運命の子【5】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
19 / 41
呪術の森

18、森の民の王

しおりを挟む
森が開墾されていく。

森だったところに、不完全な単性の人間が根をはり、畑を耕し、畜産し、旺盛な繁殖力でもって増えていく。
彼らは友好的なのに好戦的で、仲良くしていたかと思えば、裏切り奪い合い、殺しあっていた。

同母をひとつの単位とし、それが複数集る。他の集団から身を守るために、さらに集まって村になっていく。
そして自分たちより好戦的な別の村や集団から家族を守るために、武器を作り殺人の技術を磨いている。

単性の新しい人間は、あやういバランスの上にある平和な状態をしばし享受していた。

彼らは強く、かつ貪欲だった。
欲望に正直で、命を大事にしなかった。
取り巻く命の循環の流れに目を背け、つかの間の短い命を謳歌していた。

森の民は、自然と調和をすることを選んだ完全な人であった。

世界がバランスを壊したら、長い目でみるとそのは自分たちに降りかかる。

なぜにわからないのか?
森の民は古くから続いた知恵と教えに従い生活をする。


彼らの現王は、黒髪黒目の強く精悍な王、リヒター。
王には、彼らの民の中で現れる、最も強くて美しいものが選ばれる。

強きものである条件の1つは、精霊の加護の力を複数持っていること。
そして大人になっても、完全体を保っているもの。
リヒターは精悍な外見ではあるが、女性性と男性性をあわせ持つ完全体である。
一見男性に見える彼は、男性性が強い配分で現れているようだった。


森の民は、大人になる過程において、完全体であることを失い、どちからに変態していく者が、最近ではほとんどである。

不完全な単性の人間を増やしていく、世界の流れに、森の王国の民も影響を受けざるを得ないようだった。

それこそ、世界はひとつに繋がっていて、影響を与え合わずにはいられないことの表れである。
その勢いは、単一性体の不完全な新しき人の側にあった。

リシュアは母に帰りが遅いことをとがめられる。
「野蛮な人間が私たちをさらっているのですよ!気を付けなさい!」

「ひとさらい、何それ、、」

リシュアには初耳だった。
もう何人もさらわれているという。

「それに、王があなたを呼んでいます。今夜行きなさい」

リシュアは王が自分に何の用があるかがわからなかった。
強く精悍な王は奥つ城に住まわれていた。そこには、森の民に開放された、広大な書庫や、学者達のさまざまな実験室、研究室、ロボットの司令塔、工場、講堂や、礼拝堂、宝物庫など、森の民の全てが収まっていた。
王はそのなかの一番高い塔でお気に入りの妻たちと住まう。

リシュアは建物群を抜けていく。
王の部屋へ続く階段を昇る。
何人かの妻がいぶかしげにリシュアの夜の訪問を見とがめる。
リヒター王が自分の部屋にリシュアを呼ぶのは初めてだった。

王は大きく開いた窓辺に腰を掛けていた。こぢんまりとした私室には書き物ができるオークのテーブル。
奥にはシルクの蚊帳の掛かるベッドが置いてある。

「リシュア大きくなった、息災か?」
久しぶりに会ったリヒター王は優しい笑みを浮かべていた。

「何か変わりはないか?」
「特にございません」

リシュアは何故呼ばれたのかがわからない。
これぐらいの会話ならここでなくてもよいはずだった。
いぶかしげな様子をみせるリシュアを見て、リヒター王は本題に入る。

「リシュア知っているか?我々の種族が終焉を迎えつつあることを」
とんでもない話に、リシュアは固まった。
王は何の話をしようとしているのか。

「知っているだろう?新しい人間たちが森のすぐそばまで街をつくり、力をつけていることを。
戦をし、奪い合い、大きくまとまってきている。我らは既に数では負けている。
民をさらわれても救出さえできないのだ」

「王さま、、救出活動を起こすなら、僕も行きます!街の人は精霊の力を持っていないから、使えばなんとかなるのではないでしょうか」

「リシュアがいくのか?」
王は悲しく笑う。
「捕まればさらわれたものの二の舞になるぞ。死ぬ方がよっぽど楽で幸せであると思うようなことをされるぞ」

(なにそれ)

リシュアの血の気が引く。
「一体何が起こっているのですか?」
リシュアはそういいつつも聞きたくなかった。
だが、口が勝手に動いていた。

王は答える。
「彼らは我らを狩っているのだ。
我々は両性で生まれる者がほとんどだ。
最近では、大人になるまでに、性別が定まる者が多いが、彼らはまだ両性の子供を捕まえている。
野蛮なやつらだ。今日もさらわれた。知っているだろう?」

リシュアのよく知った年下の子の名前を王は言う。
黒い眼をしたかわいい子。
元気で、よく森の外れ近くで遊んでいるのを見かけていた。
血の気が下がる。
今すぐにでも助けにいかなくてはいけなかった。

「大人で男になったものたちが向かっているから安心せよ」
「僕も、、」

リシュアはなおも食い下がる。
リシュアは六つの精霊の力を持っている。戦力としてはかなり強いはずである。
もっとも人を相手に戦ったことなどないのだけれど。
リヒターは黒い眼を細め、リシュアをいさめた。

「駄目だ。あなたを戦に出せない。
あなたは17だろう?性別は定まったか?」

リシュアの同じ年の友達はどんどん定まっている。だが、リシュアの印はどちらも存在していた。

最近ではほとんどの者がどちらかになっているので、リシュアも自分は男になるのだと思い込んでいた節がある。
かあっと真っ赤になる。

「やはり完全体なんだな。二つの意味であなたを戦にだせなくなった。
ひとつめは、あなたが完全体だから。
それこそ、あいつらが狩の対象にしているものだからだ。
ふたつめは、、」

リヒターは少し間を空けてリシュアを観察する。

「美しく強い完全体は既に希となっている。森の民の古き血族を残すために、わたしの妻になり、わたしの亡き後は、森の民の王になれ!」

リシュアは仰天した。
リシュアは森をでて、ルシルと一緒になる予定だったのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...