と調和をすることを選んだ完全な人であった。
世界がバランスを壊したら、長い目でみるとそのつけは自分たちに降りかかる。
なぜにわからないのか?
森の民は古くから続いた知恵と教えに従い生活をする。
彼らの現王は、黒髪黒目の強く精悍な王、リヒター。
王には、彼らの民の中で現れる、最も強くて美しいものが選ばれる。
強きものである条件の1つは、精霊の加護の力を複数持っていること。
そして大人になっても、完全体を保っているもの。
リヒターは精悍な外見ではあるが、女性性と男性性をあわせ持つ完全体である。
一見男性に見える彼は、男性性が強い配分で現れているようだった。
森の民は、大人になる過程において、完全体であることを失い、どちからに変態していく者が、最近ではほとんどである。
不完全な単性の人間を増やしていく、世界の流れに、森の王国の民も影響を受けざるを得ないようだった。
それこそ、世界はひとつに繋がっていて、影響を与え合わずにはいられないことの表れである。
その勢いは、単一性体の不完全な新しき人の側にあった。
リシュアは母に帰りが遅いことをとがめられる。
「野蛮な人間が私たちをさらっているのですよ!気を付けなさい!」
「ひとさらい、何それ、、」
リシュアには初耳だった。
もう何人もさらわれているという。
「それに、王があなたを呼んでいます。今夜行きなさい」
リシュアは王が自分に何の用があるかがわからなかった。
強く精悍な王は奥つ城に住まわれていた。そこには、森の民に開放された、広大な書庫や、学者達のさまざまな実験室、研究室、ロボットの司令塔、工場、講堂や、礼拝堂、宝物庫など、森の民の全てが収まっていた。
王はそのなかの一番高い塔でお気に入りの妻たちと住まう。
リシュアは建物群を抜けていく。
王の部屋へ続く階段を昇る。
何人かの妻がいぶかしげにリシュアの夜の訪問を見とがめる。
リヒター王が自分の部屋にリシュアを呼ぶのは初めてだった。
王は大きく開いた窓辺に腰を掛けていた。こぢんまりとした私室には書き物ができるオークのテーブル。
奥にはシルクの蚊帳の掛かるベッドが置いてある。
「リシュア大きくなった、息災か?」
久しぶりに会ったリヒター王は優しい笑みを浮かべていた。
「何か変わりはないか?」
「特にございません」
リシュアは何故呼ばれたのかがわからない。
これぐらいの会話ならここでなくてもよいはずだった。
いぶかしげな様子をみせるリシュアを見て、リヒター王は本題に入る。
「リシュア知っているか?我々の種族が終焉を迎えつつあることを」
とんでもない話に、リシュアは固まった。
王は何の話をしようとしているのか。
「知っているだろう?新しい人間たちが森のすぐそばまで街をつくり、力をつけていることを。
戦をし、奪い合い、大きくまとまってきている。我らは既に数では負けている。
民をさらわれても救出さえできないのだ」
「王さま、、救出活動を起こすなら、僕も行きます!街の人は精霊の力を持っていないから、使えばなんとかなるのではないでしょうか」
「リシュアがいくのか?」
王は悲しく笑う。
「捕まればさらわれたものの二の舞になるぞ。死ぬ方がよっぽど楽で幸せであると思うようなことをされるぞ」
(なにそれ)
リシュアの血の気が引く。
「一体何が起こっているのですか?」
リシュアはそういいつつも聞きたくなかった。
だが、口が勝手に動いていた。
王は答える。
「彼らは我らを狩っているのだ。
我々は両性で生まれる者がほとんどだ。
最近では、大人になるまでに、性別が定まる者が多いが、彼らはまだ両性の子供を捕まえている。
野蛮なやつらだ。今日もさらわれた。知っているだろう?」
リシュアのよく知った年下の子の名前を王は言う。
黒い眼をしたかわいい子。
元気で、よく森の外れ近くで遊んでいるのを見かけていた。
血の気が下がる。
今すぐにでも助けにいかなくてはいけなかった。
「大人で男になったものたちが向かっているから安心せよ」
「僕も、、」
リシュアはなおも食い下がる。
リシュアは六つの精霊の力を持っている。戦力としてはかなり強いはずである。
もっとも人を相手に戦ったことなどないのだけれど。
リヒターは黒い眼を細め、リシュアをいさめた。
「駄目だ。あなたを戦に出せない。
あなたは17だろう?性別は定まったか?」
リシュアの同じ年の友達はどんどん定まっている。だが、リシュアの印はどちらも存在していた。
最近ではほとんどの者がどちらかになっているので、リシュアも自分は男になるのだと思い込んでいた節がある。
かあっと真っ赤になる。
「やはり完全体なんだな。二つの意味であなたを戦にだせなくなった。
ひとつめは、あなたが完全体だから。
それこそ、あいつらが狩の対象にしているものだからだ。
ふたつめは、、」
リヒターは少し間を空けてリシュアを観察する。
「美しく強い完全体は既に希となっている。森の民の古き血族を残すために、わたしの妻になり、わたしの亡き後は、森の民の王になれ!」
リシュアは仰天した。
リシュアは森をでて、ルシルと一緒になる予定だったのだ。
森だったところに、不完全な単性の人間が根をはり、畑を耕し、畜産し、旺盛な繁殖力でもって増えていく。
彼らは友好的なのに好戦的で、仲良くしていたかと思えば、裏切り奪い合い、殺しあっていた。
同母をひとつの単位とし、それが複数集る。他の集団から身を守るために、さらに集まって村になっていく。
そして自分たちより好戦的な別の村や集団から家族を守るために、武器を作り殺人の技術を磨いている。
単性の新しい人間は、あやういバランスの上にある平和な状態をしばし享受していた。
彼らは強く、かつ貪欲だった。
欲望に正直で、命を大事にしなかった。
取り巻く命の循環の流れに目を背け、つかの間の短い命を謳歌していた。
森の民は、自然と調和をすることを選んだ完全な人であった。
世界がバランスを壊したら、長い目でみるとそのつけは自分たちに降りかかる。
なぜにわからないのか?
