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獣人の国の王子
9、森で拾った少年
しおりを挟むリリアスは、授業後にお気にいりの時間ができていた。
他の生徒も銘々、校内の課外活動や趣味の集りに参加している、自由に過ごせる時間だった。
リリアスの騎士のアルマン、トム、ハンクスは体術競技の課外活動に参加している。
型をお互いに取りながら、正確さ、強さ、美しさを競う競技だ。
それを聞いたとき、リリアスは冗談だと思った。
「最初の日、皆一撃でやられたのに体術のクラブって、、、」
三人はそれぞれ、顔を赤くして言い訳をする。
不意うちだったとか、抵抗を忘れたとか。
あの日の敗北は彼らの人生を変えるほど、深く刻まれていた。
「おまえの色気に参ったんだよ!?王弟以外に振り撒かないでくれ!ガードする方も大変なのだから」
とアルマン。
その言葉通り、リリアスは独りで学内を動くことはない。
それぞれ、1発でリリアスに敗れたとはいえ、本来は強さにおいても一目置かれるものたちである。
リリアスのお気にいり時間は、王立図書館に行くことだった。
それは、王宮の森と隣接する、王都国立の敷地内にあった。寮や校舎から5分ほど離れた所にある。
図書館の時は、同行の騎士はこころえたもので、自分も図書館での勉強時間と割りきっている。
図書館は外部の者も利用できる仕組もあるようだった。
高等科の専門性の高いものにも対応でき、国内外の様々な文献が集められているようだった。
中には、閲覧するのに許可がいるものもある。最高許可は王になっているものもある。
はじめは、ハーブや治療系の本類に興味があったが、リリアスは次第に、この世界の秘密を語るような本にひかれていく。
今、読んでいるのは、獣と契約を交わした古い種族の話だ。
精霊に愛されて精霊の加護の力を人は持つようになったように、その古い種族は、獣と愛を交わして、その力を得たのが始まりだという。
ずっと南の国、みどり、赤、オレンジ、黄色の原色が溢れるジャングルに守られた王国がある。
危険な野性動物や爬虫類や昆虫なども多いため、人の侵略の手が入らず、古いものを残しているという。
(まるで樹海の森の民のようだ)
リリアスは思ったのだった。
今日はアルマンが付き添いの日であった。
広大な学校敷地内の端にある図書館の棟から部屋に帰る途中で、小競り合いを目撃してしまう。
「アルマン、あれ、、、」
大きな体の中等科の学生が、小柄な男子生徒をいじめているようだった。
交代で殴る、蹴る、こずく、頭をつかむ。
「ひどいな、、」
アルマンは、かかわり合わないのが得策と判断する。
ああいう苛めは、割合、日常茶飯事で行われているともいえる。
関わらないでいこう、と言おうと思ったときには、リリアスは駆け出していた。
「多勢に無勢って、どういうこと?卑怯だと思わないの?」
アルマンは焦る。
リリアスが、正義感に溢れた人だとは思っていなかったのだ。
突然の乱入者に、学生たちは手足を止めた。
「なんだ、おまえはーー!」
といいかけて、リリアスの黒髪とその後ろに控えるアルマンに気がつく。
「王弟の、、」
仲間が袖を引き合う。
「今日はここまでにしておく!続きはまた明日でもしようぜ!!」
と言い残して、彼らは笑い声と共に寮へ駆けていく。
残されたのは、鮮やかな金髪の背中を丸めて地面で震える、小動物のような小柄な学生だった。
ちいさな嗚咽をあげている。
アルマンは既に厄介事に巻き込まれたことを理解していた。
「大丈夫?あいつら行ったよ」
リリアスはそばにより、肩に手を置いた。
シャツは蹴られたり、転がされたりで泥だらけで、破けているところもある。
しばらく待っていると、顔に張り付いた金髪を撫で上げもせず、のろのろと立ちあがった。
「助けてくれてありがとう、もういいのでいってください」
「でも、その格好じゃあ、、」
リリアスはためらった。
優しさにいらっとして、金髪の子はきっと顔をあげた。
眼にくやし涙が溢れていた。
「僕をほっておいてください!!もう、いいのですから!」
アルマンは直ぐに異国人だとわかる。
明るい金髪、金茶の眼、ソバカスが散らばった顔。
記憶によれば、彼はブロシャン国の王子だったのではなかったか?名前はズィンだったか?
ただ、彼はとりたてて存在感がなかった。
アルマンが記憶をたどる間、リリアスは彼の外見に衝撃を受けていた。
金色の髪、金茶の眼、まるでそれは、
「シャーだ、僕の豹がなんでここに?」
豹という言葉に、ズィンは反応したように、アルマンは感じた。
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