運命の子【5】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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パリスの闇

35、パリスの闇1

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コツン。

部屋に戻ろうとしたムハンマドの肩に何かがあたる。
丸めた紙片だった。通路は庭に面していて、高めの樹木なども植えられている。
そこから狙って当てられたようだ。 
投げて寄越した者の姿はない。
その丸めた紙片を開いた。

『リリーは神官に捕らえられた。気を付けろ』

これは何だ?
ムハンマドの血がざわめいた。
ムハンマドの知る中で、リリアスをリリーと呼ぶのは二人だけである。
バードかバーライトだ。
恐らくこれはバードからの知らせだった。

急いで部屋に戻り、リリアスの置き手紙をみつける。
リリアスはパリスの町に出かけ、親衛隊のバラーも付いているが、何か不測の事態が起こっているようだった。
ムハンマドには手助けが必要だった。
神官はルージュ王子支持を打ち出したことを聞いている。
この件はルージュに関係があると確信する。
では、助けになってもらえるのは、カルサイト第一王子。
ムハンマドは引き返し、先程まで一緒だったカルサイトを探した。


パリスのカフェで。
顔に傷のある男は、ギラリと睨んで飛びかかってきそうな勢いだったが、リリアスを追って出ていく。
ルージュはしばらく二階のベッドで、仰向けになっていた。
少しひとりで頭を冷やす時間が必要だった。

染み入ってくる認識。
リリアスは自分の意思でルージュから離れたということ。
自分の内側にある、もう一人の激しい気性の自分と戦う。

この自分はいつから存在していたのだろう?自分のようでどこか違う。

本来の自分は、
(王位を兄に譲って、王族と関係なく自由に生きたかったのではなかったか?)
と思う。

奪われたリリアスを取り返すと決意した頃かもしれなかった。
結んだ約定の強制力を利用しようとした。自分が次期王になれば、当然リリアスは自分のものになる。
約定とはそういうものだった。そういう力が働いている。

愛しい者を手に入れるために古の約定を利用せよ!と自分の中の、激しいそれが駆り立てる。

ルージュにはもうひとつ、約定で得たものがあった。
肌身外さず持っているもの。
それは、小さな袋にジャラっと入っている、人さし指大の色とりどりの宝石だった。

12個のつぶ。

これを樹海の民の神官長が差し出したときは首にかけていたが、ネックレスは好きではなかったので、ルージュはバラバラに取り外している。

煌めく宝石。

ルージュは宝石に関心がないので、それぞれの名前はわからないが、宝石のなかではひとつひとつが非常に大きな、混じり気のない高品質な結晶だと思う。
ひとつひとつが国庫一年分ぐらいにはなる、輝石だという。
リリアスがいない寂しい夜によく眺めたものだった。

(これも、わたしには不要になるかな)
ルージュは思う。

リリアスと直接話をして、自分の中にざわめく強いものはまだあるが、ひとつ区切りができたような気がした。

ルージュはカフェの一階に降りる。
彼の間者のバードが待っていた。

(逃げられたね)

バードはルージュの耳元に風を使って直接話しかける。
バードとの間にはバードが自分から離れていた間のことをすべてを話さないために亀裂が生じている。

バードは皮肉な表情を浮かべている。
バードはルージュのリリアスに対する執着に、良い感情を持っていない。

「嫌みを言いに来たのか?」
不機嫌に返す。

(あなたの手からこぼれ落ちた宝石が、しょうもないセフレに、闇の奴らに売られたぞ?
すぐに神殿に引き渡された。どうする?)

「なんだって!?」
ルージュの顔色が変わる。
神殿の奥では、公には決してできないことが行われていた。

「ゲーレンの所にいく」
と言って少しの間を取る。
意を決して云う。

「ムハンマドにも知らせてやれ」

ルージュにそういわせたのは何だったのか。
パリスの奥深くに巣くう闇からリリアスを助け出す、保険のようなものだったかもしれない。
ルージュはもう、リリアスを諦める区切りをつけるべきときが来ているのがわかっていた。




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