森の民は古くから続いた知恵と教えに従い生活をする。
彼らの現王は、黒髪黒目の強く精悍な王、リヒター。
王には、彼らの民の中で現れる、最も強くて美しいものが選ばれる。
強きものである条件の1つは、精霊の加護の力を複数持っていること。
そして大人になっても、完全体を保っているもの。
リヒターは精悍な外見ではあるが、女性性と男性性をあわせ持つ完全体である。
一見男性に見える彼は、男性性が強い配分で現れているようだった。
森の民は、大人になる過程において、完全体であることを失い、どちからに変態していく者が、最近ではほとんどである。
不完全な単性の人間を増やしていく、世界の流れに、森の王国の民も影響を受けざるを得ないようだった。
それこそ、世界はひとつに繋がっていて、影響を与え合わずにはいられないことの表れである。
その勢いは、単一性体の不完全な新しき人の側にあった。
リシュアは母に帰りが遅いことをとがめられる。
「野蛮な人間が私たちをさらっているのですよ!気を付けなさい!」
「ひとさらい、何それ、、」
リシュアには初耳だった。
もう何人もさらわれているという。
「それに、王があなたを呼んでいます。今夜行きなさい」
リシュアは王が自分に何の用があるかがわからなかった。
強く精悍な王は奥つ城に住まわれていた。そこには、森の民に開放された、広大な書庫や、学者達のさまざまな実験室、研究室、ロボットの司令塔、工場、講堂や、礼拝堂、宝物庫など、森の民の全てが収まっていた。
王はそのなかの一番高い塔でお気に入りの妻たちと住まう。
リシュアは建物群を抜けていく。
王の部屋へ続く階段を昇る。
何人かの妻がいぶかしげにリシュアの夜の訪問を見とがめる。
リヒター王が自分の部屋にリシュアを呼ぶのは初めてだった。
王は大きく開いた窓辺に腰を掛けていた。こぢんまりとした私室には書き物ができるオークのテーブル。
奥にはシルクの蚊帳の掛かるベッドが置いてある。
「リシュア大きくなった、息災か?」
久しぶりに会ったリヒター王は優しい笑みを浮かべていた。
「何か変わりはないか?」
「特にございません」
リシュアは何故呼ばれたのかがわからない。
これぐらいの会話ならここでなくてもよいはずだった。
いぶかしげな様子をみせるリシュアを見て、リヒター王は本題に入る。
「リシュア知っているか?我々の種族が終焉を迎えつつあることを」
とんでもない話に、リシュアは固まった。
王は何の話をしようとしているのか。
「知っているだろう?新しい人間たちが森のすぐそばまで街をつくり、力をつけていることを。
戦をし、奪い合い、大きくまとまってきている。我らは既に数では負けている。
民をさらわれても救出さえできないのだ」
「王さま、、救出活動を起こすなら、僕も行きます!街の人は精霊の力を持っていないから、使えばなんとかなるのではないでしょうか」
「リシュアがいくのか?」
王は悲しく笑う。
「捕まればさらわれたものの二の舞になるぞ。死ぬ方がよっぽど楽で幸せであると思うようなことをされるぞ」
(なにそれ)
リシュアの血の気が引く。
「一体何が起こっているのですか?」
リシュアはそういいつつも聞きたくなかった。
だが、口が勝手に動いていた。
王は答える。
「彼らは我らを狩っているのだ。
我々は両性で生まれる者がほとんどだ。
最近では、大人になるまでに、性別が定まる者が多いが、彼らはまだ両性の子供を捕まえている。
野蛮なやつらだ。今日もさらわれた。知っているだろう?」
リシュアのよく知った年下の子の名前を王は言う。
黒い眼をしたかわいい子。
元気で、よく森の外れ近くで遊んでいるのを見かけていた。
血の気が下がる。
今すぐにでも助けにいかなくてはいけなかった。
「大人で男になったものたちが向かっているから安心せよ」
「僕も、、」
リシュアはなおも食い下がる。
リシュアは六つの精霊の力を持っている。戦力としてはかなり強いはずである。
もっとも人を相手に戦ったことなどないのだけれど。
リヒターは黒い眼を細め、リシュアをいさめた。
「駄目だ。あなたを戦に出せない。
あなたは17だろう?性別は定まったか?」
リシュアの同じ年の友達はどんどん定まっている。だが、リシュアの印はどちらも存在していた。
最近ではほとんどの者がどちらかになっているので、リシュアも自分は男になるのだと思い込んでいた節がある。
かあっと真っ赤になる。
「やはり完全体なんだな。二つの意味であなたを戦にだせなくなった。
ひとつめは、あなたが完全体だから。
それこそ、あいつらが狩の対象にしているものだからだ。
ふたつめは、、」
リヒターは少し間を空けてリシュアを観察する。
「美しく強い完全体は既に希となっている。森の民の古き血族を残すために、わたしの妻になり、わたしの亡き後は、森の民の王になれ!」
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